第3話 再びの生徒会
「週明けからずいぶんとお疲れの様だけど、何かあったの? 修司くん」
「……!。……いえ。大丈夫です」
「そう? それならいいけど」
誰もがその声を耳に入れれば聞き惚れる
目の前に突然と蒼い宝石のように輝く両目に目を合わせてしまうと気を確かにする。
俺に声を掛けた“一人の女子生徒”……そして他の“二人の女子生徒”も心配そうに見つめてきたが……俺は気を緩めることは一切しなかった。
今は放課後の
ジリジリと夏が近づいている太陽が沈んでいく中で、再び平和とスリルな学生生活の日常に、俺は戻ってくることができた。
……あれからどこかの地での任務はなんだかんだと土日の内に遂行して今日、週明けの朝一で機関が用意したジェット機で緊急帰国もとい帰宅を果たした。そして禄に休みらしい睡眠をする間もなく、俺はそのまま学園へと登校する羽目になってしまったのだ。つまり――単なる寝不足。
霧崎さんに壊されたはずのドアはすっかり元通りになっていて、学校へ向かう為にドアを開けて外に出ればリリスが迎えてくれて俺の安否を心配してくれたり、学校に登校して教室に入ったら隣の席には、いつも明るくて騒がしい冬里ひよりが明るく挨拶してくれた。
先日の件で、あんなことがあったばかりなのに、それを気にもしないで変わらず接し続けてくれる、ひよりには感謝している……が、俺に対する絡みが以前よりも激しくなった気がするのは気のせいだろうか?
それからも授業中は寝るわけにもいかずにしっかりと受けて、昼休みにいつもの寂れた物置小屋傍のベンチに少しだけ睡眠を取ろうとしても、またまた風紀委員長の春川靜音先輩がやってきてしまい、彼女は何故かいつもよりイライラ気味になっていて長々と説教じみたのを受け流しつつ、結局眠れずに午後の授業も乗り越えて――放課後はこうして普段通りに生徒会の活動へと赴いた。
(集中……しっかりしろ俺)
学生生活は今の任務の一環に過ぎない。
本命なのは――
「はい、どうぞ」
隣からは、おっとりとした優し気な声と共に、テーブル上の俺の目の前にと、ほんのり湯気が立つお茶の湯呑みが差し出された。
「修司さん、なんだかお疲れみたいなので、これでも飲んでみてください。疲労回復に良いお茶ですよ」
黒い長い髪が宙にふんわりと舞いながら、ニコニコと微笑んでくれるのは生徒会役員の1人である副会長。
「……ありがとうございます」
と、礼を言いつつ湯呑みを手に取るも――俺は警戒を怠らない。
本来は後輩の俺がお茶を淹れるべきはずだ。
しかし火澤副会長がどうしても自分で淹れたいと申していたので譲ったが……。
……湯呑みを手にして中身を見る限り普通にお茶のようだ。
口に含んで飲んでみると――
「うん……お茶だ」
特に刺激性もないし、毒物が入ってるわけでもない普通に美味しいお茶だった。
「どうしました? お茶ですよ?」
「あっいえ! とても美味しいです!」
慌てて、お茶をまた口に含んで飲んで誤魔化す。
「……けどこのお茶、美味しいのは美味しいんですけど……味わいは中々独特で……まるで漢方のような」
飲んでみて体が落ち着くというよりも……むしろ身体の奥底から……なにかこう……燃え上がっていくように……
もしかして興奮している?
副会長はパァッとそれは花が大満開した笑顔で、
「ええ、そうなの。実はこのお茶、
「っ!?」
喉に流れかけた茶が吹き出す
のをなんとか堪えてゲホゲホとむせてしまった。
「あらあら、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です……」(わざとやってるのか? この人は……!)
と、このように和やかな雰囲気を終始と崩さないで柔らかく接してくる生徒会の副会長。
――
家が最大手の人材派遣会社で『
しかし、裏の実態は国内最大の極道組織『
そんな家だということは学園の生徒達には知られずに、大和撫子な美人副会長として人気者。あと実は結構……というか、かなり天然な人でもある。
「ちょ……ちょっとヒトミ!? ドーシテそんなモノを持ち込んでるのよ!」
ガタッとテーブルの向こう側から勢いよく立ち上がったのは、金髪のサラサラな髪をひとまとめにしたポニーテールを暴れ馬の尻尾みたいに大きく揺らして、外国人の血を純粋に引く目立った容姿の生徒会員の1人の書記が怒号を飛ばした。
「どうして……とは? 修司さんが疲れている、この時の為に取って置いたんですよ」
両手の平を合わせながらニコニコと火澤副会長はさも何事もなかったかのように返した。
「男性の元気の源によく効く精力剤だと聞いたので、このお茶を用意しただけなんですが……何か問題が?」
「せ……せ、セイリョクザイって……アナタ、その意味が分かってるの!? モンダイおおありよ!」
リンデア書記の白磁の両の頬が目立つように赤く染まっていく。
「……男性が元気になること以外は詳しいことはなにも? レイナは知っているんですか? でしたら、くわしく教えてください」
「っ! そ、それは――!」
ニコニコと純粋に天然に返す副会長に対しては書記はプルプルと肩を震わせ、あたふたとしながら口をギュッと閉じて詰まってしまった。
「――二人共、騒ぐのはやめなさい。修司くんが困惑している」
「あら、ごめんなさい」
「……ウゥ」
俺の隣に座って、書記の二人を宥めながらも玄米茶が入ってる湯呑みを優雅に啜るのは――
「すまなかったね修司くん。ほら、口元から茶が零れているよ。拭いてあげよう」
「……っ!」
会長の手からいかにも高級そうな生地のハンカチが取り出されて俺の口元をゆっくりと撫でるように拭いてくれた。
……拭いてくれるのはいいんだが――
「えぇっと……会長」
「なにかな? 修司くん」
「な、なんかさっきから俺に近い気がするんですが……」
会長、以前よりも距離というか……密着してないか!?
いつもだったら生徒会室奥の窓際前のデスクに構えているのに、今日は何故か俺の隣に座っていたし。
「何を言っているの修司くん。ほら私達って……デートした仲でしょ?」
「あれをデートと言うのは……」
「男女二人でお出かけしてたら立派なデートに決まってるじゃない。ふふ。ほら、右の口元も拭いてあげよう」
な、なぜか妙にドキドキする……!
会長のサラサラな銀髪に真っ白な肌を見ていると頭の中が乱される。
さっきのお茶の効果とは違う。
どことなく頭がクラクラして……
どこからおかしくなった……?
――会長に口元をハンカチで拭いてもらった時から…………ハンカチの香りを嗅いで……はっ!?
「って、ハンカチに何を仕込んだんですか!?」
俺の口元に当てているハンカチを振り払うと、仕掛けがバレた会長は残念そうにハンカチを放した宙ぶらりんの手をヒラヒラさせる。
「むっ。実は今度家の会社で取り扱う商品でね。男性の性欲を刺激する香りが含んだハンカチだから早速試してみようと思ったら、すぐに見破るとはさすがね」
「どこでこんな危ない物を使うんですか!?」
「もちろん男を悩殺させたい世の女性の為にと思ったけど、今みたいに効かないんだったら売りに出すのは中止ね」
「……そもそも、そんなのを売らないでくださいよ」
お、恐ろしい……!
やはり俺をこっそりと始末する気なのか!?
「チョット!? カナデもなにやってるの!」
リンデア書記は再び今度は会長に向けて高い音色の怒号を飛ばす。
しかし会長はニヤりと不敵な笑みを浮かべた。
「レイナこそ、その手前に置いてあるチョコはなんなのかな?」
「っ! こ、これは……ただのチョコじゃない!」
リンデア書記の手前にはさっきからいくつかの小さなチョコが入った箱が置かれていた。
いつものお土産かなにかで一見なんでもないチョコには見えるが……。
俺は一番近く手に取りやすい位置のチョコを一粒手に取って自分の口元に近づける。
(ん? これは……)
チョコから仄かに……というよりも中々強いアルコールの臭いが鼻に突く。
「……いただいてもいいですか?」
「え……ええ、いいわよ。そのまま丸ごとをオススメするわ」
「……」
「あっ! シュ、シュージ!」
書記のアドバイスを無視してチョコの先っぽだけ齧った。
「――! リンデア書記……これは?」
チョコの先端からツンとしたアルコールの液体が舌を痺れさせた。
このままリンデア書記の言う通りチョコを丸ごと食べてたら中身のお酒にガツンとやられていた……!
「そ、それは……」
「では私もいただこうかな」
「あっ! 会長」
会長も残っているチョコを手にしてパクリと食べると――
「うん、中々美味しいチョコだ」
あれ? 特に反応がない?
もしかして酒が入っていたのは俺が手にしているチョコだけだったのか!?
「修司くんが手に取る位置にだけ、そのチョコを置いたのはどういうわけかな? レイナ?」
「……ワ、ワタシはただ疲れているシュージにゲンキになって貰おうとしただけで! それにパパがいっつも疲れてる時はそのチョコを食べていたし……」
「……いや、それは書記の父親には効くかもしれないけど、俺には……」
「な、なによ! せっかくワタシがシュージをゲンキづけてあげようとしてるのに!」
「えぇ……」
なぜか怒られることになった。
外国人特有の血を純粋に引いている生徒会役員の書記。
――レイナ・リンデア
家は大手の貿易会社を経営する十王名家の内に入る海外の名家。
格調ある雰囲気。一般人が考える貴族という表現に相応しい女性。
モデルの容姿にスポーツ万能でもあり、学園の運動部から頼りにされていて人気の彼女だが、
実は結構なカルチャーオタク気質で周りには隠している。
しかし彼女の家の実態は『アルバロン』という海外最大勢力のマフィアを率いるヤバイ家だ。
「そんなことよりも修司くん」
今のをそんなことと軽く流していいものなのか、と俺は思い、
会長はまたも俺の肩にくっつきそうな距離で近づいた。
「これで元気になってもらえたかな?」
気高く優雅な雰囲気を纏いながらも、俺に笑いかける彼女の姿を見ると心臓の鼓動が一瞬だけ早まってしまう。
生徒会役員――生徒会長。
瑠凛学園全生徒が情景を抱いて敬う存在。
世界を跨ぐ巨大商業グループの十王名家のトップ――名家の中の名家のご令嬢。
……そんな会長の家ももちろん裏を持っており、その正体は『ネザーレギオン』という影の集合体組織――秘密結社の娘。
――
(や……やはり、この生徒会の連中は危険過ぎる……!)
俺はこの『3人』を相手にしながら任務を遂行しなければならない。先日の任務が生ぬるく思えてしまうレベルだった。
――――
修司と奏が密着?して会話している一方で、そんな二人を見ていた片方の二人の女子生徒は――
「……カナデ、なーんか前より、ヨユーシャクシャクっていうの? なってるわよね? ヒトミ」
「ええ……そうですね」
「それに今朝カナデからシュージが元気がないって言うから至急取り寄せたってのに……なによもう」
「…………」
「ヒトミ? ……どーしたの? さっきからそんな思いつめたような悩んだ顔をして……」
「……レイナ」
「な、なに? 今度はシンケンな顔して……何か悩みでもあるの?」
「そうですね……やはり」
「……」
「ここは私も修司さんとデートして、奏みたいに仲良くしたほうがいいわよね?」
「……今すごく心配したワタシがバカだったわ」
「ふふ、そう言うレイナも実は修司さんとデートしたいのよね?」
「……! いっつも思うけど、どうしてそんな結論するのよ! ワタシでオチに使わないで!」
「ふふ」
「笑って誤魔化さないでよ! もー!」
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