第29夜 ちょ、母ちゃん! 勝手に俺の部屋掃除すんなよぉ!

 皆さん、こんばんは。

 枕崎まくらざき純之助です。

 ご無沙汰ぶさたしております。

 最近、すっかりサボり気味の『Pillow Talk』を久々にお届けしたいと思います。

 というか新年一発目ですね。


 あけましておめでとうございます。(1月29日……)

 今年もよろしくお願いいたします。(もう一ヶ月終わっとるわ)


 さて、今夜は青春時代のっぱい思い出の話をしましょうか。

 え?

 甘酸あまずっぱい思い出じゃないのかって?

 いえ違います!

 っぱい思い出です!

 ちっとも甘くありません!



 実はね、中学1年の時、同じクラスの女子から誕生日プレゼントをもらったことがあるんですよ。

 こんな僕ですが、昔はそんな青春の1ページもあったのです。 

 どちらかというとニブチンの僕ですが、さすがにその女子が向けてくれる好意はうっすらと感じておりました。


 ですが恋はいつも一方通行の片道キップ。(何のこっちゃ)

 大変申し訳なかったのですが、僕はその女子のことはただの友達としか思っておりませんでした。

 そんな女子からもらった誕生日プレゼントは目覚まし時計。

 確かピーターラビットか何かのかわいい時計だったと思います。


 せっかく選んでくれた物なので受け取りましたが、それによって僕の気持ちが変わることもなく、僕はその目覚まし時計をもらった日に押し入れにしまい、一度も使うことはありませんでした。

 え?

 鬼かって?


 いえ、違いますよ。

 僕は恋愛沙汰ざたに対してはマジメだったのです。

 お付き合いするつもりのない女子からもらったプレゼントを使うのは不誠実だと考え、その目覚まし時計をお蔵入りにしました。

 で、それから数日後のことです。


 僕が学校から帰る途中、何やら気配を感じて後方を振り返ると、2名の女子がこっそりと僕を尾行びこうしていました。

 それは先日、僕に時計をくれた女子が普段仲良くしている別の女子2名でした。

 いわゆる仲良し3人組の残りの2人です。


 僕は何やら嫌な予感がして家路を急ぎます。

 いや、中学生くらいの女子って妙に連帯感が強くて、友達の恋を必要以上に応援したりすることあるじゃないですか。

 プレゼントをくれた女子にはその後、僕は何もアクションを起こすことなくスルーしていました。

 別に告白とかをされたわけじゃないので、こちらから何かを言うこともないと思っていましたし。

 それもあってその女子の友達2人が僕に「あの子のこと、どう思ってんのよ」的なことを言いに来たかと思ったんですね。


 それを回避すべく僕はさっさと家に入りました。

 ふぅ。

 これで一安心。

 手を洗って、キッチンで冷蔵庫から冷たい飲み物を出して一息つきます。

 その時、僕の部屋のある方向から何やら女子がキャッキャと騒ぐ声が聞こえて来て、僕は胸騒ぎを覚えました。


 前回の『第28夜:怪奇! 深夜のゾーキンがけ男!』でもお話ししましたが、僕の実家はマンションです。

 昔ながらのマンションなのでもちろんオートロックなどありません。

 外部からいくらでも人が入り放題のノー・セキュリティー・マンションです。

 ワイルドだろぉ?

 そして僕の部屋はマンションの通路側にあり、窓が開いていると通路を通る人から部屋の中が丸見えなのです。

 ノープライバシー・ノーライフですよ!


 そして外から聞こえてくる女子の声の感じからすると、まさか……。

 窓が開いている?

 僕は急いで部屋に向かいます。

 すると……まんまと部屋の窓が開いていました。

 そして走り去っていく女子2人の足音の中に僕はハッキリと彼女たちの声を聞いたのです。


「両想いだったんじゃーん。クスクス……」


 は?

 おい女子たち。

 何をトチ狂っていやがりますか?

 そう思った僕は窓際に置かれている自分の勉強机の上を見て我が目を疑います。


「……はっ? えっ? 何で?」


 朝、学校に行く前までとっちらかっていたはずの僕の机は、いつの間にか綺麗きれいに片づけられていて、すっかり整理整頓せいりせいとんされています。

 そして……信じられないことに例の目覚まし時計が机の上に堂々と飾られているではありませんか!


 な、なにぃぃぃぃ!

 なぜだ!

 目覚まし時計が机の上に飾られている!

 押し入れにしまいこんでいたはずの目覚まし時計がなぜ!


「ハッ!」


 そこで僕はこの謀略の真犯人にすぐに思い当たりました。

 母です!

 皆さんも心当たりがあるかもしれませんが、散らかしたままの部屋を親に勝手に掃除されるってこと、ありますよね。

 いや、まあ片付けない自分が悪いんですし、片付けてくれる親には感謝しかないんですが。


 それにしたってこの最悪のタイミングよ!

 ここで発動するトラップとか俺を殺す気か!

 羞恥しゅうちのあまりに僕は叫びました。


「ちょっ……母ちゃん! 勝手に俺の部屋掃除すんなよぉ!」

「何言ってんの! いつまでたっても自分で掃除しないからでしょ!」


 いや母上。

 おっしゃることはごもっともですが、それにしたってなぜ時計を飾る!

 あなたの息子がなぜこの目覚まし時計を押し入れにしまっておいたかお分かりか!

 おかげで僕は偵察隊の女子たちにとんだ誤解をされてしまうことになったのですよ!

 今頃、彼女たちは僕に目覚まし時計をくれた女子に嬉々として報告していることでしょう(泣)。


「お、終わった……」


 僕は頭を抱えて途方に暮れるのでした。

 翌日。

 その話はおそらくクラスの一部には知れ渡っていたことでしょう。 

 男友達から両思いだと思われてからかわれるし、女子3人組からは妙な期待の眼差まなざしで見られるし散々でした。


 もちろん言いませんよ。


「あ、あれは母ちゃんが勝手に飾ったんだからな!」


 なんて言い訳するのもカッコ悪いですし。

 

 仕方なくほとぼりが冷めるまで僕は徹底してその女子とは距離を取り、中2になってクラスが変わる頃には妙な雰囲気ふんいきもすっかり消えていました。

 以上が僕が青春時代に経験したっぱい体験でした。

 なにぶん昔のことなので、その後その目覚まし時計はどうなったのか忘れてしまいましたが、使わずにおいたのでおそらくどこかの段階で捨てたのでしょう。

 

 せっかくプレゼントをくれた女子には大変申し訳なかったのですが、彼女も「枕崎まくらざきは打っても響かない男だったわね」と愛想を尽かし、次はもっと期待にこたえてくれるやさしい男子を好きになったことでしょう。

 青春はすれ違いの連続ですからね。


 さて、そろそろ夜もけてまいりましたね。

 今夜はこの枕崎まくらざきの恥ずかしいことだらけの青春のほんの1ページをご紹介しましたが、皆さんにも青春時代のっぱい思い出は色々とあるでしょう。

 僕は母のおかげで恥ずかしい思いをしましたが、それだって自分の責任です。

 勝手に部屋を片付ける母に文句を言う前に自分の部屋は自分で片付けましょう。


 でも母ちゃん。

 まんまと目覚まし時計を飾られたのは一生忘れられない思い出です。

 今度母に会ったら久しぶりにその話でもしましょう。

 案外もう忘れてるかもしれませんが。


 では、おやすみなさい。

 今宵こよいもいい夢を。

 またいつかの夜にお会いしましょう。

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