札憑き・サイコ・エンバーミング～死者蘇生が普及した世界で～

③ アネモイ

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　アネモイ。ギリシャ神話において風の神を意味したこの名前を現代キョンシー社会で知らぬ者は居ないだろう。

　分裂と統合を幾度も繰り返したヨーロッパ連合がそのキョンシー技術の粋を結集して作ったキョンシーの大傑作。それがアネモイだ。

　アネモイは世界で五体しかいないＡ級ＰＳＩキョンシーである。三大ＰＳＩの一つエアロキネシスを操り、その出力はＡに分類される。

　だが、アネモイの最も有名な点は操作性であった。アネモイは世界で唯一、操作性がＡ級に分類されると認められているキョンシーなのだ。

　世界で最も強い出力を持った風を世界で最も精密に操れる、まさに風神。

　アネモイというキョンシー一体によってヨーロッパ一帯の天候は常に管理されている。

　雨が必要ならば必要な分だけ降らせ、雲の厚さも思いのまま。風向きさえも地域ごとに区分けして管理されているという噂だ。

　アネモイによって人間が最も快適に暮らせる環境がヨーロッパ全土に広がり、ヨーロッパは世界で最も幸せな場所とさえ表現されることもある。

　更に、アネモイの開発によってヨーロッパは面積当たりの農作物畜産物出荷量で世界ダントツ一位に躍り出た。

　まさに現代ヨーロッパの屋台骨。折れては成らぬ大黒柱。それがアネモイというキョンシーだ。アネモイが開発されて五十年。これまでもこれからもヨーロッパはアネモイを使い続けるだろう。