NERO -過去の捜索-

山葵

1.NERO

灰色のコートを着てレンガの道を歩き抜けていく。

正午の街、コーヒー豆のこうばしい香りと焦げるようなパンの匂いが立

ち込めていた。

ひんやりとした裏路地に入り、葉巻をふかした。



 大路地に出てから太陽の跡を追うかのように、西へと去る。

オリーブ色の扉を開けて自宅へと戻ると、アンティークコートハンガーに

帽子を掛け、ベッドにコートを放った。

ワインレッドの革の張られたソファーに腰掛け、葉巻をカットし火をつける。

照明のついていない奥の寝室はただならぬ気配の感じられる薄暗さである。

髪をかき上げ、ソファーに横になると煙を吐き出した。葉巻の灰を落としてまた、

口へと運ぼうとする。


「いや、やめておこう」

彼は葉巻を水槽に投げた。ソファーから起き上がりコートと帽子を取る。


「葉巻の吸いすぎは体に悪いしな、それに・・・」北の窓をのぞいて舌打ちした。


「これはまずいな...」窓の下には無数の黒い影がうごめいていた。


二歩下がったかと思うと、東のはめ殺しの窓に体当たりし、ガラスの破片を撒き

散らしながら二階から飛び降りた。

よろけながらも着地し、額から出た血を拭った。


無数の足音を聞きながら沈みゆく陽に背を向けて東へと走り出した...。


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NERO -過去の捜索- 山葵 @idolmasapi

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