第4夜 ガチで死ぬかと思った話

 こんばんは。

 枕崎まくらざき 純之助です。

 焼きイモのおいしい季節になりましたね。

(*この原稿を書いている時は12月でしたスミマセン)

 糖度の高い焼きイモって最高ですよね。

 ただ、食べているとお尻から変なニオイのするガスが出てくるのが困りものです。

 これさえなければもっと最高なのに。


 ところで皆さんはガチで死を意識した瞬間ってありますか?

 僕はあります。


 僕は毎年12月になると、ある恐ろしい事件のことを思い出すのです。

 そう。

 あれは空気が乾燥した12月のよく冷えた朝のことでした。


 当時22歳だった僕は1Kのアパートで1人暮らしをしていたんですが、その頃、夜22時から翌朝6時までのアルバイトをしていました。

 毎晩21時過ぎくらいに家を出て、翌朝7時前くらいに帰宅するという生活です。

 その日、帰宅して玄関のドアを開けた僕はすぐに異変に気が付きました。


「な、何だ……このニオイ?」


 家の中が異常にクサイのです。

 それも普段あまりぎ慣れない強烈なニオイです。

 あまりのことに驚いて玄関に立ち尽くした僕の耳に、奇妙な音が聞こえてきます。


 シュ~……


 こ、この音なに?

 僕はすぐにその正体に気が付きました。

 そして凍りつきました。


 それは玄関入ってすぐのキッチンに置かれたガス台から聞こえてきたのです。

 当時はおなじみの黒と赤のガス栓とホースを繋いで使っていたガス台なのですが、ホースを繋いでいないほうの赤いガス栓からガスが漏れていました。

 そう。

 強烈なそのニオイは部屋の中にガスが充満していたニオイだったのです!


 普段から使わないので触ることのない赤いガス栓がなぜかひねられていて、そこからガスが漏れていました。

 もちろんガス探知機などないので警報が鳴ったりもしません。

 充満したガス臭の中、ガス爆発が頭をよぎり、ドアを開けたまま僕はその場で動けなくなってしまいました。

 と、とにかくガス栓をひねってガスを止めないと!

 そう思い、僕は緊張と恐怖でガチガチになった体を動かしてガス台に手を伸ばしました。

 そして恐る恐るガス栓を閉めたのです。

 

 ふぅ。

 とりあえずこれで、これ以上のガス漏れは防げました。

 ですが部屋の中に充満したガスのニオイは簡単には消えません。

 僕はとにかくドアを開けっ放しにしたまま、寒空の下で待ち続けました。

 ガスが部屋から抜けてくれるのを。


 寒さに耐えて外で待ちながら僕は、ガス台に手を伸ばした時のことを考えてゾッとしました。

 空気の乾燥した12月ですから、静電気など簡単に発生します。

 もしバチッと火花でも散っていたらと思うと、全身にどっど汗が噴き出してきます。

 

 そして、もっと恐ろしいことに思い至りました。

 当時の僕は喫煙習慣がありました。

 あの頃はまだ歩きタバコに寛容な社会でしたので、僕はよく仕事終わりの駅からの帰り道にタバコをふかして帰りました。

 口にタバコをくわえたまま玄関に入ることも日常茶飯事です。


 だけどこの日は運の良いことに、途中でコンビニに寄ったため、コンビニの灰皿にタバコを捨てて、そのまま家に帰って来ていたのです。

 もしくわえタバコのまま玄関をくぐっていたら……想像したくもないです。

 どの程度の火気でガス爆発が起きるのか分かりませんが、僕は一つ間違えば死ぬかもしれない危険な状況にあったということです。


 冷や汗が体中にまとわりつきます。

 良く冷えた朝でしたのですぐに汗が冷えて僕はブルブルと震えました。

 寒さと恐怖の両方にさいなまれながら僕はひたすらにガスが消えるのを待ちました。

 

 待ち続けること30分。

 恐る恐る部屋の前に立つと、ようやくガスのニオイは消えていました。

 だけどここからがまた恐ろしいミッションの始まりです。

 玄関のドアは開け放ったままソロリソロリと部屋の中に入り、キッチンと居間を仕切る横開きのガラス戸を開きます。

 そして居間の窓に歩み寄り、窓を開けて雨戸を開きます。


 静電気が起きないことを祈りながら僕は1つ1つの作業をじっくりと行いました。

 赤外線センサーに引っかからないように侵入するル○ン三世のようですが、ル○ンのような余裕はありません。

 恐怖ですくみ上がりながら僕は窓を開け放ち、換気を強化しました。


 玄関から居間へと一直線に風が通り、部屋の中が恐ろしく寒くなります。

 だけど僕はそこから再度30分の換気を行いました。

 どんなに寒かろうがガスのニオイを少したりとも部屋の中に残したくなかったのです。

 そして鼻の穴を全開にしながら部屋の中をくまなくぎ回り、ガスが残っていないか確認をして、ようやくドアと窓を閉めました。


 疲れ切って居間にへたり込みましたが、とてもタバコを吸う気にはなりません。

 そして僕はガス台の前に立ち、なぜ使っていないほうの赤いガス栓が開いていたのか悟りました。

 ホースに繋いで使っていた黒いほうのガス栓が開いたままになっていたのです。

 もちろんこちらはホースでガスコンロに繋いでいますので、ガスは漏れません。


 僕はいつもアルバイトに出かける前に安全のために黒いガス栓を閉めていくのですが、その前の夜は黒いガス栓を閉めたつもりで、あろうことか使っていないほうの隣の赤いガス栓を開いてしまったのです。

 僕はおろかにも自分でガス栓を開いてアルバイトに出かけ、夜の間中、ガスは漏れ続けて部屋の中に充満したのでしょう。


 今度は別の意味でゾッとしました。

 賃貸アパートでしたから、ガス爆発なんて起こしたら大家さんにも隣人の方々にも大変な迷惑をかけてしまいます。

 そんなことにならずに本当に良かったと思います。

 

 今にして思えば、ガス漏れを悟った時点で家を離れ、すぐに110番をするべきでした。

 そんなことも思いつかないほど動転していましたが、たとえ大ごとになっても自分で対処するよりプロに任せるべきなのです。

 このように僕は色々と手順を間違ってしまいましたが、幸運が重なり、命拾いをすることになりました。


 ずいぶん昔のことですが、この一件は今思い出してみても怖くなります。

 幼い頃は「ガスって何だかいいニオイだよなウヘヘ」とか思っていた馬鹿な子供でしたが、この一件があってからガスのニオイが大嫌いになりました。

 東〇ガスにも絶対に就職しないと心にちかいました。

 (そもそも採用されない) 


 皆様もガス漏れには注意して下さい。

 眠る前にガスの元栓をチェックするのを忘れずに。

 以上、ガチで死を意識した瞬間の話でした。

 

 おやすみなさい。

 いい夢を。

 僕は焼きイモを食べすぎたせいでお尻がガス爆発しそうです。


************************************


 お読みいただきまして、ありがとうございます。


 自分で下手な対処をせずにすぐに110番をするべきだったと書きましたが、実はこの数か月後、別件で僕は本当に110番をすることとなったのです。


 その話はいずれまた。

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