第28話

1つの“謎”な存在により、その軍事行動を差し止めたアウラ―――と、同じ頃……城下街にて展開されている襲来を鎮圧する為にと、城内にいる兵のほとんどが出計ではからったタイミングを見計らったかと言う様に“こちら”も行動を開始するのでした。


「ヒッ!ヒイイィッ―――!」

「(……っく―――)お……王女!一体どうして……」

「この“機会”を伺っていたのよ―――今までいいように王国の益を喰い散らかし、私物化しようとしたお前達を『粛清』するこの“機会”を―――!」


「ちぃぃっ……小娘風情が―――その細腕で、何が変えられると言うのだ!」

「変えてみせるわよ―――お前達の様な“ブタ”に言われなくても……公爵ヘレナ―――出番よ!」

「ナニ……?『公爵ヘレナ』―――だと?」


「やあ―――ごきげんよう☆皆サン……」


「お―――お前……は??」

もず……?なぜ―――お前が……」


ダーク・エルフの国ネガ・バウムからの唐突なる軍事行動―――

これにより“連中”の身辺警護みのまわり一時いっとき手薄となりました、そしてこの機会タイミングを見計らうようにして、王女は自ら長剣を手に取り“連中”の粛清へ―――と、行動を開始したのです。

とは言え、言ったところで“女性一人”―――と、『豚の様に肥え太った者』や『老いさらばえた亀の様に鈍重な者』……更には『実の父』と言った様に、それでも尚数の優位性は取れていない……けれどシェラザードには心強い味方がついていました。

そしてその味方の名を呼んだ時、姿を見せた者を見て実の父であるセシルはさながらにして驚嘆したものでした、なぜならば自分の主家である“連中”から言われたとおり、“連中”に反骨しようとしている王女の監視―――と共に、あわよくば……の、“殺害”も視野に置いて雇い入れた者達、『とり』のかしらである者が王女の側にいたのですから。


それはそれで度胆を抜かれるような事ではありました―――が……


お父様おやじ―――私は残念だよ……あんたが、この国の事実上のトップに立ちながら“連中こいつら”の顔色を一々いちいち伺わなきゃならないなんて……」

「お前に何が判る……!この私とて……伯爵家からの支援がなければ子爵家自体の存続が危うかったのだ―――」

「だからって!それを庶民達にも背負わせるなんて間違ってる! それに……それをただそうとしたお母様を―――あんなにも愛していた一人の女性を、どうしてあんたが殺さなきゃならなかったの―――!」

「綺麗事だよ……シェラ―――現実とは“こう”言うモノだ……例え愛だけを語ったとしても、人は皆―――いつしか“現実”と言うものを直視しなくちゃならなくなる……」

「“それ”が答え―――?もういい……判ったわ、だったらその“現実”ってヤツを、イヤって言うほど思い知らしめてやる!! 『ヘレナ―――お願い……』」


激しくも、食い違ってしまった親子関係―――

娘は、かつての理想と、これからの現実を語り、父は、厳しいまでの現実を直視する―――まさにそう言うやり取りでした。

それにいくら議論を交わそうが、交わることのない接点に―――だからこそシェラザードは自分の持ち札の中でも一番強力な“切り札”を、使おう………………


――――――――と、するのでしたが……。


「お涕頂戴で盛り上がってるとこ、非常ひじょ~うに申し訳ないんだが……   我が主マイ・マスター―――どうやら、“ここまで”のようだ……」


急に、自分を裏切るかのような物言いをするヴァンパイア―――

しかも容姿は、少女”ではなく、匂い立つ色香漂わせる“若い男性”……それにこのタイミング―――での、裏切り行為に……と、思っていたら?

「ちょいとだけ―――状況が“こちら”にとって、かんばしくない方向になろうとしている。 なァに―――気にしなさんな、お前サンの方は“ツイてる”……だが、“こちら”にとっちゃ、ある意味面倒くさくなってきている―――って、ことなもんでしてね。」


何を言っているのか判らない……何を、云おうとしているのか判らない……

“連中”を粛清する機会タイミングとしては“好機”であるはずなのに……それが“出来ない”と言う―――その理由としても、『“こちら”の都合でしかない』―――と言うような、理解にも苦しむような表現で。


しかし―――?『お前サンの方は“ツイてる”』―――??



#28;オーガの本性サガ



すると―――城の扉が、重きを立てて、開かれる……


「(えっ……もう戻ってきた?いくらなんでも早過ぎる……それに、このままだと私は……ッ!)」


『城の扉が、重きを立てて、開かれる』―――こうした状況はたった一つの事しか考えられませんでした。

そう……城下に繰り出させていた兵達が、戻ってきた―――……


           ?   ??   ???


「ほう―――皆でお出迎えとは……用意がいいな。」


「(……)―――あなたは?」


王女シェラザードが振り返って見た時、そこには……

鎮圧の為にと出撃て行った兵などではなく―――


流れるような金色こんじき御髪みはつ―――

熱き情熱の焔を宿したかのような緋鮮の眸―――

目鼻立ちよく秀麗であり、匂い立つ色香を放ち―――


『緋鮮のドレス』―――  『黄金の甲冑一式』―――  『黄金の剣』―――


と、何から何まで『ある者』を彷彿とさせる一人の『美丈夫の剣士』でありました。


「私か―――?久方ぶりにこの国を訪れた時、何やら騒動になっていたのでな、だから、私が鎮めた……」


「おお―――それは大手柄じゃ!」

「どこの誰かは知らんが、よくやってくれた!」


「そ―――そんな……」


「フフン―――王女よ……お前の目論み、どうやら当てが外れたようだなあ?!」

「まあよい―――この女の処分は後回しだ。 それより誰か褒美を―――」


その『美丈夫の剣士』の活躍により、未曽有に防げたダーク・エルフからの侵攻に、悪しき者達はただ―――ただ―――喜びました。


そして逆に、なにもかも―――機会を失ってしまった王女は……ただ一人、愕然とするしかなかった―――

力なく、その場にへたり込み、自分の願いが……亡き母から受け継いだ想いと共に、潰えてしまった―――……


そう……思うしか、なかった―――


             ?   ??   ???


「ほう―――褒美を貰えるのか……本来ならば、何も言わずに立ち去ってやる処だったのだが……悪い気はしない、言ってみるものだな。」


「はっ―――ははは、まあそう言うな。 こちらとしては、“ほんの気持ち”だ……遠慮なく受け取ってくれたまえ。」


“連中”の中でも特に発言力チカラのある『伯爵』が、今回の騒動を収めてくれた『美丈夫の剣士』への褒美として与えようとしていた褒賞……今まで国の庶民達が収めてくれた“血税”で、王国の―――王室の権威を高める為にと買い揃えた『財宝』……それらが、誰とも知れない“赤の他人”の手にと、渡って行く―――


           だ             が


「うん?―――なんだ、“これ”は……」


「見て分からんか?この王国が有しておる財宝の一部だ。」


「(……)済まないが―――私は、そう言ったモノにはサラサラ興味がない。」


「ナニ?いやしかし―――お前が身に着けている甲冑一式にしても、黄金造りの一級品ではないか?!」


「一つ……言っておくのを忘れたことがある―――私は……オーガだ。」


「オ―――オーガ!!?」

「いや……しかし―――見かけでは、我らエルフとそう変わらないではないか……?」


「まあオーガにも豪華な財宝そう言ったモノに興味を示す者も、いることはいるが―――大抵のオーガは“生娘”を欲する。 それも―――うら若く、気高きエルフの『姫』や『王女』ならば、尚更だ。」


その『美丈夫の剣士』とは、果たしてオーガでした。

しかしこの者のげんにもあったように、宝石や装飾品のたぐいに興味を示し、集めている蒐集家しゅうしゅうかもいることはいるようなのですが……

この種属オーガの大きな特徴の一つとして、他種属の“生娘”を狙う者が多くあった―――その『美丈夫の剣士』もオーガの特徴宜しく己の趣向に従ったまでなのです。






つづく

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