殺し屋がふたり、女がひとり
春嵐
第1話
殺し屋が、ふたりいる。
ひとりは、自分。社会に溶け込むタイプ。受けるのは企業案件。もうひとりは、個人の案件を多く受けている。
企業や組織に属して対象を観察し、そして殺す。わりと普通に、他殺で。警察に事前に話を通すので、立件はされないし捜査もされない。そして、内部案件もいくつか取り扱う。浄化や汚職の一掃には、だいたい声がかかる。
政治家の案件だけは受けない。彼らは純粋な生き方をしているので、殺すのが、なんか、もったいない。
依頼者の安全と機密保全が第一だった。そのため、殺しそこねることもある。依頼者のイメージが第一。自然に、最後通牒のようなものも用意することになる。
「政治家のかたの案件は受けないというの、わかってますか?」
目の前。大臣。綺麗な顔。
「わかってるよ。私は政治家だけど、これは政治案件ではない。組織内の案件だ」
大臣。長い髪を結い直している。この若さで閣僚。しかし、白髪は隠せていない。まだ三十前だってのに。
「うちの省庁内で、私を殺そうとする動きがある。政治的社会的にではなく、物理的に」
「ほう」
狙われているわけか。
「だったらうちの案件ですね。私は依頼者の安全と機密保持が第一ですから」
「ありがとう。お願いするわ」
儚げな顔。疲れが見える。
「次の法案を通すまでに。よろしくお願いします」
頭を下げる。大臣なのに。この国で上から十人ぐらいに入る、偉い人間が。
「承りました」
大臣。帰っていく。扉の閉まる音。
「ひどい話だな」
一生懸命女優をやって、その役作りで出会った人間に共感し、人間を救うことができる仕事を目指す。そして奮闘の結果、政治家に転職。そういう過去を持つ大臣だった。清廉潔白、この女が政治家になったことで救われた人間は、数知れない。
それでも、大多数の人間はこの大臣をアイドル枠だとかお色気担当だとか言ってばかにする。誰も、大臣の具体的な功績に目を向けもしない。
「救われないな、大臣も」
最も人のために働く人間が、最も人からばかにされている。
「さて」
だからこそ、助けなければならない。
電話をかけた。
おそらく、似たような案件を抱えている頃だろう。私の恋人も。
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