描いて読む絆

春嵐

描いて

 彼が、また漫画を投げ飛ばした。


「だから違うんだっつの。やめてくれよ。違うんだよそれは」


 散らかった部屋のなかに、漫画が消えていく。またひとつ、彼の部屋の雑物が増えた。


「なんでさあ、どうして、整合性を取らせるためのコマと台詞を入れるのかなあ。違うんだよ。そういうんじゃないんだよ」


 彼は、一度こうなるとしばらく止まらない。


「整合性なんていいんだよ。誰も気にしないよ。言葉狩りなんて求めてないよ。違うんだよ」


 彼の違うんだよは、なんというか、本当に真に迫った感じがして好き。本当に違うみたいに聞こえる。


「よし、できた」


 彼の部屋で彼の、この言葉を聞いていると、とにかく仕事がはかどる。


「じゃ、行ってくるね」


「お、そうか。もう行くのか」


 彼が、こちらに向き直る。


「おまえならきっとできるよ。大丈夫。落ち着いていけ」


「うん」


 これだ。


 このギャップが好き。あれだけ違うんだよとか言ってたのに、私のことになるとやさしい言葉をかけてくれる、これが最高に好き。


 よし。行くぞ。

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