第27話

“未明”によるダーク・エルフの襲来により、一時的にエヴァグリムの城下街は混乱の坩堝るつぼとなりました。


けれど……そこにはすでに―――


「(!)何者だ!お前は―――」


「この私が、何者であるか―――そんな事は些末さまつなことだ……。」


『緋鮮のドレス』に『黄金の甲冑一式』、そして『黄金の剣』……その“有り様”に、アウラは思う処となっていました。


「(なんだ……この者は―――……、“あの存在”と同じ―――この私も……幼い頃に憧憬こがれた―――【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】そのもの!)」


かの……創作話の序盤にくあり―――


『その者、鬼人であると言えどその心に大志を抱き、さある“智慧ある者”の助言を賜りながら世界を“正道せいどう”へと導く手とならん。

ただ……その者、鬼人であると言えどその角を持たず、その代わりとして目鼻立ちよく秀麗であり匂い立つ色香を放てり。

そして鍛えられたる“武”もさながらにして、身形みなりも他の鬼人とは異彩を放てり。

流れるような金色こんじき御髪みはつ、熱き情熱の焔を宿したかのような緋鮮の眸……周知である鬼人の風貌ではなく、他者の見様みようによりては、ヒト族やエルフ族の若い女性にょしょうに見えたり。

『緋鮮のドレス』、『黄金の肩当』『黄金の胸当て』『黄金の籠手』『黄金の腰当』『黄金の軍靴』の甲冑一式に、『デュランダル』と銘打たれし『黄金の剣』をたずさえたる。 

その者の名は『ニルヴァーナ』……しかして、この日この時をちたりて“”を――――



#27;【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン



―――と、自ら名乗りたる。』


          * * * * * * * * * *


状況がこうなるその僅か以前―――


「(宙空に飛竜が舞っているな……)それじゃ、オレはこれから【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】の『英霊』をこの身に降ろす……その後は手筈通りにお願いします―――」


「無理はしないでね―――」

「ご武運を―――」


「(……フッ)〖大いなるいにしえの英霊よ、我が身にりて契約のいしずえとせよ〗―――〖憑依―――英霊降臨エインフェリアル:【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】〗!」


教えられた通りに“式句”を唱えると、その場に焔が巻き上がり……そして顕現したるは伝承通りの容姿をした、“女性”でありました。


「(……)ふむ―――状況は好ましくはない……が、面白くはなってきているようだな。」


「―――あなたが……」

「そなた―――ノエルの娘だな。」

「はい!けれど……私の事をどうして……」

「そなたの出生の折、私も現場に立ち合っていたのでな……」

「(あ……)では―――」

「うむ……予定より早い陣痛に破水―――それを知ってしまった時、流石の私も肝を冷やしたものだ……だが、“ある方”の取り成しもあってな、母子共に大事なくて良かった……と、言う処だ。」


直接お会いした事もなかったのに、自分の出生時の事を知っていた……かつての仲間の慶事ではあったものの、同時に危険性を伴った出来事に、例え【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】ではなくとも共に駆けてきた仲間達にとっては心配したものでした。

が、そこはやはりノエルの母が語ったように『とある方』の取り成しもあり、母・娘共に生き永らえる事が出来た―――と、言う事だったのです。


それは、それとして―――


「では、【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】様、私からの依頼クエストを―――」

「いや……それは出来ぬ―――」

「(!)どうして……」

「私は……そなたからの、そなたからのその願い、聞き届けてやることは、出来ぬ……“同じ様な願い”を、重ねて受ける―――と、言うのは、な。」

「(!)私と……同様のお願いを―――既に?!それは一体……誰なのですか?!」

「違う種属……同じ性別……この私に叶わぬ“想い”をわずらってしまった『彼女』―――それも、特に禁忌とされているオーガとエルフ……」


『ローリエ』……私は、お前の想いに答えてはやれなかった―――


「それであるにもかかわらず、彼女が事切れてしまう以前まえ、私に託した事があるのだ。 彼女の出身国―――エヴァグリムの未来を……な。」

「そんな……では、かの王国の異変は、その方の代より既に……」

「彼女の時代では、小さな萌芽でしかなかったのだろう……が、ローリエはその危険性を予見していたのだ。 そう言う事なのだ……『こうなる事』は、目に見えていたのだ。」


そして……私は蘇えった―――“緋鮮の記憶”と共に……

その初仕事が、ローリエ……お前から託された事とは、皮肉と言うものだな。


「ゆえに私は、そなたからの頼みは聞けぬのだ。 そこは理解をしてくれ―――ノエルの娘よ……」


過去の存在であり、現在に於いては生きてすらいない―――言わば“霊体”……しかし、怨みがましくけがれた存在ではなく、生前の功績を認められ聖なるものへと昇華したものを『英霊エインフェリアル』と呼びました。

そしてオーガの術である『鬼道』を基に、依り代を媒介にして降霊する……こうして古代の英雄は、現代のこの世に蘇えったのです。


         * * * * * * * * * *


そして―――……


「そなた―――【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】とお見受けするが、相違ないな?」

「ほう―――そなたとは初見のハズであるのに、この私の事を古代の英雄と間違えてくれるとは……少々、面映おもはゆい事ではあるな。」

「(……)“違う”―――と言うのであれば、なぜ私の前にはだかる。」

「逆に問おう―――闘争を起こす気もないのに、なぜにあのような啖呵を切った―――私には、その事が不思議でならぬ。」

「なに―――?!だがしかし……あの場には、そなたの様な者はいなかったはず……」

「その場にはいなくとも、私には見れていたのだよ……肉体は失ってはいるものの、その魂は不滅―――そうした術をこの私自身の『盟友』の手でしてもらったのだからな……。 だから―――“視えて”いた、霊体となったこの私には全ての“導き”が手に取る様に判るのだ―――!」


“存在”の否定―――まではするものの……

その証言することで、判ってしまった……


間違いない……【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】は誰かしらに“憑依”することによりこの時代に蘇えったのだ……

ならば―――託した方が良いのか……?

シェラザードの国を護る為に、一肌脱ぐつもりであった私の代わりを……






つづく

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