偽夫婦

@meme89

第1話 憧れ

 今、私は3人の子供を連れて小さな施設で遊んでいる。

子育てすることが私にとって小さい頃から憧れだった。


 「しゃんと手を洗いましょおね〜」

ピンクのリボンを付けた横に倒すと目を瞑る女の子の人形の手を自分の髪を濡らしながら洗ってあげる。

服も濡らして洗って母に怒られたこともあった。

母に妹が欲しいと何度も要求したことがあったが、私の話が聞こえないようで流された。いつか女の子の人形のように可愛がって話も聞いてあげるお母さんになりたいと思った。


 たくさんの人と出会って知らないうちに時が過ぎ、私は25歳になっていた。恋愛体質な私は彼氏のいない時期がないほど、たくさんの男の人と付き合ってきた。

だが、すべて『子供が欲しい』と言った数日後に喧嘩して別れていった。そして、5ヶ月前に付き合った今の彼氏から案の定「もう冷めた」とメッセージが送られてきた。覚悟はしていたが、少しだけ悲しいような寂しいような感情になり、連絡先に入っている男の人に電話した。

『蓮』と表示された画面に向かって、2時間ほどいろんな話をした。恋愛話の時に私が泣いた時には、「結婚する相手と出会えていないだけ」と慰めた。そして、数日後に告白され付き合った。また、別れることになっても次の人がいると変な自信で承諾した。


 蓮との出会いは、2つ前の彼氏との飲み仲間で3対3男女の合コンだ。私より5歳若くてスラッとしているが、垢抜けていない可愛げのある好印象な青年だった。


 付き合ってからマメにメッセージを交換して、毎晩電話をした。2人の休みのタイミングが合い、初めて水族館でデートすることになった。最近は、付き合ってもホテルや居酒屋などのデートしかなく、水族館に向かう足が学生の時のドキドキ感をのせて軽やかに進んで行った。

 水族館の最寄りの駅の改札前で緊張と少し照れた表情の蓮と目が合い、私もつられて笑顔が強張る。お互いに目を合わせずにぎこちない会話をしながら、歩き出した。歩道では道路側に移動し、エレベーターの上りは下の段に立ったりと紳士的な彼により緊張していく。

水族館に到着して、チケットを購入する時に「悪いんだけど、割り勘でいい?」と申し訳なさそうに聞いてくる蓮に笑いながら頷く。自然に笑えたことで緊張がほぐれた気がした。水族館に入ると急にグイッと手を引っ張られ、涼やかで神秘的な空間で浮かんでいるような感覚に陥り、あっという間に出口近くのカフェに辿り着いた。そこでは、蓮の話を沢山していい雰囲気になり蓮の家に向かった。


 蓮は、バスケ一筋の学生の頃から誰とも恋愛関係を持ったことがなく『純粋無垢』な男の子で18歳で就職した。父が15歳の時に他界して母と祖母の家で生活していた。若いのに大人っぽくて紳士的で金銭面がしっかりしている理由が理解できた。そして、女性関係もだらしなくない。蓮が運命の人だ。


 蓮の家に到着して、買ってきたお酒を飲みながら「子供が欲しい」と恐る恐る言ってみた。すると、意外な答えが返ってきた。

「俺も子供が欲しい」

驚いて「なんで?」と咄嗟に聞いた。「子供が好きだからだよ」と微笑みながら蓮は答えた。

ここから憧れの生活が始まるんだ。と安堵と嬉しさで抱きついて明るい夜が過ぎた。

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