百合に男は必要ないッ‼
朝霞 敦
第一幕 百合に男は必要ない
第1話 百合に男は必要ない①
「ぼ、僕と、付き合ってくださいッ!」
クリスマスを間近に控えて浮ついた空に、僕・
不運なことにそんな僕と冬の寒風の吹く屋上に二人っきりになってしまった美少女・
あぁ、これは断られるな。
今回が初めての告白だったけれど、それくらいは分かる。御形さんくらいの品行方正で成績優秀、そんでもってこんな僕のも愛想をふりまいてくれる完璧な美少女の告白を断る文句なんて決まってる。
「ごめんね、亞生くん。私ね、彼女がいるの」
そうそう、彼氏いるに決まってるよね……、え?
今なんつった?
「ふふ、そう。彼女いるの、私」
声に出てたし。
「たぶんフラれてパヨってるから、聞き直すけど。彼氏が、いるんだよね?」
「いいえ、『彼女が』いるの」
「それって、『
「そういうこと」
ショックだった。
僕の人生初めての告白が失敗に終わったことももちろんショックに違いなかったのだけれど、どちらかというと、御形さんにはお付き合いしている方がいて、その人が女性だってことだ。それが僕には恐竜を滅ぼした隕石並みの規模のショックだった。
そして、それを容易く覆す衝撃の言葉を、彼女は言ってみせた。
「でも亞生くん可愛いし、OKしちゃう。『彼氏』としてじゃなくて、『ペット』として、ね」
時間が止まった。
「……、はい?」
そして、僕が吐いたのはさっきよりも間抜けで、勢いも何もない、ただ茫然とした心から漏れた搾りカスのような返事だった。
◇ ◇ ◇
さて、ここいらで自己紹介でもしようか。
僕の名前は四月一日亞生。4月の1日に防寒具として着物に詰め込んだ綿を抜くことから由来する富山県に多いこの珍妙な苗字を除けば、何も変わり映えのないつまらない名前を持ったただの男子高校生だ。
身長170センチ、体重61キロ。4月7日生まれの17歳、高校二年生。
普通の家庭に生まれ普通に育ち、人並みに受験してそこそこの高校に入った。成績は並、文系の割には古典が苦手。運動神経は悪くはないけれど運動部に入るなりクラスの代表になるほど得意なわけではない。強いて言えばボーリングが得意な程度。大学受験もあるし、特段厳しくもない文化部の活動を休み休みにして塾にでも通おうかと考えるくらいには計画的な性格。世間で流行している物はあらかた手を付けるけれど、これと言って定着したことはない。
そんな僕でも、誰に何と言われようと頑として変えないものを持っている。
百合だ。
これが信条なのか、ただの性癖なのか、知ったことじゃあないけれど、一家言が僕にはある。
百合とは花園なのだ。
女の子と女の子が想い合い、好き合い、愛し合うというこの尊い行為と現象は絶対的な不可侵領域なのだ。そこに一欠けらも不純物が入り込むことは許されない。性別を超えた神聖とも呼べるこの関係性はこの世の何よりも正しく、美しいからである。
ベートーヴェンの『第九』も。
ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』も。
オイラーの『等式』さえも。
百合の美しさには遠く及ばず。
ピタゴラスも『地球球体説』よりも。
キリスト教の『聖書』よりも。
ニュートンの『万有引力の法則』よりも。
百合は絶対的で不可逆的な正しさを持っている。
つまり、百合とは……。って、なんかヒートアップしすぎたな。いったん落ち着こう。
要するに、僕は百合に人生を狂わされた『百合男子』ということだ。
そんな僕が目の前に本物の百合を目撃してしまったわけで。心の内は察してもらうまでもなくお祭り状態だった。
「百合……ッ! それも
これが僕の割合を半分占めている僕。
「……、……、尊い」
これが語彙力のない僕。つまり通常運転。
「くそっ… じれってーな 俺ちょっとやらしい雰囲気にして来ます‼」
これがネットミームに犯されて邪になった僕。引っ込んでろ。
「盛り上がってるところ悪いんだけど、僕、普通にフラれたよね。ショック受けてるの僕だけ?」
これが冷静な本来の僕。もはやおまけ。
そんなカオスな僕の中の感情たったけれど、一つ共通して戸惑っている事柄があった。
『御形薺に『ペット』として付き合ってもらう』という事実だ。その時僕は完璧美少女の御形さんが百合であったことの衝撃で幽体離脱していたから不覚にもそれを受け入れてしまった。観葉植物となって百合を観察し続ける百合男子の一人として情けないことこの上ない。
それがどういうことなのか、てんで分からないまま僕は夜を明かし、登校時間を迎えるのだった。
それにしても、全く持って奇妙なことだ。
僕は普通の男子高校生らしく学校のマドンナに憧れを抱いて、約1年をかけて親密度を上げて告白を決行。それを断られたのは良い。それこそ普通の男子高校生が通る道じゃあないか。元々そんな勝算があったわけじゃあないし。OKをもらえば最高だし、フラれればフラれたで仲間内の話題にはなっただろうし。けれど、フラれた先に、御形さんが百合だった事実と、立場こそ不明確とはいえその間に僕という隠れた百合男子(不純物)が混ざってしまうことになるなんて、どう頭をこね繰り返せば予測できるのだろう。
そんな掴みようのないぐるぐるとした考えにふけっている間に、校門についてしまった。
「亞生くんッ、おはよ!」
御形さんが、校門で僕を待っていた。
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