第60話私は悪くない
どんよりと曇る空の下…私は囚人のように家へと帰された…
持っていた荷物も鞄に乱雑に詰め込まれて気がつくと屋敷の前に着ていた。
私を送る事になった御者と従者は乗ってる間ずっとこちらを睨みつけ口を聞こうともしない。
一体何を間違えた?
「お嬢様?」
棒立ちでいた私に屋敷のメイドが怪訝な顔で出迎えた。
「どうされたのですか?」
隣のニコリとも笑わない従者の顔を見てただ事で無い様子にメイドは顔色を悪くすると…
「お待ちください!すぐに旦那様を呼んできます!」
従者に声をかけると慌てて屋敷の中へと走っていった。
メイドと父が息を切らせて走ってくると…
「アンスロット侯爵様の者がお待ちだとか!?」
私の事は無視して従者に駆け寄った。
「私は旦那様からこれを預かってきました。詳しい事はそこに書いてあります。ではこれで…」
そう言って手紙を渡すと軽く頭を下げてこちらに少しだけ視線を送ってきた。
その視線は冷たく今にも暴言が吐き出しそうな顔をしている。
「チッ…」
舌打ちをするとここに居たくないと言うようひと睨みすると顔も見たくないのか振り返ることなく凄い速さで帰って行った。
「な、何があったんだ?」
父がその様子に唖然としながら手紙を見つめていた。
「お、お父様…」
カラカラの口で声を絞り出すも声にならない。
「話は中で聞く、とりあえず入りなさい」
お父様はため息をついて屋敷へと入っていった。
メイドが私の荷物を受け取ると重い足を引きずってお父様の後を追いかけた…
「それで?何があった?」
お父様は椅子に腰掛けそういうとジェラート様からの手紙を開封しだした。
「わ、私はただ…いつも通り子供達に勉強を教えていて…」
「それならこんな時間に帰されるなんて事はないだろ?」
「え、えっと…ジェラート様の子供に文字が読めない子がいて…私が教えるに値しない子で…」
「まさか…その子になにかしたのか!?」
お父様が驚き立ち上がると…
「な、何もしてないです!何も…」
「なんなんだ…」
埒が明かないとお父様は手紙に目を通した…そしてそれを読み終える頃には顔を蒼白にしていた…
「お前は…なんて馬鹿な事を…」
そして頭を抱えたと思ったらすぐに立ち上がり
「すぐに謝罪にいく!馬車を用意しろ!それと…何かお詫びの品を…」
従者やメイドに声をかけた。
「な、なら私も…!」
ちゃんと謝ってまた戻してもらおう!
お父様について行こうとすると
「お前は来なくていい!部屋に居なさい!いいか!この子を部屋から出すなよ!」
屋敷に残る従者達にそういうとさっさと部屋を出ていってしまった。
「お嬢様…お部屋に」
メイドに連れられて私はとぼとぼと部屋へと向かった。
部屋で何をする訳でもなくボーッと座っているとムカムカと怒りが湧いてきた!
なんなのみんな!私は悪くない!ちゃんとやる事をやってきた!
だいたいあの子供達を甘やかせ過ぎだ!私の時はもっと厳しかったのに…
「そうだ…きっと今回もお父様が何とかしてくれる。そしたら今度はもっと上手くやれる…だってあの子が字を覚えたのも私のおかげだから」
そうだ!そうだ!あんな短時間で字が覚えられるようにしたのは私だ!
もしかしたら今頃勘違いとわかってお父様に逆に謝ってるかもしれない!
そう考えるとスーッと気持ちが軽くなった!
「ねーお茶を入れて!」
私は気分も晴れやかにメイドに向かって笑顔で声をかけた。
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