僕らの遠くて近いカンケイ~彼女はクラスメイト?幼馴染?~
久野真一
第1話 人気者な彼女と内気な僕
「目は口ほどに物を言う」ということわざがある。
目は、言葉と同じくらい、相手への気持ちを伝えられるという意味らしい。
だとしたら、彼女のこの視線はどういう意味なのだろうか。
じー。二つ右の席から視線を感じる。まただ。
気になって、その娘をちらっと目で追う。
すると、視線を逸らされてしまう。
また、視線を感じる。
今度は、僕がじーっと見つめてみる。
すると、目を伏せられてしまう。
さっきからこんな事を繰り返している。
僕は、
独りで読書をするのが趣味な、内気で根暗な高校2年生。
そんな僕は、最近、視線を送ってくる彼女の事が気になっていた。
二つ右の席に座っている彼女の名前は、
肩の上辺りで切りそろえた髪でクリクリとした瞳に、優しい顔つき。
平均的な身長、均整の取れた体型。トレードマークの水色のリボン。
そんな彼女はその明るさもあってクラスの人気者だ。
僕と彼女は、小学校の頃からの付き合いだ。
と言うと羨ましがられるのだけど、いわゆる幼馴染ではない。
ここは田舎で、進学校に行かなければ、付き合いも長くはなる。
同じ団地で育ったし、顔を合わせれば挨拶とちょっとした会話はする。
でも、一緒に育ったと言えるほどの付き合いもない。
僕はいつも日陰者だったし、彼女は人気者だった。そんな彼女が何故。
そう思ってしまう。
キーンコーン、カーンコーン。昼休みを知らせるチャイムが鳴る。
気がついたら授業は終わっていたらしい。
春名は早速クラスメートに囲まれて、楽しそうにお弁当を食べている。
「ハルハル。昨日の映画見た?」
女友達に話しかけられる春名。
ハルハルというのは彼女のあだ名の一つだ。
「見た見た。ちょっと、感動して泣いちゃった」
笑顔で返事を返す春名。
「もう、春名は涙脆いんだから」
別の友達が春名をからかう。
「そんな事ないよ。いい話だったでしょ?」
ちょっとむくれた感じの春名。
「泣くほどじゃなかったと思うけどなー」
そんな風にして楽しそうに談笑を繰り広げる彼女たち。
「ハル、飯食おうぜ」
僕に声をかけて来た男子の名は、
こんな根暗な僕とも分け隔てなく付き合ってくれるいい奴だ。
「うん。行こうか」
連れ立って学食に行く僕ら。また視線を感じる。
やっぱり春名が僕を見ていた。なんだろう。
それに、彼女の友達も何やらじろじろ見てくる。
「でさ、なんか悩みでもあるのか?」
学食で食べている最中に、ジュンが質問してきた。
「なんでわかったの?」
「付き合いも長いしな」
ジュンとも小学校の頃からの仲だ。こっちは正真正銘の幼馴染。
「ジュンが鋭いだけだと思うけど」
ジュンは人の気持ちに敏感なところがある。
「それはいいとして。何悩んでるんだ?」
「……春名のこと」
少し考えて、正直に打ち明けることにした。
「春崎となんかあったのか?」
少し深刻そうな顔になるジュン。
ジュンには、僕が春名の事をまだ好きなことは伝えてある。
「最近、ちらちら見られてるんだ。自意識過剰かもだけど」
言ってて、ほんとに自意識過剰かもしれないと思った。
「二人して、ちらちら視線送りあってて、妙だなと思ったが」
「気づいてたの?」
「後ろの席からだから、よく見えるんだよ」
ジュンの席は、横で見ると、僕と春名の間で、縦に二つ後ろ。
「それだと説明つかない気がするけど」
やっぱりジュンは鋭い。
「で、ハルはどうしたいんだ?」
「どうしたいんだろうね」
「恋人になりたいんじゃないのか?」
「とっくに諦めてるよ」
好きだけど、恋仲になれると思ったことはあれ以来一度もない。
ただ、僕が勝手に彼女を好きなだけだ。
「お前もネガティブだな。チャンスあると思うぜ?」
そう言ってくれるのは本当にありがたいけど。
「無理だって。僕はとっくに振られてるんだから」
小学校の時のことをふと思い出す。あれは苦い思い出だった―
◇◆◇◆
僕は昔から、人の輪にあまり馴染めない人間だった。
かといって、虐められていたわけでもない。
ただ、大勢と一緒に行動するのがなんとなく苦手だった。
そんな僕は、休み時間はいつも読書の日々だった。
話しかけられれば応えるけど、必要以上に話さない。
だから、仲良くなろうとした人も離れていく。
僕は、人の輪の中心にいる春名がいつも羨ましかった。
人の輪の中心で、朗らかに笑っていられることが。
(皆と一緒でいるのが苦手でなくなればいいのに)
願いも虚しく、ジュンを除いて親しい友達は出来なかった。
そんな僕だけど、春名はいつも気にかけてくれていた。
朝の団地で顔を合わせれば、
「おはよう、晴之君。一緒に学校に行こ?」
「うん。ありがと」
そんな風にして一緒に登校したし。放課後も。
「晴之君。一緒に帰ろ?」
「うん。ありがと」
と、よく一緒に下校した。
今思えば、ボッチな僕に対する親切心だったのだろう。
でも、僕は、そんな彼女の親切心を勘違いしてしまって。
小学校6年生のある日、彼女へのラブレターをしたためた。
そして、教室のロッカーにひっそりと入れたのだった。
その結果―
「ぎゃははは。国崎は春崎の事が好きなんだってさ」
「何、この文章?恥ずかしい」
「春崎も災難だよな」
ガキ大将のグループの笑い声が教室に響く。
春名がロッカーを開けた拍子に、ラブレターが落ちてしまったのだった。
「晴之君が可哀想だから、止めてあげて!」
悲痛な表情でガキ大将たちを止めようとする春名。
「春崎も国崎の事が好きなのか?」
「そ、そういうわけじゃないけど……」
「じゃあ、別にいいだろ?」
その日は本当にいたたまれなかった。放課後、
「ごめんね、晴之君。私のせいで」
僕よりよっぽど心を痛めた様子で、謝罪してくる春名。
「いいよ。春名のせいじゃないだろ」
「でも、私がうっかりしなければ……」
繰り返し、繰り返し謝罪をされる。
でも、僕はそんな事より返事が聞きたかった。
「それより、手紙読んでどう思った?」
「え?」
「だから、手紙読んだんでしょ。返事、欲しいかな」
別に囃し立てられたくらいは大したことじゃない。
明日になったら僕もケロリとしてるだろう。
だけど、返事は知りたかった。
「え、えっと……」
春名がどんどん落ち着きがなくなって行く。
あっちを見たりこっちみたり。
しまいには、顔がどんどん赤くなって行く。
そして、
「ごめんなさい!」
そう言って、彼女は走り去ってしまったのだった。
その一言で、僕の恋は破れたのだと悟った。
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