第40話

「実はですね、私達―――他のPTの方と共同協力をして、一つのクエストをこなそうとしたのです。」

「ふぅ~ン……で、それが?割と普通によくある話しじゃない。」

「しかもそのクエスト、ランクも『B』で―――」

「だったら楽勝だったんじゃない?」

「ああ―――“普通”だったら、な。」

「結果としては、評価『B』。 報酬も1万リブルを越えないものだったのです。」

「ナニ?ソレ?誰がヘマやらかしたん?」

「私達は―――やらかしてませんよ……」

「(……)だろーねぇ。 て、ことは―――」

「シェラザード様は、私達が原因ではないことが判るのですか?」

「そりゃ当然でしょ。 あんた達の実力は判ってるんだから。[……でェ?ヤラかしてくれたアンポンチンは、どこのどいつなんじゃい!]」(エルフ語)


自分が戻ってきた時に不自然に感じたクランメンバー達、その原因を探ってみたところ、ここ数日にあった出来事を聞き終えたシェラザードは、クリアできたとしても低評価に終わってしまった元凶を聞き、例の二人組の事を知るのでした。


        * * * * * * * * * *


そのまた一方で、“お使い”を果たしてきた事を報告するため、ギルドへと立ち寄った時に―――


「無事、“お使い”完了しました~!」

「ご苦労様―――それで、どうだった?彼女達……」

「いやあ~こってり絞られましたよ。 あれ、普通の戦闘だったら何回死んでた事か…でも、その度に鍛錬終了後の“ドンチャン騒ぎ”で体力回復させられるんですからねえ~。」

「けれど……それが強靭な身体を作る方法なの、あなたも『王女様』なのだから―――とは言いたくないけれど、 あなたを失ってしまう事で『失ってしまう価値観は安くない』……と、言う事を覚えておいて。」


やはり、そう言う事だった―――


そうシェラザードが思った様に、ノエルがスオウへ赴かせた意図をそこで語ったのです。

確かにエルフは、他の冒険者達と比べても優れた能力を発揮できる―――が、その分“耐久力”にかけては多少なりとも見劣りがちだったのです。

そこへ、ノエルなりに気を利かせたかたちでかつて自分が所属したPTのなかでも実力上位の2人に鍛えてもらえば……と、言う事もあったようです。


それはそれとして―――


「それより―――確かあなたのクランには私の娘……ササラも所属しているのよね?」

「はい―――そうですけど……」

「(……)申し訳ないけれど、私の処へ出頭するように伝えてもらえないかしら?」

「―――なにか、あったんですか?」

「大したことじゃないのよ。 ちょっとした親子関係……と、言えば―――ね。」


それはちょっとした“違和感”ではありましたが、事実ノエルとササラは実の母娘おやこなのですからその部分に触れるのは野暮だと感じていたのです。



#40;“水”の発生源



それはそうと今日の本来の目的―――自分達のPTに多大なる迷惑をかけたにもかかわらず、いまだに自分に詫びの一つも入れない不届き者達に対し―――(と言うより、シェラザードは『今回の件』に関しては無関係の様に思えなくもないのですが……?)

「なあ~~ちょっと、あんた達~?」

「ほへっ?!なな……っ、なんでしょう~?」

「(はッ!)アンジェ……こ、この人―――ここの“顔役”の人ですよ!!」

「ふえぇぇ~~??」

「(いや……“顔役”と言われてもなあー)ちょっと違うんですけど~~ソレ……と、言うよりあんた達か?私んとこのPTと合同協力した~~て時に妨害しまくってたと言うのは……。」

「そ―――そそそそそそそそれはははははは、ごごごごご誤解と言うものですうぅぅぅぅぅぅぅ」(ガクガクブルブル)

「他人と会話する時ゃ、相手の目を見ろ―――て、礼儀作法で習わなかったかァ?  今のあんたの目、活きの良い魚みたいに泳ぎまくってるんだけど―――?」

「あ、あ、あのうぅ~~お、落ち着いて―――ね? 冷静に―――なって―――話そうよおぉ~~」(涙目)

「私ャ、これでも、冷静だヨ? 込み上げる怒り―――抑えに抑えまくって……コレだよ?これ以上―――だと、下手したら血ィ見る事になるゾ?」


その最初から下手人達に目星をつけ、見つけた時にドスの利きまくった声色こわいろで脅しつけるものですからどこか2人も怯えきってしまうのも無理らしからぬ処―――と、言ったようです。

しかし、とは言え……これでは話しが進展しないものと思ったからか―――

「それ―――で?何で妨害したりしたの。」

「ですからあ~~それ、誤解なんですぅ~」

「誤解?どこがどう誤解なのよ―――」

「ですからあ~私達が最近、組ませてもらった人達は、“炎系”のスキルが得意なよう―――だったんですけれど……」

「この子が得意としているのは、“水系”のスキル―――なのですよ。」

「(あ゛~)だったらさあ―――その時点で気付いているんだったら、止めりゃいいじゃん。」

「そう言う―――訳にも……いかなかったんですぅ~」

「(は?)『そう言う訳にはいかない』って、どう言う事情よ。」

「すみません―――ごめんなさい!それ以上は言えないんです~!」


いや……てか、“その部分”が重要なんだろうによ―――ケ~ど、なんなんだろうなあーこの人達……

何か隠している―――から後ろめたい?……って言っていいのか―――

な~んか、怪しいんだよな―――この2人……


要するに、ササラも辿り着いていた“事実”なのですが―――

スキルや属性等の喰い合いミス・マッチング―――“火”は“水”に弱いし、水気のある処で“雷”や“電流”は厳禁、そう言う処が低い評価に繋がってしまった―――のは判ったのでしたが、ふと、シェラザードが気付かされたこの2人と自分達との“溝”―――の、様なもの……

まだこの時は漠然とでしか捉え切れていないモノでしかありませんでしたが……

このまま―――煮え切れないままで放置させておくのは自分のなかで許せないと思ったシェラザードは……

「よし―――んじゃ、次は私が協力してあげよう。」

「えっ?いいんですかぁ?」

「いい―――ケド、協力してもらえるから~つって油断してたらイカンよ?」

「最初から猜疑さいぎを持って―――ですか、まあそれも致し方のない処と言った処でしょう。」

「けど―――……うん……これである程度判ってくることもあるからね……。」


「アンジェ―――」


「えっ? あ……ははは、ゴメン―――ちょっと余計なコト、ゆっちゃったかぁ~モネ☆」

今度はシェラザードが自身の眼をもって彼女達が“真”か“鴈”かを見極める為、彼女達に協力を申し入れたのです。

すると……ほんの少しだけ見え隠れしてきた、この2人の動機―――

アクアマリンの“自称”天使騎士の『軽装剣士』が“ポツリ”と漏らしたことに、誇大表現が得意厨二病な『錬金術師』がすかさず“フォロー”に入ろうとした……?


やはり、何かを隠している―――


とは思ったものの、ならばやはり自分達と組んだ時にその尻尾は掴めるものとしたシェラザード―――なのでしたが……


        * * * * * * * * * *


その一方―――

シェラザードからの連絡により母ノエルに呼び出されたササラは…

「お呼びだとか?」

「ササラ―――あなた、を見て何だと思う?」

「なんですか?この“遺体”―――」

「まずは、あなたの所見を聞きましょうか……」

するとササラは手をかざし、変形した魔獣の遺体にのこる『何かしらの“残滓ざんし”』を読み取り始めました。

「これは―――『水』です。」

「そう―――……」

「お母上、この遺体を見つけた場所に何があったのですか?」

「『何もない』―――と、言ってしまえばそうなのかもしれない……けれど、乾燥するこの地帯で明らかにその場所だけが“水浸し”になっていたの。」


「(……『水』―――)」


「どうしたの?ササラ―――」

「私達は……何か『大きなもの』を見落としているのかもしれません。 まだその現場は一般開放されていませんよね?」

「ええ―――……」

「ならば私もそこへ行きたいと思います。 行って……確かめなければ―――」

ノエルがササラを呼んだのは、なにも母娘おやこ関係だから―――と言う事ではありませんでした。

そう―――それも、言うなれば“方便”……

端から見れば実の母娘おやこではありましたが、ノエルはササラの母―――としてではなく、優れた一級の冒険者としての意見を聞きたかったのです。






つづく

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