第68話

その同じ日―――クラン部屋には、悪い空気が漂っていました。

それと言うのも……


「(じーーー)」

「(じーーーーーー)」

「(じーーーーーーーーー)」

「(ムヒョ?)」


事情を知る3名のメンバーからは、無言の圧力と冷たい視線を一身に浴びるエルフの女性……


                  と


「皆様、ご協力を感謝いたします。 お蔭さまで我が王国の王女様の身柄を確保に至りましたこと、この侯爵グレヴィール国の官を代表して皆様にお礼を申し述べる次第でございます―――」


「(あんた……なにやってんのよう―――)」

「(ごめんなしゃい、ごめんなしゃい、ごめんなしゃい……)」(ポロポロ)

「(折角私が、あんたに気を回して偽証をした嘘を吐いたと言うのにぃ……それにヒィ君なんか、架空の人物像捏造して創ってまで、あんたを庇ってやってた~~って、言うのにぃ~~~!)」

「(ごめんなしゃい、ごめんなしゃい、ごめんなしゃい、ごめんなしゃい、ごめんなしゃい、ごめんなしゃい……)」(ポロポロ)


まるで逃げた猫が捕えられた時の様に、悄気しょげ返っててしまっているエルフの王女が……しかも王女と侯爵の特異性に気付き、どうにか両者を合わせない様に―――と……そうした事が総て徒労に終わってしまった事に、批難する“悪友よきとも”……なのではありましたが。


実は、この事情をあまりよく知らない【黒キ魔女こちらの方】にしてみれば…………


「あの~~それより、あなた様はどちら様?」

「おやこれは―――可愛らしい黒豹人のお嬢様ではございませんか。 私はこの度、『侯爵』を拝命いたしました、グレヴィールと申す者です。」

「なるほど―――なるほど―――それで?いち“爵位家”のお人が、なぜ王女様をお探しになられていたのですか?」

「現在我が王国では、王女様の方針により粛清された者が多くあり、これまでにもどうにか政務を回してきたものの、どうにも立ち行きが行かなくなり初めまして……」

「そこの処を訊いているのではありませんよ?あなたの―――真の目的を述べてみて下さいな。」


その、【黒キ魔女】よりの鋭すぎる指摘は、侯爵グレヴィールがただ単にシェラザードを付け狙っていた……と言う事を、仄めかせていたわけではありませんでした。

すると―――侯爵は、次第に不敵な笑みを零し始める……


「フフフ―――さすがは【黒キ魔女】様……この私の、真の目的の事を既にご存知であるとは……。」


現在、エルフの侯爵の地位にある男性エルフ―――

その、真の目的―――

それこそは……


「私の婚約者である、王女シェラザード様をお迎えに参上した次第……これで満足ですか?」



#68;婚約者フィアンセ



その“真実”を―――

不都合の塊をぶつけられた時―――

果たして……


「(やはりこのひと―――シェラの“婚約者フィアンセ”!)」


実はクシナダには思い当たる節がありました。 それは、このグレヴィールを名乗る男性エルフからも言われていた事だったから……


『この私と王女様とは、幼き頃から互いを知った仲』


その言葉が示す事実はたった一つ……そう―――自分クシナダ恋仲ヒヒイロカネの関係……『幼馴染』。

産まれた時から互いの家との付き合いがあり、互いの事をよく知っている―――知り過ぎている、からこそ、その気持ち同士は通じ合う……だからクシナダも、ヒヒイロカネの事が異性として意識していた好きだった……

ならば―――シェラザードとグレヴィールとの関係は?自分達の関係性よりもより飛躍し―――『婚約』までも結んでいた……


           ?   ??   ???


「満足じゃあるか~~い!大体“婚約そんな事”―――って、うちのおやじとあんたんとこのババァとの間で取り決めただけでしょ~~ガッ!!」

「おやおや―――はしたないですよ?シェラザード様。」

「はしたないもクソもあるかぁ~~い!大体、この婚約自体“政略”の何物でもないでしょうがあ?それにさ……“結婚”て、私達の将来を左右することなんだよ??あんた、それでもいいの?他に気に入った―――」

「私なら一向に構いませんよ?寧ろ大歓迎です。」

「(~~~)い……いやあ……あの―――さあ……?他にいるでしょ?素敵な女性―――ほら、例えばさ、こちらのシルフィなんてどうよ?」

「ふぅむ――――…………サラッサラ興味ありませんね。」


「(あの……これ、私達何を見せられているの?)」

「(必死になって抵抗を試みようとしているものの、見事空振りのようですネッ☆)」(ムヒヒヒ)

「(……と言うより、見向きもされずにフラれてしまった私の立場って、一体―――)」

「(いやしかし……シェラに婚約者がいたなんてなあ。)」


『こんな下衆男ヤローとは、絶対に結ばれたくはない』―――と言う女性に対し、『あなた様しか、この眼中にはありませんアウト・オブ・ガンチュー』―――としている男性。

しかもそのアプローチも、やや男性側に有利とあってはシェラザードには分が悪い……と、言った処か。


すると、こうした事態を見かねてか―――


「このままでは堂々巡りですので、一旦ここは私が預かりましょう。」(ムヒ)

「ふぅむ……そうですね―――この私も、どうやら熱を帯びてしまったようです。   もっと平生へいぜいを保っていなければ……そうでなくては、王女様に相応しくはありませんからね。」


経緯はどうであれ、一旦この場を退いてくれた―――ものの……

こちらはこちらで―――


「さあ……説明して頂きましょうか。」

「顔が近い―――顔が……そんな近かったら、“チュー”しゃうぢゃない……」

「だからなんですか?そんな“国会答弁こたえ”で逃げ切れられるとでも?」

「(あ゛~~う゛~~)まあ゛~~しょの゛ぉ~~これにはまあ~~色々且つ複雑極まりない事情が絡まり合っておりましてですね?」

「まあ―――端的に申し上げますと、先程グレヴィール様が申し上げていた事は、総て真実なのです。」(ム・ヒ☆)

「つまり……ご自分の家『侯爵家』を継いだから愈々いよいよもって行動に移った―――と?」

「(……)それも“一部”にはあるのでしょう―――」

「(ん?)ササラ―――その言い方だと、別の目的や動機がある……って事なのか?」

「あなた……知っていますよねえ?その目的や動機とやらも―――」


“そこ”は知られたくなかった―――

知られたくはなかった―――けれども、王女自身の幼馴染であり、幼いみぎりに軽々しく口約束してしまった……そこの処も原因としてあり、結果、親同士の間で取り決められてしまった『婚約(政略)』。

その相手が、自分の前に現れた―――と言う、本当の意味……


「まあ、あいつが言ってた『婚約』の一件な。 あれって“建前”みたいなもんなんだよ。」

「“建前”?『婚約』がですか?」

「てかさあ……あんた達にも聞くけど、『今の私』―――って、何?」

「『今のあなた様』?」

「……って、そりゃ―――」


「(なのですよね―――例え王女様この方革命クーデターを起こして旧勢力を一掃したとはしても、『現政権この方のお父上』までは倒れてはいない……つまりこの方は未だ以ていまだもって『王女』のまま―――それを、この時点まで何も言ってこなかったのは、あの革命の余波もあり多少なりとて混乱していたこともあるのでしょう……しかしそのかんにも確実に政務は回っている……そして当然、『王女』や『姫』としての公務も―――)」


ササラも口にこそ出しはしませんでしたが、そこは口に出さないまでも仲間内では理解を共有できたから……


『シェラザードは、エヴァグリムの王女である』


それがシェラザード自身が起こした革命の混乱で、当事者であるシェラザード自身がエヴァグリムの城ではなく、マナカクリムに身を置いている……そこの処もあの一件を経る事により、ようやく判り合えることとなった“父と娘”―――今までは判り合えることがなかった父も、『伯爵』という“縛り”がなくなってからというものは自由と成れた―――ゆえにセシルは、こうした混乱の時期に於いてもシェラザードの行方を追わせることはなかった……


「(シェラも永の間、影ながら闘争たたかい続けてきたのだ……もうしばらくは、休ませてやってもいいだろう―――)」


そうした気遣いのもと、取り計らわれたものでした―――


                が……


いよいよ溜まりに溜った、積もりに積もった“ブツ”が看過できないヤヴァいことになってきていた……

そうした暗喩が王女の身に迫りつつあったのです。






つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る