妹の友達に恋してしまった…

柊木ウィング

第1話 『にーにと友達』

「やばい……やばいぞ妹よ!」

「にーにの今の顔のがやばいよ」


 取り乱すにーにの顔は、さながら貞子のようで……とても怖い!

 なんてことはさておきとして。


「どうしたの? 何かあった?」

「あったなんてもんじゃねぇよ! ……俺は、許されざる禁忌を犯してしまったかもしれない……」

「嘘……」


 頭を抱えるにーには、リストラされたサラリーマンと同じ格好をしている。

 実際はサラリーマンではなくて高校生なんだけど……いや、ここは自己紹介といこう。


 兄・如月神楽きさらぎかぐら/黒髪平均体型/高校二年生/若干オタク気質


 妹・如月 凪絆なずな/オレンジ髪、発育がいい/中学二年生/活発なバレー部


「……で、何があったの?」


 固唾を呑んでにーにの言葉を待つ。

 時折何かのアニメの影響でパロってくるけど、今回の深刻さは他とは違った。

 すると、にーには息を吐きながら淡々と語り出す。


「先日、唯那ゆいなちゃんと遊んだろ?」

「うん」


 唯那とはあたしの同学年の女の子だ。

 大人しくて清楚……あたしとは違ったタイプだが、席が近いことから仲良くなった。


「これまでも何回か遊んでいた……が、先日気付いてしまったんだ」

「え……何を……」

「俺は――ッ!」


 机をバンッと思い切り叩くと、にーには立ち上がった。

 ビクッと肩を震わしてにーにを見ると、涙を流しながら言い放つ。


「唯那ちゃんが好きだ!」

「マジでー!?」


 あたしは嬉々として声を出すと、にーには好きな理由を話し出した。


「最初は可愛い子だな……程度に思ってたんだ。けどさ……クッキー作ってくれたり」

「うんうん!」

「少しカードで遊んだりしただけだけどさ……健気で可愛くて」

「だよね!」

「……」


 一瞬の沈黙の後。


「お前、なんか元気だな」

「!? あ、あたしはいつも元気だけど!?」

「……まぁ、確かにそうだな」


 よ、よかった……どうやら納得してくれたみたいだ。

 あたしがこれだけ喜ぶのには、当然理由が存在する。


 にーにの初恋だとかにーにが二次元以外に興味が出たから……とかじゃなくてね?


「……どうした、そんなにニマニマさせて」

「気にしないで! こっちのことだから!」

「どっちのこと?」


 にーにに疑問を与えて、あたしは即眠りについた。


 *


「ゆーいな!」

「わっ……び、びっくりした……」

「にひひー、何読んでんの?」


 いつもあたしより先に学校に着いている唯那は、本を読んでいることが多い。

 今日も今日とて何かしらの本を読んでいるので聞いてみると。


「ラ、ラノベ……って、ヤツ」

「へぇ……なんかそれにーにも読んでたのに似てるね」

「ふえぇ……そ、そうなの……かな」


 本で顔を隠す唯那に、顔がニマニマするのを抑えられない。

 んー、健気だねぇ……むふふ。


「にーに、これも読んでたよ」

「……えっと、ど、どんなの……」

「エ・ロ・本♡」

「……/////」


 ほんとに良い反応するなぁ。

 危険冒してまで持ってきた甲斐が有るってもんよ……ん?


 あたしは誰かに肩を掴まれ、錆び付いた機械並のスピードで首を回すと。


「如月さん? 何持ってきてるのかな?」

「……天兎あまつ先生、いらっしゃってたんですね」

「職員室、行こっか♡」


 笑顔の奥に潜む邪悪な影。

 あたしは作り笑いで誤魔化そうとしたが……これは怒られコース確定だね。


 *


 一限目始まるギリギリまで怒られるとは……。しかも間に合わせる辺り、授業は何がなんでも受けさせる強い意志を感じたよ。


「……大丈夫、だった?」

「んー? あたしが悪いしね、何も言えないよ」


 昼休み、食事を囲みながら唯那と話す。

 やっぱ中学生がエロ本買うのってよくないのかー、ネットがある時点で買いやすいんだけどなぁ。


「そ、それって……ほんとにお兄さん好きなの?」

「え、知らないよ? あたしが適当に買ったヤツだもん」

「そ、そうだよね……お兄さん、そういうの、読まないよね」

「男なら読んでんじゃない? 大抵ラノベばっかだけど」


 その言葉を聞いてか、唯那は頬を赤らめる。

 きっとこの子は純粋なんだね。よし、さっきの言動は恥ようかな。


「まぁそんなことは置いといてさ、唯那……今日遊びに来ない?」

「何……するの?」

「にーに居るし、ゲームとか?」

「ふえぇ……お兄さん、いるの?」


 瞬間的に顔を赤くする唯那。

 むふふ……これで分かった人も多くいると思う。


「居るよー? なんでなんで? なんか不都合でも??」

「不都合だなんてそんな! ……もう、知ってるくせに……」


 知っててもそんな恥らったらいじめたくなっちゃうじゃん。


 そう、ご覧の通りにーにと唯那は相思相愛。

 それを知っているのはあたしだけ。

 正直に伝えてあげれば二人は幸せになるかもだけど――


「? 凪絆ちゃん、食べないの?」

「食べる、食べるよー」


 いずれ付き合うであろう二人だ。

 少しくらい……イタズラしてもバチは当たらないでしょ♡

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