「煉獄のパールライト」生き返れるのは、ひとりだけ。死者が織りなす、哀しきデスゲーム。

プロローグ

　自分が置かれた状況に、ただ混乱していた。

　冷静にならなければと思いつつも、鼓動が高鳴り、心を上手く落ち着かせることが出来ない。三半規管に支障をきたし、ぐらぐらと地面が揺れているように感じる。

　何故……どうして、自分が選ばれたのか。それは必然ではなく、単なる気まぐれだ。

　どうする？　どうすればいい？

　誰も答えてくれないし、深く考える時間もない。無茶振りもいいとこだ。どうなろうと知ったことではないし、責任を問われる筋合いもない。

　ただ、それでも……。

　自分の内から、湧き上がる衝動がある。こうあるべきでは無く、こうであって欲しいという勝手な願望？　微かな希望？

　出来るだろうか……自分に。

　自信などないが、やらないという選択も、ありえないと感じていた。

　やってみる。いや、やるしかない。

　鼓動が少しづつ治まるにつれ、ほどよい緊張感が体を支配した。頭が、急速に冴えていくのがわかる。

　時に覚悟や決意で、自分の能力以上の力を発揮することがあるという。求める結果に辿り着くための道筋を、脳が冷静に模索して始めている。

　それがどんなに困難で、単なる自己満足であったとしても……。

　彼は静かに目を閉じ、その時を待った。

　平凡な1日。当たり前の日常。

　人々は当然のように、次の日が訪れると信じている。ニュースで起こる悲惨な出来事も、かわいそうと思いつつ、確実に人事だ。

　そんな鈍感さも、平和であることの証と考えれば、悪いことでは無いのだろう。そんな日々がどんなに貴重かは、失われた時に初めて気づく。そこまで含めて、ごく当たり前なサイクル。

　その日も、悲惨なニュースが各媒体に流れていた。

　朝の通勤時間、大勢の人を乗せたバスの横腹に、トラックが猛スピードで突っ込んだらしい。ドライバーの居眠り運転が疑われているが、その結果は起こるにしても最悪なものだ。

　死傷者、多数――。

　数日はこのニュースが大きく取り上げられ、人々の悲哀を誘うだろう。

　そして、貴方もいつか、そんな死の当事者になる時がやってくる。大きな事件、事故では無いのかもしれない。

　しかし、望む望まないに関わらず。誰にでも必ずくる、その時が……。