⑩ 思考はネジとなり脳を穿つ




***




 アハハハハハ!


 アハハハハハ!


 アハハハハハ!


『すごいすごいすごい! 壊れてるのにそんなに動けるなんて! さすが、ぼくの先代! 尊敬と驚嘆に値するよ!』


 アネモイ2のテンションは荒れ狂う嵐の様に勢いを増す。


 恭介は耳を抑え、全力で思考しながら戦場の情報を理解しようとした。


 ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!


 ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!


 ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!


――痛い、バカみたいに痛い! 頭の中でネジが走り回ってるみたいだ!


 ココミのテレパシーと繋がり二分。脳を走り狂う頭痛の勢いは加速し、思考を痛みが支配し始めていた。


(テレパシーを外す?)


――冗談言うな!


(そう。私は早くあなたとの繋がりを消したい)


――ごめんねぇ! でも従って!


 ココミの言葉に悪態を思考しながら、恭介は右眼を開き、ココミとほとんど抱き合った体勢のホムラを見た。ホムラは険しい顔でココミを守る様にアネモイを睨みつけていた。どうやら、恭介がココミとテレパシーで繋がっている事実はまだバレていない様だ。


――バレたら腕折られるかもな。


 ゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!


 ゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!


 ゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!


 竜巻の竜を従えてアネモイ2とアネモイは気象塔を中心にグルグルと回り続ける。


 気象塔から半径一キロ圏内が戦闘域だった。


――ホムラはもうPSIが使える筈。


 恭介は使える手札を試算する。最後の号令にはホムラのPSIが必要だった。


 既に発動を止めてから五分が経過している。問題は無い。


 再び右眼を閉じ、恭介はアネモイの眼を通して気象塔の姿を見た。あそこに清金達が居るはずだ。


――ほんっとに割に合わない。


 何故、ハカモリになど勤めてしまったのか。理由は合ったけれど過去の自分に怒りを覚える。


 もう少し、マシな選択があったのではないか? もっとまともで、安全な選択が何処かにあったのではないだろうか?


――考えてもしょうがないか!


 意味のない思考だと恭介は現実逃避を止めた。


 気象塔へと意識を向け続ける。合図があるのはあそこからだ。


 立てた作戦通りならば、気象塔の何処かに京香達が居るはずなのである。


 ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!


 ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!


 恭介の頭の中でアネモイ2とココミの二体のキョンシーの思考が混ざり合う。


 それはさながら白い紙に絵の具を垂らしていく様な物。滲んでいく複数の色が混ざり合い、混濁した色へと変わろうとしていく。


 ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!


 ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ!


 思考をすればするほど頭痛が増していく。しかし、止めてはならない。ここが恭介の生命線なのだ。


『よーし! ギロチンはどうかな!』


 アネモイ2が巨大な風のギロチンを生み、アネモイとセリアの胴を分断せんとその刃を放った。


『壊して!』


『Oれ』


 しかし、その刃は巨大なハンマーで叩き落される。


 アネモイは即座に反撃した。


 グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル!


 グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル!


 グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル!


 雨雲より現れたのは巨大なハンマーの嵐だった。


 槍や刃と言った刃物系統が中心だった先程とは打って変わった鈍器の嵐。


 それらは噛みつき合うトルネードの竜を破壊して恭介達を振り下ろされる。


 風という空気の塊である筈なのにその大槌には純然たる重さがあった。


 アネモイ2はハンマーを防ぐ様に空気を固めた壁を作り出すが、氷菓子の様に叩き割られた。


『あ、これは壊せないね!』


『避けろ!』

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