第74話

まず、その戦端が拓かれたのは人族の『都城』であるマジェスティックでした。

それにこのタウンは表記を見ても分かるように『都』であり『城』……つまりは城塞都市だった―――しかしこのタウンを蹂躙した存在がいたのです。

その存在こそ体長15m、漆黒の鱗に覆われ、その牙や爪はどんな大岩をも一撃で砕き、その吐息ブレスは普通の水では消火できない“炎”だった……

そんな、“陥落”が目の前にぶら下がった時に駆け付けてきた戦力こそ。


「(ちぃっ)復帰の一戦がかよ……。」

「いきなり“弱気”―――ですか。」

「おう―――ノエル、先に着いてたか。」

「まあ、地理的にはスオウよりは近いですからね。」

「―――で?」

「主な攻撃方法は牙や爪ですが、時たまに繰り出す尾も厄介……」

「けど、一番警戒しなけりゃならんのは、吐息ブレス―――か……」

「それよりホホヅキは……置いてきたのですか。」

「あいつの腕は、私が一番知っている……が、以前魔王から『次に戦闘に行くときにはあいつを伴うな』―――と言われた……。」

「(……)判りました。 では、私達も参りましょう―――!」


              ≪影殺;地獄道≫


               ≪断刻竜破斬≫


彼の伝承に偽り一切なし―――たった一騎で堅牢な城塞都市を灰燼と化せる怪物を、二人の英雄が阻む……



#74;350のブランク



かくて死闘5時間余り、やはり300年以上ものブランクは埋め合わせできなかったか…死力を尽くし、地に沈んでいたのは二体の英雄の身体でした。


「(へ……っ、おい―――生きてるか、“チビすけ”……)」

「(また……そのような―――けれど……言い返す力も、残されていません……。)」

「(剣を取らなくなって350年以上か―――思っていた以上に、ブランクは大きかったようだ……。 すまない―――ホホヅキ……どうやら生きて帰れそうに……な……)」


或いは大量の血を失い―――或いは四肢の一部を失い……英雄は力尽きようとしていました。


しかし―――……


「(う……ん?これは……水―――?私は今……水の中にいるのか―――?)」


再び意識を取り戻すと、自分の身体は心地の良い“癒しの水”に包まれている事を知覚したものでした。

しかしながら、そう、『水』―――


「(!)公主―――!?」


「ようやく気付いたようね。 間に合った―――とは言い難いけれど、一応は『間に合った』わね。」


『水』を操る事にかけては魔界に於いて右に出る者はいない……その者は神仙族―――“長”に次ぐ実力を持つとされる【竜吉公主】。

かくして、傷ついた二人の戦士は水の神仙の術によって保護……然る後に死に至るような大傷は癒された―――

「以前にも言ったけれど、本当にあなた達って“脳筋”よねぇ……。」

「へっ―――産まれつき、頭で考えるより身体の方が先に動くもんでね……」

「そこを考えると、ローリエの死は痛手でした……」


二人の死に至るような大傷―――リリアは、凶悪な竜の爪や牙、尾や吐息の攻撃を一身に受け、彼女の身体には傷がついていない処など有りませんでした。

しかもその傷からは止め処とめどなく血が流れ、大量の失血の為、危うく意識が飛びかける事が何度あった事か……現役だった頃にはこんな風になるなど予想だにし得なかった、―――たった350年武器を取らなかっただけでこんなにも腕が落ちるものとは。

もう一人のノエルは、彼女の特性であり強みでもある敏捷性が失われていました。

“忍”の術を会得し、“忍”である彼女の強み―――右脚の欠落……それに、左腕も失っていました。

元々、他人の生命や財産を狙う事など何ほども感じてこなかった非情の盗賊が、“心”を持ってしまったがゆえにその牙を抜かれてしまったか……


非情になりきれない―――だからこそ腕が落ちてしまったか……


優れた“忍”ほど、その脚や腕を失った痛手は大きい―――冷酷な術や技は極めてはいても、【清廉の騎士リリア】や【神威ホホヅキ】よりかは攻撃力は劣る、このPT内で、直接的に攻撃をする分野に於いて自分の攻撃力の無さはノエル自身が痛感していた事でした。 だから彼女は、敵の戦力を探り、情報を持ち帰れるだけ持ち帰ることに専念をした……つまりは、ノエル自身が戦場に投入されると言う事は、人員不足を解消させる為……言わば、今回の戦闘に関しては魔界側の戦力は1.5人だった……?

しかし今、強力な助っ人が援軍として現れた―――回復・補助・攻撃を同時にこなす、まさしくの一軍に匹敵しうる味方が―――


「まあ、そこで大人しくしているがいいわ……その水は、やが―――て……


『高等治癒魔法』クラスの治癒術を行使せし者により、二人が負った大傷はやがて治癒なおるのだと言う……が、しかし―――彼の者が言い終わらない内に凶悪な竜の爪が竜吉公主の後頭を、直……撃―――?


「公主―――?」

「公主……?」


{(……)そう急くでない―――下郎めが……うぬの相手は、ゆっくりとがしてやる―――それに……フ・フ―――うぬ達の様な輩はよくよくこうした手にかかる……は『水』―――水があればどんな巨大なものであろうが包み込む……。}


竜吉公主の本性は『水』……そして、この場に流れたる血も、『水(分)』―――

やがてその戦場に在った『水(分)』は須らく竜吉公主の意のままと成り、全長15mもの巨大な竜を包み込む……。


{フ―――……さて、どうしてくれよう。 我らが眷属の子達を弄玩かわいがるだけ弄玩かわいがってくれた礼―――まあ、安心するがよい……楽に殺したりはせぬ、寧ろその逆……うぬ溶解とかし、その成分を―――その特性を……暴くだけ暴いてくれようぞ。}


普段は清流が如くに静やかな性分でしたが、一度ひとたび怒りに包まれれば不沈艦をも沈めるすさぶる性分があらわれる……そして再び、かつて一緒に闘った戦友二人は、この神仙の残酷な一面を見せられる。

憐れ凶悪な竜も、今や“水の神仙”の養分と成り果て、“今の敵”の能力などを解析する材料と成り果ててしまったのです。


その―――後……


「どうやら、脚と腕は繋がったみたいね。」

「ありがとうございます……あの―――私はもう……戦力にはならないのでしょうか。」

「そんなことはない―――ならなかったら、魔王も再招集をかけたりはしない。」

どうにか欠落した脚と腕を繋げ……られはしたものの、どこか疲労感は否めない―――よく老練の兵が『若い頃には』と愚痴をこぼしていたのを、笑って聞いていた自分達が―――“今”は自分達の番……。

350年ものむかし、英雄とまで持て囃され、持ち上げられたけれども、それは『今は昔』の話し。

そんな悄気しょげ返っている二人の前に、“水の神仙”よりおくれる事数刻……


「お待たせをしました―――とは言っても、もう終わっていましたか。」


「ウリエル―――!」

「“地”の熾天使様……」


「一応この地は片付けたわ、そちらはどうだったの。」

「【大天使長】ミカエルにより各方面に出現したラプラス共を掃討する為、私以下―――ラファエルにガブリエルも出撃を致しました。」

「四大熾天使全員が……」

「それ……で―――?」

「レベルの差異はそうありません―――ですが、マジェスティックに出現したファフニールは頭一つ抜きん出ていたと言っていいでしょう。」

「そう……判ったわ。 がファフニールのデータよ、今後はを基準値とし、きたれる者に対応するようにしましょう。」


一体―――彼女達は、“何”と闘っているのか……これまでにも申し上げてきた事―――『異次元の知性』であるとか、『別次元の知的生命体』だとか……

しかしこれらは、その一面性しか伝えていない……

この“存在”が顕著となってきたのは350年前―――

そう、奇しくも『緋鮮の記憶』によって数多の英雄達が悪しき魔王を討伐した―――と言う『お話し』……

あの『お話し』と、時期……そして対象が“同一”であるとするならば―――?

そう―――あの『創作話おはなし』は、これまでにも明らかにされているように、『実話』……『実話本当にあった話し』を、何者かの意図によって脚色され、『創作話つくりばなし』のようにしてしまった。


では―――?


なぜそう言う回りくどい事を……手の込んだことを、しなければならなかったのか。

創作話つくりばなし』ならば、読者全体が“良い話し”と受け取りやすくなる、『実話本当にあった話し』ならば、不都合な事実のみが蔓延する……

では、脚色家は何の意図があって『脚色そう』したのか……



           それが“今”―――語られる……





つづく

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