第63話大切なもの

「い、命より…でしょうか…アンスロット家の家宝…いや、国への忠誠心?」


「まぁそれも大切だけど命ほどではない。それよりも大切なのが……フローラやマリー、テオドールにシリル…私の家族だ。彼女らの代わりになるなら家宝でも国でも手放すよ…」


「そ、それは…」


ビルドはタラっと汗が滴った…


もう駄目だ…あの馬鹿娘はジェラート侯爵の命よりも大切な妻と娘に不敬を働いた…


最悪娘だけの責任で済むかと思っていたが…自分が思っていた以上に最悪の状態だった。


ビルドは覚悟を決めて顔をあげた。


「わかりました…どのような罰でも謹んでお受けいたします」


諦めたビルドは汗がピタリと止まっていた。


「当然です」


トーマスが当たり前だと冷たく言い放つ。


「その代わり…罰は私と娘だけにしていただけないでしょうか…どうかお願い致します」


ビルドは床に座り込むとその頭をゴンッと床につける!


「彼女は当たり前ですが…あとあなただけで済むことだと?」


「い、いえ…私程度ではジェラート様のお心が許せないのは重々わかりますが…他の者達にはどうか…どうか慈悲を…」


ジェラートとトーマスが顔を顰めて顔を見合わせていると


トントン…


扉をノックする音が響いた。


「誰ですか?」


トーマスが扉に近づいて声をかけると


「マリーです。お父様に用があって…忙しいですか?」


「マリー様!」


トーマスはジェラート様を見ると二人は慌て出す。


「ビルド伯爵!立ちなさい!」


とりあえずビルドを立たせると…それを確認してトーマスは扉を開いた。


「マリー様…今お客様が来ております。後でジェラート様とお部屋に向いますので御用はその時に…」


「お客様?」


マリーはひょいと顔を覗かせるとちょっと背の低いおじさんが部屋に居心地悪そうにたっていた。


目が合うとマリーはニコッと笑って頭を下げた。


「お客様でしか…すみませんでした。マリーと申します」


マリーは青い顔のおじさんにスカートを両手で少しあげて膝を折って挨拶をした。


「ご丁寧に…マリー様、ビルドと申します…」


ビルド伯爵はマリーに深々と頭を下げた。


「マリー、用事は何かな?お父様は今こちらのビルドさんと話があるんだ。御用なら後ででもいいかい?」


「わかりました!先生の事でお話に来ただけですからまた後で」


マリーかにっこり笑うと


「先生?先生とは…」


トーマスさんが聞くと


「ラクター先生です」


今ちょうど話していた内容に二人はマリーの思いが気になった。


ビルドは何を言われるのだろうとビクビクしていると…


「ちょっとだけなら話を聞こうかな、マリー言ってみなさい」


ジェラートが優しくマリーに問いかけた。


「え?いいんですか?」


マリーはビルド伯爵の方を見るが構わないと言われてしまった。


なら…とマリーは口を開くと…


「ラクター先生が辞めるって聞いてなんでかなと思って…」


「ああ…それは…まぁ彼女の都合です…ねぇビルド伯爵」


ジェラートがビルドをじっと見つめる。


「は、はい…」


ん?ビルドさんがなんで頷くんだ?


私が首を傾げていると…


「ラクターの父です」


ビルドさんは申し訳なさそうに頭を下げた。

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