第48話成長(マリー五歳)

その日からお兄様が私とシリルに本を読み聞かせる事が日課となった。


シリルもすぐに私達と仲良くなり子供らしい笑顔を取り戻していった。


お兄様が勉強の時は私とシリルで遊んでその事を夕食の時にお父様とお母様、お兄様に話して聞かせる。


私が上手く伝えられない時はシリルがさりげなく付け足してくれた…多分シリルは私より全然頭がいいのだろう。


しかしシリルはそんな私を尊重して、頼ってくれた。


優しい父と母、頼りになる兄、可愛い弟。


幸せな家族を持って楽しい日々を過ごしていく…そんな私達も少し大きくなりシリルと一緒に家庭教師がつくことになったのだった。




「ではマリー様とシリル様にはこの問題を解いてもらいます!」


家庭教師として雇われたラクターが少し上向きに上がった眼鏡をクイッとあげてこちらを見下ろした。


髪をビシッと束ねて一つにまとめて後ろでお団子にしているその姿は教育ママのようだった…


「クックッ…」


その姿に笑いを噛み殺していると…


「マリー様!何を笑っているのですか!公爵家の息女ともあろうお方がそんな事でどうするのですか!」


持っていた鞭のような棒でビシッと机を叩かれた。


おお!なんか厳しい家庭教師そのままだな!


怒られた事よりもお手本のような姿に感心してしまった。


「マリー…大丈夫?」


シリルが心配そうにそっと声をかけてきた。


パチッ!


全然大丈夫だよ!と私は無言でウインクを返すとシリルがほっとした顔を見せてくれる。


本当に姉思いの可愛い弟だ…是非とも可愛いシリルには幸せになって貰わないと!


本人の為にも…私の為にも…


ぐふっ…


思わず下卑た笑いをすると


「マリー様!」


ビシッ!


もう一回鞭が飛んできた。


先生は持っていた紙を私とシリルの机の上に乗せるとキッとこちらを睨むように見つめた。


「では時間は15分程度で!まぁそのくらいあれは全て解けますよね。では始め!」


なんの説明もなく開始の合図…とりあえず紙を見ると…


「なんだこりゃ…」


みた事のない文字が並んでいた…そういやお兄様の絵本読んで貰っていたが自分で見た事無かった…


問題なく喋れるから文字もわかると思っていたがさっぱりだ!


英語とも違う文字に手が止まる。


ちらっとシリルを見ると、スラスラと文字を書いていた。


「え!シリル読めるの!?」


私が思わず声を出すと…


「う、うん…テオドール兄さんにたまに教えてもらってたからね」


ええー!私の知らないところで二人が勉強…何それ!見たかった…


ぐっと悔やむと


「ご、ごめんね。今度は誘うよ」


シリルが落ち込む私に声をかけてくれた。


「ううん…大丈夫。二人の時間を邪魔しちゃいけないし…」


私が首を振ると…


「マリー様!!テストに集中してください!」


またラクター先生に怒られた。


怒られついでに正直に言おうとおずおずと手をあげると


「すみません…先生…わたし文字が読めません」


何も答えない先生を見ると驚いた顔をして口を開いていた。

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