第2話
殺し屋は、ふたりいる。
ひとりは、自分だった。もうひとりは、企業や組織の浄化を得意としている。
自分が得意なのは、個人的な依頼のほうだった。個人の恨みや、特定の相手に対するころし。
心をころす。身体に害を与えず、トークとコミュニケーションで相手の心を存在しないものにする。対象をどこまでころすかも、依頼内容による。
ひとつだけ、依頼を受けるにあたっての条件があった。
依頼者も、同時に対象者になること。
対象者と依頼者を比べ、依頼者のほうに問題があれば、依頼者をころす。政治案件もそこそこ送られてくるが、だいたいは依頼者のほうに異常がある。だから、依頼者をころす。
「お願いします」
政治案件。目の前の女。目が座っていない。ずっときょろきょろしている。
「承りました。条件があります」
依頼者も対象者になることを、説明した。
「わかりました。それでもかまいません。どうしても、あの政治家を、なんとかしたいのです」
おどおどした顔。
「わかりました。ではお帰りください」
「あの、結果は」
結果。いったいこの馬鹿は、何をどう結果と表現しているのか。
「結果ですか。あなたの命が永らえていることが結果だと考えてください」
睨みつける。
「あなたに問題があることが分かれば、私が直々にころしに行きます」
相手の顔。怯え。
そのまま足早に去っていく。扉の閉まる音。
「ばかどもが」
会いに行くことはない。電話一本で、ころすことはできる。発話して、それを相手が聞くだけでいいのだから。
対象者。若くして内閣に入った大臣。
「ばかどもが」
つい、何度も口にしてしまう。
この大臣は、稀に見る素晴らしい政治家だった。素晴らしい女優だったのが、何か思うところがあって政治家に転身している。そして、法案と採決が素晴らしい。速度もそうだが、なによりその正確さと未来を読み人間の根幹をしっかりと守る判断に長けていた。
この大臣をころすのは、ありえない。
しかし、確認は必要だろう。
そろそろ、来るだろうか。恋人からの電話が。
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