Chapter 12 希望の果て
翌朝、宿から出たアスト達はサイモンの待つ港へと向かった。
そこにはサイモンだけではなくアーチーとバーナードまでいた。
「お前たち……。一緒に来るつもりなのか?」
アストはアーチーに向かってそう問う。アーチーは真剣な顔で答える。
「当たり前だ! 姉さんを救出しに行くんだろ?」
「それはその通りだが……。別に海賊どもを壊滅させに行くわけじゃないぞ?」
そう言ってアストはアーチーたちの姿に呆れる。
アーチーたちは、どこから手に入れたのかガチガチの金属鎧に身を包んで、たくさんの矢を背負っていたのである。
アーチーは初めて聞いたというふうに驚きの顔をする。
「え? 奴らをやっつけに行くんじゃないのか?」
その事に関してはサイモンが口を開いた。
「こっちで入手した情報によると。先のフォーレーンでの戦いによって、ここらの海賊はほぼ壊滅状態……。その兵力もかなり落ち込んでいるという話だ。でも……、されど海賊だ……。ここにいる人数で壊滅させられるほど甘くはないな……」
その言葉にアストが続ける。
「……だから、連中の砦に潜入して、今回攫われた女性たちを目標に救出作戦を行うんだ。今回は、あくまでも救出作戦……、海賊の始末は他に任せる」
「他ってラシドか? 今船は壊滅状態だって……」
アーチーの疑問にアストが歯を見せて笑う。
「……希少なる魔龍討伐士を甘く見るなよ? 今回の侵入作戦は、海賊砦の内部調査も兼ねている。フォーレーンの討伐士組合と連絡を取って、可能ならフォーレーンの兵を動かせるように手配しているんだ……」
「フォーレーン?! まさかあそこが動くのか?」
「ああ……条件付きではあるがね」
「その条件って言うのが?」
「……そう、俺たちが一足先に海賊砦へと潜入し、現状の戦力を詳しく調査してくることさ」
そのアストの得意げな表情に、リディアがあきれ顔を向ける。
「お兄ちゃんってホント呆れるよね……。その事を討伐士組合に打診していたのって、ラシドの前に泊まった町の朝だって言うんだから……。初めから、今回のことにかかわるつもりだったってことじゃない?」
「はは……ごめん……。本当はガノンで姉さんの調査をした後に、今回の作戦を進めようと思ってたんだけど……」
「そういうことを言ってるんじゃないの! 今回の事だって……」
(他の人に任せればいいのに……)
――とリディアは口に出しては言えなかった。
アストは結局はこういう性格なのだ。困っている人がいたら、自分自身で動いて助けないと気が済まない。お人好しでおせっかい、だからこそ自分もそんなアストが好きなのだ。
サイモンは笑って言う。
「あはは!! アスト君って行き当たりばったりに見えて結構用意周到なんだね? その事を昨日聞いた時は驚いたもんだよ……」
その言葉にアストは、
「まあ、海賊なんて潰せるときに潰しておかなければって、以前から考えていた作戦なんだけどね」
そう言って頭をかく。
「だから、今回行うのは海賊砦の調査と、それに追加して今回攫われた女性たちの救出だ……。はっきり言って君たちは足手まといにしかならない……」
アーチーはアストの言葉に悔しげな顔をする。
「一緒についていっちゃダメなのか?」
「ダメだ……それに、お前にはお母さんを守るっていう使命があるだろう?」
「……」
アーチーは黙って俯いた。
「いいかい? ここは俺たちに任せるんだ。大丈夫、必ずお姉さんは救い出すから」
「本当か?」
アーチーがアストの目を見て問う。アストは真剣な表情で答えた。
「本当だ……約束する」
そのアストの言葉にアーチーは頷いた。
「では……準備はいいんだよな?」
そう言ってアスト達に問うのはサイモンである。
「ああ……さっそく海賊砦へと向かってくれ。慎重に、見つからないように、潜入しなければならない……」
そのアストの言葉にサイモンが頷く。
「任せろ……クンナウは小型船だからな……隠れていくには最適だぜ」
こうして、アスト達はラシドの港を出発した。
目標は海賊砦――距離にして半日ほどの行程であった。
◆◇◆
ソーディアン大陸の南部に広がるガルチャー海。そこには小さな群島が存在する。
そこは、昔から南方海賊が拠点を築き、頻繁に海岸線の都市を襲っていた。その拠点の一つであるダニアン島。そこは、カディルナ東部地方の都市を主に襲撃するザシード海賊団のアジトであった。
ザシード海賊団は、元々は兵数3000人、ドラゴン船10隻という、大艦隊を有する強大な海賊団であったが、先のフォーレーン襲撃のおり、英雄エルギアスによってその戦力のほぼ70%を失ってしまっていた。
首領・海賊王ザシードは、その求心力を失って多くの海賊が離脱してく。これによって、兵数はすでに約300人にまで落ち込み、残っているドラゴン船3隻を何とか動かせる程度の人員しか確保できていなかった。
この状態のダニアン島へと進入するのは、アスト達にとっては比較的容易であった。
見張りも大抵がやる気をなくしており、小型のクンナウ船を見つけられるほどの警備を行っていなかったのである。
アスト達は海賊砦の港とは反対の森林地帯へと上陸、アスト、リディア、リックル、そしてゲイルだけでそのまま海賊砦へと進入を計った。海賊砦には港を除いて一か所の門があった。そこには見張りなどはついておらず素通りで潜入できた。
門をくぐると、そこは海賊たちの家の立ち並ぶ、とても薄汚い街へと繋がっていた。
アスト達はとりあえず、家々の裏の細い路地を通りながら、一つ一つの家を確認していった。
その街にある家のほとんどが空き家になっており、どれだけの海賊がこの街から去ったのか容易に想像できた。そのうちの一つの家を窓からのぞいた時、そこに女性の姿を見つけた。
アスト達は顔を見あわせると、意を決してその女性のいる家へと進入した。そして、
「ごめんね。動かないで……」
リックルが背後からナイフを女性の腰に当てる。
女性は一瞬驚いた表情をしてから答えた。
「なんだい? こんなところに強盗なんて……物好きだね?」
「強盗じゃないよ……。あんたに聞きたいことがあるんだ……」
「ふん……。どっちでもいいさ。勝手に聞きな、何でも喋るよ……」
そう言ってため息を付く女性。
「先日、この海賊砦に連れてこられた女性たちがいるのは知っているか?」
「ああ……、いつもの戦利品だろ?それなら、ザシードがまず味見してから部下に配られることになってる」
その言葉にアスト達は息をのむ。
「それじゃあ、その女性たちは今、砦の方に監禁されているんだな?」
アストのその言葉に、女性は首をかしげて言う。
「そうだけど……。まさかあんたら、彼女らを助けに来たのかい?」
それに無言で答えるアスト達。女性は少し笑って言った。
「まさか……そんなことをしようってやつがいるとはね……。それだけザシードの力が弱まってるってことか……」
その女性の言葉にアストが問いかける。
「……一つ聞いていいか?」
「なんだい?」
「もしかして、あんたも海賊に攫われてきたのか?」
その言葉に女性は遠い目をして、
「……そうだね。あたしももうかなり前に攫われてきて……。この家の主の妻にされた女さ……」
そう答える。アストはさらに問う。
「ならば……協力してくれないか? ここから脱出しよう」
そのアストの言葉に女性は一瞬驚いた顔をしてから、
「はははははは!! 馬鹿言ってんじゃないよ!! 攫われたのが何年前かなんてもはや覚えちゃいない!! あたしの村は焼かれて家族ももういない!! そのあたしを助けるって?!! ……遅すぎるんだよあんたらは!!」
そうケラケラと笑った。
「女を助けたいなら勝手にするといい。あたしはうちの旦那にあんたらのことを告げ口するだけさ」
「な?!」
その女性の言葉にアスト達は驚く。その表情を楽し気に見つめる女性は、
「はは……なに驚いてるんだい? 当然だろう? あたしは海賊の妻なんだぜ?」
そう言って嘲笑った。
「……どうする? アスト、このままこの人を置いて行ったらまずいよ」
「フム……これは。無理やりにでも連れていくしか……」
――と、その時、その女性がリックルのナイフをその手に掴んだ。
「え!!」
そのまま女性は叫ぶ。
「誰か!! 侵入者だよ!!」
その言葉を聞きつけたのか周囲が騒がしくなる。
「く!!」
アストは咄嗟に女性に当て身を食らわせる。そのまま女性は気絶した。
アストはその女性を背負って、その家から外へと躍り出る。
「こっちだ!!」
アストはゲイルを先頭にして街を駆ける。ゲイルは的確に敵を避けて街を走り抜けた。
「こうなったら砦へと急ぐぞ!!」
アストの言葉にリディアたちも頷く。目標である砦は、もはや目前まで迫っていた。
◆◇◆
アスト達が石づくりの城塞である砦へと到着すると、その入り口から十数名の海賊が街に向かって走っていった。
「これは……うまく陽動になったみたいね」
そうリディアが呟く。アストは頷いて誰もいない入り口から砦内へと進入した。
そしてしばらく砦内を探索していると、不意にアストの抱えている女性が動いた。
「うん? ここは……」
「すまないが黙って」
そう言ってアストは刀を首に押し当てる。
「……わかったよ。もう抵抗しないよ」
そう言って女性はため息を付いた。
「すまない……」
「あんたが謝ることでもないだろ? それで……、今は攫われた女を探してるんだね?」
「ああそうだが……。監禁場所を知っていたら、教えてくれないか?」
「フン……。まあ、あたしが初めに連れてこられた場所だから。当然知っているさ……」
アストは女性の首から刀を外す。女性は少し驚いた顔をする。
「またあたしが叫ぶとは思わないのかい?」
「その時はその時だ……。正直、貴方に刀を突きつけていたくはない」
「お優しいことだね……。まあいいさ。旦那が死んでどうしようかって思ってたとこだし」
「え?」
アスト達は驚いた顔で女性を見る。女性はその顔を見て笑った。
「この間の仕事でうちの旦那はすでに死んでるよ……。だから告げ口なんて元からできやしないさ」
「それは」
アスト達は複雑な気分で女性を見た。
やはりこの女性は、自分を好き放題していた旦那が死んで喜んでいるのだろうか?
それとも――、
「さあ……こっちさ」
女性は先頭に立って砦内を歩いていく。砦内にはほとんど人がおらず、スムーズに進むことが出来た。
アストは道すがら女性に名前を聞く。彼女は静かに、ポーラだ――と答えた。
そして――
「ここが、攫って来た女を監禁する牢屋だよ」
そこは誰も見張りが立っていなかった。おそらくそれだけ人員が足りていないのだろう。
アストは静かに牢屋の扉に耳をつけて中をうかがう。かすかに女性のすすり泣きの声が聞こえてきた。すぐにアストは、腰のナイフを抜いてその柄で鍵を破壊する。扉は静かに開いた。
「?」
突然の来訪者に、中にいた女性たちは一斉にアスト達を怯えた目で見る。
「助けに来ました……大丈夫ですか?」
アストがそう言うと、やっと女性たちは表情を明るくした。
ポーラが言う。
「さすがのザシードもトシだからね、まだ手を出してない可能性が高い。攫われてきた女は、ここに居るので全員だと思うよ……」
「それは……」
リディアがホッと胸をなでおろす。それを見てポーラは言う。
「まあ、運がよかったね……。これからも運がいいかはわからないが」
「それはどういう……」
「ここから出るにはもう一度街を通らないと……だろ?」
「う……」
リディアは言葉を詰まらせる。
ここには十数人ほどの女性がいる、それを連れて街を抜けるのは、かなりの至難の業である。
「さあ、どうする? あんたらだけなら脱出は容易だろうね? でも、そうするとこいつらの希望は絶望へと変わるだろうさ……」
「希望……」
アストは静かに呟く。
「あたしはね……昔はここを出るという希望を持っていた……。でもそれはすぐに絶望へと変わった……、こいつらにもそれを味あわせるかい?」
そのポーラの言葉にアストは答える。
「絶望はさせない……。絶対に……」
「フン……あんたにできるのかね? じゃあ、そのあんたの『希望の果て』を見せてもらおうかね」
アストは頷いて、ゲイルとともに先頭に立って砦内を歩きだした。
それ以外の者――女性たちもそれに続く。
アストはゲイルの頭をなでながら砦を奥へ奥へと進んでいく。
途中、見張りを見つけたが、それも避けてさらに奥へと進んでいった。
「これは……どこに行くつもりだい?」
そうポーラが呟く。アストは少し微笑んで言った。
「この砦の港だよ……」
「え?」
ポーラは驚いた顔でアストを見る。そして――、
しばらく進んだアスト達は海賊砦の港へと潜入していた。
港では数人の水夫が三隻のドラゴン船を整備していた。
アストはそのドラゴン船ではなく、その港の端に停泊している小さなガラード船へと近づいていく。
「ちょっと……まさか」
ポーラがそう呟いてアストを追う。
「よし……誰もいない……。みんな早く乗るんだ……」
アストはそう言って皆を促す。そして全員がそれに乗り込んだ。
「それじゃあ……。こいつで港を脱出しよう」
その言葉にポーラが慌てた様子で言う。
「まさか……ここにいる女どもでこいつを動かす気かい?」
「うん……その通りだよ」
「そんな事……」
「できない?」
アストはポーラではなく、他の女性たちに向かって言った。
「大丈夫です。やれます。ここを脱出するためなら……」
そう言って前に立ったのは紫の髪に茶色の目の女性だった。
「貴方は……カンナさん?」
「え? はいそうです……」
「弟さんが街で待っていますよ」
アストの言葉に小さく微笑むカンナ。そして、
「あの人が……私の好きだった人が言っていたんです。希望を捨てるな……って。もうその人はいませんが……、今あなた方が来てくれました。やっぱりあの人の言うことは正しかったんです……」
カンナはそう言って真剣な目でアスト達を見た。
ポーラはそれを見て小さく呟く。
「希望……なんて……」
アストはその言葉を聞いてか聞かずか、女性たちに向かって言う。
「みんなでこの帆船を動かしましょう。ここから脱出するんです」
その言葉に女性たちは強く頷いた。
さっそく女性たちはそれぞれの持ち場を決めて帆船を動かし始める。さすがは港町の女性――、皆は男たちのやっていたことを見よう見まねで再現し、風を受ける帆を張ったのである。
「なんだ?!」
その段になって、やっと港が騒がしくなる。
砦の方から一人の髭面の男が走ってくる。
「俺様の女どもが逃げたぞ!! 追いかけろ!!」
それは、この海賊砦の海賊王であるザシードであった。
アストはリディアに目配せをする。すぐにリディアはその意図を察して真言詠唱に入る。
【ヴァダールヴォウ……ベルネイア……。雷鳴の娘よ、轟音を轟かせる者よ、その雷鳴をもってこの場にあれ、ヴァズダー】
<
ズドン!!
凄まじい轟音が港全体に響く。その轟音に、港にいた海賊どもは耳を押さえて地面に転がった。
「今の内だ!!」
アストは帆を繰りながら叫ぶ。リックルが操舵輪を操作して沖へと船を進めて行った。
「クソ!!」
しばらく転がっていたザシード達は、なんとか気を取り直して立ち上がる。そして、
「ドラゴン船を出せ!! 奴らを追いかけろ!!」
その命令を受けて、海賊たちは次々にドラゴン船内へと駆けこんでいった。
◆◇◆
「見ろ!!」
沖ではサイモンが、アスト達の操る帆船を目視でとらえていた。
「アスト達だ!! 急げ!! 回収するぞ!!」
すぐにサイモンがクンナウ船を操作してアストの帆船へと接舷する。
「よくやった!! 作戦は成功だな!!」
アストはサイモンと手を打って喜んだ。
「後は逃げるだけ……」
そうサイモンが呟いた時、
ゴオオオオオ!!
遥か海賊砦の方角から巨大な火球が飛んできた。そのままクンナウ船の帆に命中する。
「これは!!」
慌てて水兵に命令を下し火を消そうとするサイモン達。しかし、
ゴオオオオオオ!!
さらに連続で火球が飛んできたのである。
ポーラは叫ぶ。
「やっぱり来た!! ザシードのドラゴン船だ!!」
「く!! 追いかけてきたのか!!」
サイモンが遥か海賊砦を睨み付ける。そこにこちらへと高速で進んで来る三隻のドラゴン船が見えた。
「エンジンをふかせ!! 全速脱出!!」
サイモンが叫ぶ。サイモンのクンナウ船にはドワーフ製の蒸気機関が積んである。それを吹かせばドラゴン船を振り切ることも可能なはずである。
しかし、
「船の船尾を狙え!!」
ザシードが配下の戦術魔法士に叫ぶ。さらに火球が飛んだ。
ドン!!
爆炎と共にクンナウ船の船尾が爆発する。
「船長!! エンジン大破!! 航行不能です!!」
「クソ!!」
サイモンはそう言って敵ドラゴン船を睨んだ。
相手は腐っても海賊――。アスト達は絶体絶命の状況に陥っていた。
その光景をポーラは諦めの表情で見ている。
「ほら見ろ……希望なんてこの世にはありはしないんだ……」
ふらふらと船の端へと歩いていく。アストがそれを見とがめた。
「ポーラさん!!」
「もうどうでもいいいよ……。帰る場所はもはやない……、あたしを犯しつくした旦那さえこの世にはいない……。ならば、もうこの世にあたしが生きる意味があるのか?」
そのまま船の端に立ったポーラは、ふらりと――。
「ポーラさん!!」
リディアが叫ぶ。
「ちょっと!!」
リックルが何とか駆け寄ろうとする。
「ポーラ!!」
アストが叫ぶ。
そのまま、ポーラは――、
「これがあんたらの『希望の果て』さ……」
海に向かって身を躍らせた。
ポーラはそのまま、目を瞑る、このまま海に呑まれれば、何もかもから自由になれると信じて――。
「この!!」
その手を握る者がいた。それは――、
「アスト……」
そう、アストであった。そのポーラの手を握って放さない。
「もういいよ。放しな」
ポーラは力なく呟く。アストはポーラを睨み付けながら叫ぶ。
「いやだ!!」
「もう駄目なんだよ」
「ダメじゃない!!」
「これがあんたらの希望の果てなんだよ……」
「違う!! 俺たちはまだ果てになんて来ちゃいない!!」
「意地を張っても意味はないんだよ……」
「意地でもこの手は離さない!!」
「本当にバカな奴だ……」
ポーラはそう言ってアストを笑う。アストはそれでも手を放さなかった。
アストは叫ぶ。
「馬鹿がどうした!! それでも俺は諦めない!! 希望を絶対に捨てない!!」
それはアストの心からの叫び。その叫びをポーラはただ力なく見つめていた。
――と、不意に、アスト以外にポーラの手を握る者が現れた。
「そうだ!! 希望を捨てるな!! 希望を捨てないこと!! それこそが未来を切り開く力になる!!」
そう叫ぶのは――。
「サイモンさん……」
そう、それはサイモンであった。サイモンはアストと力を合わせてポーラを引き上げる。引き上げて、そして――
「アスト……お前の想い……叫び聞かせてもらったぜ……。大丈夫さ……見ろ!! 水平線の彼方を!!」
サイモンはそう叫んで西の果てを指さした。アストはその指先を見る。そこには――、
ボー!!
汽笛を鳴らしながらこちらへと高速で迫る一隻の船があったのである。
◆◇◆
船の船尾から黒煙が上る。
「魔導エンジン出力30%で安定!! 異常ありません!!」
船体中央の艦橋に水夫の声が響く。
「艦長!! 目標を補足!! ドラゴン船三隻!!」
鋼鉄で鎧われた船体が水しぶきを切っていく。
「うむ……そのまま中央突破……すれ違いざまに砲を食らわせてやれ……」
「yes sir!!」
そして、両舷にある74門の砲門が一斉に口を開く。
「さあ海賊狩りを始めようか……」
その船の――、
艦長・ネモスはそう言って笑ったのである。
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