第51話価値

「ではシリル様はこちらの勉強を致します、もしわからないことがあればなんでも聞いて下さいませ」


ラクターがニッコリと優しく笑いかけると持っていた紙を数枚シリルに渡す。


「ねぇ…なんでマリーには教えないの?」


紙を受け取りながら、いつもとは違う低い声でラクターを見つめた…


「え?ああ、マリー様はまだ私が教える価値が無いからです。まぁ今後も教える事はないかも知れませんが…」


馬鹿にしたようにクスッと笑うと


「あっ!ですがシリル様は違います!この年であのテストを満点など…私の子供の頃を思い出すようです!」


興奮した様子でシリルにぐいっと近づいた!


「しかも凄く可愛らしく…シリル様は本当に先が楽しみな方ですわ!」


先程とは違い誇らしそうな顔を見せた。


しかしそれとは反対にシリルの顔は不快そうに歪んだ。


「僕の事よりもマリーを見てあげて下さい。僕は一人でこれをやってますから」


そう言って先生の持っていた紙を見つめると…


「ふん…この程度すぐ出来るよ…」


鼻で笑う。


「え?こ、これが簡単なんですか…」


「そうですね、もしかして先生が僕と同じ歳にはこれ解けなかったんですか?」


「い、いえ…勉強すれば…」


「勉強?え?先生なのに勉強しないとわからなかったの?」


驚いた顔を見せる。


「で、では…もう少し先に出そうとしていたこの問題はどうでしょう…」


ラクター先生が鞄から違う紙を取り出した。


「えーっと…ああ、どうにか出来るかな…」


シリルはそう言うと紙にサラサラとペンを走らせた。


「はい」


シリルがニッコリと笑って先生に紙を差し出す。


「も、もう?は、拝見します」


先生が受け取るとシリルの答案を見つめ、目を見開いた!


「せ、正解です…」


「ああやっぱり、前にテオドールお兄様に教えて頂きましたから。先生よりお兄様の方が優秀かもね…」


クスクスと笑う。


「くっ…この…」


先生は紙をギュッと握りしめるとシリルを睨みつけた。


「だから僕にはあなたは必要ないよ。それよりもマリーをみてあげてよ」


「なんで…なんでこんなに出来るのにもっと先に進もうとしないの!」


「そんなの僕の自由でしょ…しかもお父様に雇われてる身でマリーを蔑ろにする…絶対そんな事許さないよ。この事はお父様に報告するからね」


「ふん!子供が!なんとでも言いなさい!私はジェラート様に信頼されているわ!子供のわがままなどあの方は信じない」


ラクターは勝ち誇った様に笑う。


「それはどうかな?」


シリルはニヤッと笑った。


シリルとラクター先生がバチバチと火花を散らしている時…マリーは字を書くことに集中していた。


「なーんで話せるのに字がかけないんだろ?言葉はすぐに理解出来たのになー」


文句を言いながらも一生懸命難解な文字を写していく。


「しかし…これ終わるか…」


パラパラと分厚い本をめくった…


手が痛くなった頃、一息つこうと顔をあげると…


「あれ?」


部屋にはラクター先生もシリルもいなくなっていた。

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