悪魔
天野詩
天使
テレビをつけると、また彼女が映っていた。その容姿から天使と呼ばれている彼女は、私の……
「今日は来ないと思ってた」
茜色に染まった私達しかいない教室で、一つの机を間に挟みながら言葉を紡ぐ。
「うん、映画の撮影終わらせてきた」
「今朝もテレビに出てたね」
「見てくれたの?嬉しい」
微笑んだ彼女はやはり天使のように見えた、けれど
「なんか、最近すごく遠くに行っちゃった感じがする」
つい漏れてしまった本音に、すぐさまごめんと謝罪する。ただでさえ彼女には時間が少ないのに、それでも会いに来てくれているんだ。
「ううん、私こそごめんね。でも……」
机の上で私の手に温もりが重ねられる。それは、離したくてもそうさせてくれないような、そんな暖かさ。
「私はちゃんと近くにいるよ」
「おいで」という言葉に抗うことが出来ず、机という用意していた壁を軽々と越えて彼女の膝の上に上がってしまう。
ああ、まただ。
彼女は片手で私を支え、空いた手で髪を掬い唇を落とす。
「大丈夫、君は私の特別だよ」
その言葉は、救いの言葉に見えても私には鎖に見えてしまう。
『貴方の嫉妬に染まった顔が、私は好きなの』
遠い場所にいた天使が、近くにいた。興味本位で手を伸ばし、触れた途端、私の世界は黒に染まってしまった。そして、その闇からは逃れられない事をすぐに知る。
一瞬で私を支配した彼女は、その容姿から天使と呼ばれている彼女は……
彼女は私の、悪魔だった。
悪魔 天野詩 @harukanaoto
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