第1章「城塞都市」6



「ここの兵士、よく訓練はされてるけど実戦経験無さ過ぎだろ。慌てるだけなら素人でも出来る」

 目的地――中央塔に走りながらルークは言う。

『昔から“城塞都市”って噂だけが独り歩きしてた場所だからな。誰も攻め込まなかったら、自然とこうなるだろ。お前好みの“傷の無い綺麗な”奴いっぱいいるか?』

「ああロック、みんな全然綺麗だよ。だから、“持って帰る”」

『変態が。持って帰るのは自由だがな、その為に自分の持ち場を逃走経路ど真ん前にするのってどーよ?』

「ちゃんと足奪って全員拾ってやるから」

『拾わなかったらケツにマグナムぶち込んでやるよ』

『お前ら良い加減にしろ。ルーク、下っ端も拉致って良いが、最優先は軍の上層部だ。わかってるな?』

「権力で肥え太ったオヤジは趣味じゃねーんだけどな」

 仲裁に入ってきたクリスに返していると、ルークは背後に爆風を感じた。

 武器庫の爆破は上手くいったようで、沢山の爆薬に引火した末の爆炎は、激しいオレンジ色を振り返ったルークの目に焼き付けた。ルークは満足げに笑い、そのまま足を進める。

 それぞれの建物の間は屋外を進むことになる。ロックのおかげで敵の狙撃は心配ないが、一応注意して走る。すぐに地上十二階、地下二階の大きな建物である中央塔が見えてきて、ルークは素早く側にあった機械の山――ロックが撃ち抜いた機械達だ――に身を隠す。

 ルークが隠れた一瞬後に、機械の山を激しい銃撃が襲った。音からして明らかに機銃が混ざっており、ルークは思わず舌打ちする。

 ロックが片付けた死体が銃弾によって粉々に飛び散る中、ルークはそっと相手を確認。

 常時中央塔に警備を集中していたのか、一つしかない入り口のあるこの場所には、ざっと見た限り五十人程の兵士が展開していた。

「一人じゃ短時間の突破は無理だ。合流まだか?」

『ルーク待ってろ。すぐ行く』

 ロックがすぐに応答する。彼が狙撃ポイントを確保するまでは動けそうにない。

『俺ももう少し待て』

『お前らみんな正面から突っ込むのか? 私は地下から別ルートで向かうぜ』

『俺とルークとロックで正面から順番に制圧する。レイルは最上階――ラボを一気に叩け』

『りょーかい。科学者は出来るだけ捕虜にする。ルークてめえ、足絶対奪っとけよ』

「わかってるよ。怒鳴るな」

 耳を押さえながら話すルークの目に、兵舎の屋根に登るロックの姿が映る。なるほど、兵舎があそこだから、これだけの短時間に展開出来たのか。

 まるで重力等存在しないかのようなロックの登り方には、いつもながら感心する。彼は今、重力操作は行っていない。空間の歪みは、コツがわかっていれば遠くからでも目視することが出来る。

 重い銃器を背負い、ほとんど腕の力だけで屋上にたどり着いた彼は、数秒で自慢の装備を展開した。敵はまだ気付いていない。相変わらずルークの周りには銃弾が跳ねまくっている。

『射撃援護、いつでもいけるぜ。さっさと突っ込んで蜂の巣にされろよ』

「このドSがっ!! 早く一発目頼む」

 返事より先に大きな銃声が響き、辺りが光に包まれた。レーザーキャノンの二発目を撃ち込まれた敵陣は、その半数が巻き込まれ吹き飛んだ。弾丸というよりは熱の塊に近いそれに合わせて、ルークも瓦礫から飛び出す。

 派手な光には慣れている。ルークは両足のホルスターから二丁の拳銃を取り出すと、それぞれを左右の手に構えた。左右造形の異なる拳銃は、クラシカルなデザインで統一されている。

 冷静に残った敵に射撃を浴びせながら、ルークは入り口に向かって走る。銃撃によりひしゃげたシャッターの先には、上に上がる為のエレベーターがある。その瞬間、ルークは背筋に冷たいものを感じた。

 明らかな殺気。

――どこだ?

 周りの人間はあらかた殺し尽くした。生き残ったとしても、ルークの背後の敵をロックが見逃すはずがない。彼もまた、ルークの少し後ろについて警戒しているからだ。

 反射的にエレベーターに目をやる。稼働中であるそれは、ゆっくりと下に――こちらに向かって降りてきている。

 ルークは急いで辺りを見渡す。遮蔽物になるような物は何もない。気持ちばかりが焦る。

 一瞬の、永遠のような時間を掛けて、エレベーターは到着した。機材も運べる大型の口が滑るように開く。

 その中から室内から出て来たとは思えない大型車が現れた。見事なハンドリングでエレベーターの前に横付けする形になる。軍用トラックで、荷台に積まれた固定銃座が、こちらをじっと狙っていた。

 銃口と目が合い、ルークの身体が瞬間的に硬直する。後ろでロックが慌てて敵の機銃の陰に隠れたのがわかった。

――マズすぎる!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る