第23話

幸いにして、自分達の仲間であるシルフィは戻ってきました。

そしてまたそこで、『不都合な真実』も語られた―――

『公爵ヘレナ』と名乗る、魅力あふれる男性に甘やかなる声でささやかれた『ある事』―――

“それ”を聞かされたササラは―――そしてまた、ヘレナの為人ひととなりも知っていたと見え、『不都合な真実』を聞いたまででそれ以上のことを語ろうとはしませんでした。


その事はクランの仲間であるヒヒイロカネやクシナダも“おかしい”とは思った様なのですが……

実は、大きな変化はシルフィの事情だけではなかったのです。


そう――――――


「ええっ―――?ネガ・バウムのアウラ様が……」

「ああ―――あの方とシェラが顔見知りだと知った時にはビックリしたもんだったが……あいつ―――シェラのヤツが『エヴァグリムの王女』だった……なんて、そっちの方も驚かされたもんだったぜ。」

「そうね―――お互い責任のある立場だもの……だから、お互いの事を知っていてもおかしくはなかったわよね。 それより……クシナダ?どうしたの―――」

ネガ・バウムの姫将軍アウラが、エヴァグリムの王女シェラザードと王国の官達が詰めている場所で堂々と宣戦の布告をした―――

その時シルフィは『資料室』と言う場所で王国の身中に巣食う蟲達の炙り出しを行う為の材料探しにあくせくしていたこともあり、この事態の事を知らなかったのです。

{*だから、ヘレナのげんにより、『王女が戻っている』事を知らなかった……と言う対応になっていたと言うワケ}


それはそれで良かったのでしたが、どうも晴れやかな再会の場であったとしても今一つ表情が優れない自分の友人に気遣うところとなったのです。


が…………


「私は……判らないのです―――どうしてシェラは、その最初から自分の事を『王女』とは言わなかったのでしょう……。」

「(……)それは―――私には判りません。 だって私は、“身代わり”はこなせたとはしても所詮『シェラザード王女様』ご本人ではないのですから。

けれど……私も、『王女の身代わり』をこなしていく上で少しずつながら判ってきたことがあるのです、それは今まで一般庶民だった私ならば一生気付かない事だったのかも知れません、そう……私は知ってしまったのです―――エルフの王国『エヴァグリム』には、既に慢性的とも言える『悪徳』が蔓延はびこりその巣窟と化していた……それをあの方は―――王女であるシェラザード様や、その“母君”であられた方は、たった一人で立ち向かおうとした……向かって行ったのです。

それに“王族”と言う身分は、私達から見れば羨ましいかも知れませんが……あの方々からしてみれば“束縛”の何物でもなかった……そう―――“束縛”なのです、“行動”も“思考”も“発言”……してや“知識”さえも、今の王国は異常なのです―――本来、国を統治すべき国王陛下ではなく、一部の特権階級と言っていい上級貴族や官僚が自分達の都合のいいようにまつりごと壟断ろうだん出来ている―――それが王国の現状であることを私は『王女』と言う目を通して見ることが出来た……今、シェラザード様が行動を起こそうとしているのは、あの方や……してや王族の利権の為だけに動いているのではないのです! そう……言うなれば―――」



#23;総て庶民の為に



『王女』―――であるのに、行動力溢れる女性エルフ、シェラザード……

そのアグレッシヴさは時にトラブルを後から連れては来ましたが、彼女のお蔭で得られたことも多くあった……それに今、無理矢理とは言え『王女役』を押し付けられたがゆえに見えてきてしまった『王国の裏側』……だから4人は、この時までに得られた状況・情報を共有しこれから起こり得るであろう出来事を予測また新たな“こたえ”を求めようとしたのです。


その“一つ”が―――……


「それから、先程ヒヒイロさんが言っていましたようにネガ・バウムの侵攻は本当のようですよ……。」

「(!)そいつは……参ったなあ―――」

「それでシルフィさん、今あなたがつかんでいる情報モノとは?」

「……“こちら”は―――簡易性にはなりますが、私が速記で書き写した『布陣図』です。」

「(……)まるで、城を取り囲んでいるかのような布陣だなあ。」

「(フ~ム)そう言えば……アウラ様も、そうしたたぐいのことを言っていましたよね?(ムヒ?)」

「言われてみれば―――」

今回、端を発してしまった―――ネガ・バウムの姫将軍が直々に陣頭指揮をし、エヴァグリムを攻め入ると言う軍事作戦行動……

それを裏付けるかのようにシルフィは、王女の身代わりを果たしていた時に修得をした『布陣図』を書き写したものを仲間達に見せたのです。


ところが―――……


「(フ~~ム)――――――…………。」

「どうかされたのですか?ササラ様―――」

「(ムヒョ?)はい? いえ……少し妙だと―――」

「“妙”? とは―――?」

「シルフィさん、あなたは“これ”を『』―――と、言う事でよろしいのですよね?」

「はい……その通りですが―――??」

「“それ”少しおかしくありませんか?」

「えっ?」

「(!)そう言う事―――?」

「どうしたの、クシナダ……」

「『書き写した』と言う事は、この布陣図は……そう言う事ですよね?ササラ様―――」

「その通りです。 それに、私の知り得る限りではアウラ様は軍略にも優れておいでです……そんな方が―――わざわざこんな古めかしいものを?引っ張り出してきてまで??それが“妙”だとは思いませんか?」


言われてみると―――しかしそれも経験豊富な【黒キ魔女】だったからこそ導け出せた“特異点”と言えたものだったのです。

恐らく彼ら3人……元のクランメンバーだけなら気付きだにしなかったことを、優れた智嚢を持った者を一人入れるだけでこんなにも違ってくると言う事をさながらにして知るのです。


―――とは言え……


「だとしたら―――アウラ様の目的とは、一体なんだ?」

「(……)シルフィさん―――あなたは、この布陣図……訳ではありませんよね?そこには当然―――『その後どうなったか』も、記録としてあったはず……」

「はい―――とは言え、それは“今代”ではなく“前代”にはなりますが……小競り合いすらなかった―――総てに於いて『講和』で解決を図っていました。」

「やはり―――……」

「“やはり”―――とは?」

「お聞きした通りです。 この両国家間で直接的な『軍事衝突』は、なかった―――もしあったとすれば随分と昔に『エヴァグリム』というは、この地上から消えていたはずなのです。」

「(!!)そんな―――……」

「恐らくは……なのですが―――ネガ・バウムがこうした行動を起こせば『貢物を贈る』などして『退いてもらう』のが慣習となっていたのでしょう……」


しかし―――この後……

ある“最悪”をはらんだ『こたえ』の“一つ”が―――

【黒キ魔女】によりなされる―――……






つづく

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