第24話

今回―――ネガ・バウムの姫将軍アウラが起こした軍事行動に、疑問を投げかける者がいました。

そして“その者”は数々の疑問を紐解いていく内に、ある……“最悪の事態”を際立たせてきたのです。

「(……)これは……少々まずいことに―――」

「だから、どうしたってんだ?ササラ―――」

「先程、私が至った予測と今しがた至った予測とで状況が激しく違わせてきているのです。」

「それは……一体どう言う事?」

「先程の、シルフィさんが得たと言う“過去”の『布陣図』、それに伴う“過去”の『着地点』のあり方……そして―――“今代”は、“前代”とは考え方が根底から違う……」

「(はっ!)ああっ―――!?」

「そうです―――“過去”……“今まで”……“対処”をしてしまえば、エヴァグリムは確実にこの世から消滅してしまいます。   そう……優れた軍略家であるアウラの手によって―――!」

「そ……そんな?!では……シェラは?シェラは―――?!」

「(……)判りません―――けれどシェラさんはこの事も視野に置いて身分を隠し―――“ここ”を訪れた……はず…………なのに……なぜ……その事を―――“断念”?いえ……違いますね―――」

「どうしたんだ?ササラ―――」

「少しお待ちを……もう少しで、見えてきそうなのです―――シェラさんの……真の目的が……」



#24;破局点カタストロフィの模索



優れた智嚢を持ち、経験も豊か―――であるがゆえに、思考はめぐる……めぐる……めぐる…………


そして、巡った果てに見えてきたモノとは―――


        * * * * * * * * * *


その一方―――シェラザードは……


「(ふうぅ~~んむむ……)―――……。」

我が主マイ・マスター―――なにか悩ましい事でも?」

「ああ……いやね―――折角アウラが取ってくれた行動、無駄にしちゃいかんでしょう?……とは言ってもねえ~“タイミング”ての? それを間違っちゃうと立ち待ちの内にこの国は危うくなっちゃう……てかさあ~~この“タイミング”てのが実に厄介でね?ほんの少しでもズレちゃえばアウラの目論み通りこの国は魔界から消滅しちゃう―――のよねえ~……」

「つまり……あなた様からすれば『破局点カタストロフィ』が欲しい―――と?」

「そ―――……があれば、間違いなく私の真の目的叶う……もうこれ以上、“連中”のやりたい放題コトをのさばらせておくのなんて我慢の限界なのよ―――」

シェラザードの“真”の目的―――それこそ、今まで王国の王家をないがしろにし、あだを為してきた者達への……『粛清』―――それでした。


彼女はもう、我慢がならなかったのです―――

“連中”が起こす行動は、総てが自分達の為―――城下へ住む、下々しもじも達のことは露ほども考えず、いつも贅沢三昧に振舞える“様相ソレ”に―――

しかも、自分の父でありこの国の王であるセシルも象徴としての王裸の王様として成り果ててしまっている。

例え、“連中”の派閥である子爵家から婿養子として出されてはいるにしても、一国の王なのだから言うべき処は言ってもらいたかった……


けれど……側仕えセシルには、が出来ない―――

側仕えセシルは、“連中”が政治を壟断し甘い蜜を吸いやすいようにと、シェラザードの実母であるヒルデガルドに嫁がせたカイライ甘い蜜を吸う為の“管”……しかし、そこに夫婦間の愛情はなかったか―――と言えば、シェラザードはこう答えるでしょう…『そんなことはない』―――と……


そう……確かに、『政略結婚』であったとは言えヒルデガルドが亡くなるまで夫であるセシルは妻を愛した―――

ヒルデガルドもまた、“連中”の手によって殺されてしまうまで、夫を愛した―――

その愛の結晶こそがシェラザードなのです。


しかし―――母であり、妻である者を失ってしまった時から、“親子”間の関係も、『流転』する―――

国王とは名乗りながらも、政治の実権などはなにもない……だからこそセシルは―――自分の娘の“監視役”としての、『側仕え』として生きていくことを選択した……


セシルは―――娘であるシェラザード見ていない……

それは、“父”であるからこそ―――そしてまた“国王”……

あるいはまた、“連中の傀儡くぐつ”であるからこそ、娘の動向を見続け……―――自分の“ご主人様”達の為にと、報告を上げていたものだったのです。


それはまさにゆがんだ愛―――いえ、最早それは、ゆがみ過ぎた愛……


だからこそシェラザードは、そんな“父”に同情出来なかった―――

国王連中の傀儡たる父には、同情すら湧かなかった―――


もう……国内エヴァグリムには味方は見当たらない―――

だからこそ、国外マナカクリムに救いを求めたのです。


そこで巡り合った“運命共同体なかまたち”―――


「(私の選択は間違っていなかった……きっとこの人達なら、“連中”へのカウンター・パワーとなってくれるだろう……。)」


けれどそこで“一つの誤算”が生じました。

それが自分の行き過ぎクーデーターを差し止める為に……と、“連中の傀儡”と成り果ててしまったセシルから差し向けられた刺客―――

しかしこの刺客の正体こそ、自分も幾度となく読み返したことのある『緋鮮の記憶あの創作話』……あのお話しに登場している、『ヴァンパイアの公爵』その人だったのです。

そのお話しでは、『ヴァンパイアの公爵』の記述はそうありませんでしたが……

“強さ”に関しては、桁外れになされていた―――

その事を知っていただけにシェラザードはかねてからの計画を変更したのです。

それと言うのも―――実際自分がこれから起こそうとする変革は、無事五体満足で済む―――とは思っていなかったから……

だから……これから、一緒に傷つき或いは死んでくれと言う、そうなる事をある意味無茶ブリにも似たことを頼み込むのに“絆”を……関係を深めようとしていたのです。

そんな中で出会った、“強者”―――もう既にその身は“不死”であるから程度以上の心配はいらない……それどころか、あのお話しでも主人公達を手助けしてくれていた


呆れるほどに“強く”―――   呆れるほどに“不死しなず”―――   呆れるほどに“独善ひとりよがり”で―――   呆れるほどに“傲岸”にして―――   呆れるほどに“不遜”―――……


それが唯一許された存在―――『公爵ヘレナ』だった……

そうした“彼らヘレナ”が、自分と血の誓約ちかいを立ててくれた……


『この、唯一無二にして、強者である存在が、私の味方に付いてくれるなら……』


だからこそ、絆を紡いできた者達に、“見切り”をつけたのです。






つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る