第7話 学園のお宝(ネタ)を求める女生徒
学園に居るリリスと通信を取って、トイレから出る。
――パシャリ
しかし、どうも今朝から……いや、昨日から感じる違和感が拭えない。
――パシャリ
……とりあえず、また後で再びリリスと連絡を取ってみるか。
――パシャリ
………………
「……さっきから堂々と俺の前でカメラ構えて撮りまくるのはやめろ」
「あっ、さすがに気づかれちゃいましたか」
隠れる素振りもなく堂々と俺の前に現れたのは瑠凛の制服を身に着けてショートのサラサラヘアーなのに頭頂部にはピンと根本から鋭利に曲がっているアホ毛を垂らしている女子生徒だった。
「そこまでしたら、どうか気づいてくださいってあからさまなんだがな」
「ああは、それはそうですか」
彼女は口元をМの形でニヤつきながら自己紹介をした。
「失礼しました。私、同じ1年の瑠凛学園のニュース部に所属している
「ニュース部……ああ」
「え? なんですか! そのあからさまな嫌そうな目なんかして!」
「いや……悪い」
「全然悪く思ってませんよね!?」
瑠凛の部活動であるニュース部の存在は知っていた。
いわゆる新聞部みたいなものだ。
瑠凛学園に関わる様々な出来事を記事にして、生徒達にニュースとして配信する部活動。
俺は1-Aクラス以外の1年生徒の情報も、ある程度は把握している。
その中でも今、目の前にいる女子生徒も調べてあった。
――
家柄が大手とまではいかないが、近年ではネットニュースのサイトを運営したりと大手新聞会社に次ぐ、勢いのある新聞会社の名家の御令嬢。
「とりあえずそのデジカメは今すぐ仕舞え」
「ふっふー、ちゃんと課外活動でご一緒中の先生方には許可取ってますから! なのでカメラは仕舞いませーん。……といっても先生からはこの課外活動での思い出の記念写真の仕事も一緒にやることが条件でしたけど……」
「にしては、さっきからやたらと俺を撮ってたりしてないか?」
「あっ、それもバレてました? 実は風時さんの写真は記事のネタだけではなく、とあるルートでは高く売れ……いえ、なんでもありません」
「おい、今の聞き捨てならなかったぞ」
「それは置いといてですね」
俺の話を聞かずに立て板に水を流すようにペラペラと続けていく。
変なのに絡まれてしまったな……。
「実は今度、名門瑠凛学園期待の1年生!として風時さんの特集記事を組もうかと考えていて」
「そんなの許可するか」
「ちゃんと許可取ってますよ? なんと! 山之蔵生徒会長に談判したら即OKでした!」
「は?」
「ちなみに副会長と書記の双方からも許可を頂いてるお墨付きですよ! 生徒会3人方からなので無敵です! これも条件付きでしたけど」
「……」
相変わらず、あの3人には学園から離れていても頭を痛めて、秋山が後半言っていたことが聞いていなかった。
「安心してください! なるべくプライベートな部分を赤裸々に公表するつもりはありませんので。私ちゃんとそこはわきまえてますよ?」
「……そういう問題じゃない」
「それに今の時代はもう紙だけでお届けしません」
ジャジャーン!と彼女が取り出したスマホの画面を俺に見せる。
画面内にはカラフルなレイアウトで瑠凛学園についてまとめた特集記事の見出しが映っていた。
「瑠凛ニュースアプリ! 風時さんももちろん配信登録してますよね!」
ニュース部はこういったニュース系のアプリなんかも作っていて定期的に登録している瑠凛生徒達のスマホに記事の配信をしている。俺のクラスでも購読している生徒が何人もいてと知っているが、
「入れてないな」
「入れてないんですか!? このアプリ、そーゆう実績のある会社に任せて作ったんですよ! しかも結構バカに出来ないぐらいの費用が掛かったので登録してください! せっかく私が集めたネタを提供して載せてるんですから!」
と、このようにマスコミ気質。
常に彼女の胸元に差してるボールペンとメモ帳から分かるように日々こうやって情報(ネタ)を追い求めている。
「さてさてー……ああ!?」
秋山は飄々とした笑みで先ほど俺を撮っていたデジカメの裏にある画面を見ると
ギョッと驚きの表情に変化した。
「なんてことに! 風時さんだけ顔がブレてて上手く撮れてない!」
俺にデジカメの画面を見せるように向けると、画面に写っているのは俺らしき人物の顔面部分だけボヤけていて誰なのか判断出来ない。
「写らないようにしているからな」
「え? もしかして、わざとだったんですか!?」
諜報員であるならば必須のテクニックだ。
スパイ活動というのは常に周りの視線、特に監視カメラに気をつけなければならない。潜入に成功したところで顔をバッチリ見られていては意味がないからな。
「コツがあるんだ。そのデジカメの場合だとシャッター音が鳴る直前の微細な音を耳で拾うと同時に顔を反らしてな――」
「風時さんは芸能人がなんかなのですか!? しかもさりげに結構すごいことやってません!?」
おっと……余計なことを言ってしまったか。
ここで諜報員の技術を話すわけにはいかない。
「そういうわけではないが……」
「でも風時さんが瑠凛学園(ウチ)では有名なのは間違いないですね」
「どういう意味だ?」
「なに言ってるんですか。学園だと現在注目されているのが あの生徒会に! 入学してすぐに入った風時さん、あなたなんですよ。それだけでも大注目されることなんですから!」
ぺこりと軽く頭を下げられる。
彼女の言う通り生徒会に入った時点で注目されるのは仕方ないのは分かっていた。
「ところで――」
わざと一拍置かれて、
「最近、倫理教科を担当していた室岡先生が辞めましたけど……風時さんって――『その理由』知ってたりしますか?」
「……」
ここぞとばかりに切り込んで来た。
今この瞬間を待っていたかのように。
これこそが本題だと狙っていたんだと。
「あの先生結構慕われてましたよね~。まあ、私はなんかどことなく胡散臭いな~って思ってましたけど。……とある一部の情報筋では部活動の予算申請で不正があったのが発覚したらしく、数人の生徒が退学しましたよね? それが室岡先生も関わっていたのではないかと睨んでるわけなんですよ、なので生徒会の会計を担当している風時さんは知ってるんじゃないかなーと思ってて」
秋山は自信を持って目敏く語っていた。自分の語る節には一切間違いがないと。
「私、色んな人に取材してるとですね。なんとなーく分かってくるんですよ。事と事には繋がりがあって……どれも関係しているんじゃないかって」
語りながらも秋山の視線は俺を調べるかのように見定めていた。
「それで結局のところ――どうなんですかね? 生徒会の風時さん」
そうだ。俺は秋山雛読のこういう所が受け付けられない。
「……さあな。なにか事情があったんだろ。気になるんだったら取り締まっていた風紀委員会でも聞けば?」
「ええ!? 無理ムリですよー! だって風紀委員会にはあの氷の女王がいるじゃないですか! 前に突撃した時は冷たい目つきでアレコレと言われて落ち込んだんですよ!」
「……聞いたのは聞いたんだな」
風紀委員長の春川先輩に冷たくあしらわれる光景が容易く思い浮かぶ。
「でもそうですかー。知らないですかーそれは残念ですねー」
そう呟きながら秋山はスマホを操作してメモを取っているようだ。
「まあ世間話はこれぐらいにして」
すぐさまに切り替えて。
「私はですね。――実は風時さんにとっても興味があるんです」
「どうせニュースのネタとしての意味だろ?」
「あっ酷い。それはもちろんですけど~……」
また、わざとらしい一拍を置いて。
「でも話が分かってくれるようなので何よりです。では、ここからが本題の本題です!
それでは風時さん。私と――」
「断る」
「いくらなんでも即答過ぎませんか!?」
秋山は口に手を当てながら驚きを隠せないリアクションを取る。
彼女にとっては予想外過ぎたんだろう。
「どうせ俺から生徒会についての情報が欲しくて取引がしたいと言うつもりだったんだろ?」
「うっ」
図星だ。
そんなことだろうと俺に接して来た時点で予想がついていた。
生徒会の会計、そして同じ1学年の俺に取引を持ち掛けるのは至極当然の判断だ。
「そ、それはそうですけど~。でもでも、もうちょっと私の話を聞いてからでもいいじゃないですか?」
実はこの秋山雛読という女子生徒については瑠凛学園に入学する際、協力者を探していて彼女はニュース部の部員だということで筆頭だったが……。
「なら良いネタ(データ)も風時さんにだけ特別に教えますよ! 知りたいあの女子のスリーサイズだって! それも先月の健康診断による新鮮なデータですよ! 男の子ならすごく喉から手が出るほど欲しいはずですよね!」
「……」
「あ、それとも私のスリーサイズが知りたかったりするんですか? これは高くつきますよ?」
「……はあ」
ため息しか出ない。
こいつは自分が欲しい情報を手に入れるならば躊躇なく機密情報を渡すこの姿勢。
とにかく当たって砕けろのマスコミの精神で諜報員との協力者には向かないということで除外した。
「いらない」
「そんなー。他の男子生徒だったら条件反射で飲んじゃう魅力的な取引なのに」
「お前のは取引じゃなくて只のエサで釣ってるだけだ」
やはり俺と彼女とでは気が合わない性質だ。
「……センサーがこうグイっと来てるんです。風時さんにはとても魅力的なネタが宝箱のように眠っているんだと」
そのアホ毛はセンサーの役割があったのか。
「……私、この学園には沢山のネタが詰まってると思うですよ。それを瑠凛の生徒達にも知ってもらいたいんです。だから暴きたいんです。――風時さんもそう思いません?」
「……俺は」
「やっぱり最近何かあったみたいですね?」
ニヤっと細まった目で秋山は笑った。
「でもその話は追々聞けたら良いので、それよりも私は今後とも風時さんには期待してます!」
めんどくさい子に目をつけられた。
……いや、ずっと前から目をつけられていたのが正しいのか。
「それでは私はこれで――」
秋山はくるりとUターンして、
「ちょっと待て」
「え? なんですか?」
俺は立ち去ろうとするのを呼び止めて、
振り返った秋山の――胸に手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと!? こんなところでそれは大胆ですよ! いくら私の身体が魅力的だからって!」
「うるさい」
「ああ!? それは!」
秋山の胸ポケットに入っていたボールペンを取り出す。
「――やはりな」
ボールペンのキャップ部分をよく見てみると小さなレンズが組み込まれていた。
小型のカメラが内臓されていて、今この時も稼働して映像が録画されている。
さっきから秋山の手にしているデジカメとは別の『視線』を察知していたから怪しんだが正解だった。
「なんで気づくんですかぁ……」
「まずこれみよがしにそのデジカメで俺を撮ることにアピールしていたこと。
それと――
さっきからメモを取るのにスマホばかり操作してて、メモ帳で取るつもりがないことが不自然だからだ」
「うぅ……そこまでお見通しでしたか」
しかし、この隠しカメラのボールペンよく出来てるなこれ。
普通の人には気づかれないぞ。
「ふふーん。これも特注でその手の開発メーカーに極秘に頼んだんですよ?」
「バレてるくせに威張るな」
「ぐぬぬ」
「とりあえず、ちゃんと記事にする時は先に生徒会……特に俺に通してからな。あとこれは課外活動が終わるまで没収だ」
「そんなー……」
やはりこの女生徒はある意味目が離せない存在だ。
諜報員の鉄則――都合が良いだけの存在を信じるな。
…………
もしかして春川先輩から見た俺って秋山みたいにこうウザイのか?
……今度からしつこく勧誘するのは控えよう。
それでも俺はやめる気はないが。
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