ボク解雇される
今日は訪問修理の依頼もなく、ボクとシュンさんは二人で道具の清掃や整理をしながら店番をしていた。
いい機会だと思ったのでボクは、まずは先日の魔法使いの襲撃については触れず、ただ、身を守るために何か持てる物はないかとだけシュンさんに尋ねてみた。
「武器になりそうな道具だって? そんなもんねーぞ。」
聞くと、この街は特に教会に勤める兵士たちの力が強く、彼らが全面的に治安を維持していて、逆にそういう物騒な物を持っていると危険人物として目をつけられてしまうということらしかった。
「なんでまたそんなこと考えたんだよ?」
「実は、この間の遅刻した日、魔法使いの女の子に襲われて……。」
「襲われた? 魔法使いに? お前、何したんだ?」
シュンさんは読んでいた本を机に置いて、信じられないという顔でボクを見た。
「魔法使いって何なんですか?」
「……何って、魔法使いっていうのはな。東の国の国家が認めた資格だよ。でも普通は、魔法使いであっても中央王国の人間には手を出さないはずだぜ。」
「中央王国の人間?」
「……いや、お前。……ウソだろ?」
ボクの無邪気すぎた返答を聞いたシュンさんは眉間を抑えてぎゅっと目を瞑り、何か考えごとをしだしてしまった。
少しの沈黙が店の中を漂う。
「薄々おかしな奴だなと思っていたが……、物を知らなすぎるなとも思ってはいたが……、嫌な予感がしてきた……。」
シュンさんは何かブツブツ言っていたが、急にボクを見て聞いた。
「リョウ……お前、中央王国の出身じゃねーの?」
「え、はい。中央王国はこれから行きたいと思ってるけど行ったことはなくて……。」
「でもお前、憑依者だろ? 憑依者って言えば中央王国の教会で生まれて、中央王国の身分を与えられているもんだろ!?」
「えーっと……身元の証明、持ってないです。」
「マジかよ!? ああ……。俺はてっきり……、憑依者なら身元は確かなものだと……。」
あれ、もしかして……、隠してなきゃいけなかったのだろうか?
シュンさんが立ち上がって、ボクの方にゆっくり近づいてくる。
シュンさんの表情は何か弱り切ったような顔になってしまっていて、ボクに申し訳なさそうにこう言った。
「……悪いな、リョウ。元はといえば俺の早とちりだったわけだが、身元を証明する物を持ってない人間を雇うわけにはいかないんだ。俺もこの街での生活があるんでな……。今まで働いてくれた分の金は渡すから、……店は辞めてくれないか。」
「そんな……。」
ボクはショックで動くことができなかった。
シュンさんがボクの目の前にお金を置いた。
「リョウ、お前が悪い奴じゃないのはわかってる。だがな、これがこの世界のルールなんだよ……。」
食い下がってもきっと決定は覆らないと思ったし、シュンさんに迷惑をかけるのも嫌だった。
ようやく立ち上がることができたボクはフラフラと店を出た。
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