第85話 サムジャと暗黒姫

 ヴェムは死んだ。それは間違いがない。そしてそれによって俺のレベルが上がっていた。



ステータス

名前:シノ・ビローニン

レベル:5

天職:サムジャ

スキル

早熟晩成、刀縛り、居合、居合忍法、居合省略、抜刀燕返し、活力強化、抜刀強化、抜刀追忍、円殺陣、侍魂、忍体術、暗視、薬学の知識、手裏剣強化、チャクラ強化、チャクラ操作、苦無強化、気配遮断、気配察知、土錬金の術、土返しの術、土纏の術、堅牢石の術、鎌鼬の術、草刈の術、旋風の術、凩の術、風牙の術、火吹の術、烈火弾の術、爆撃の術、爆炎陣の術、浄水の術、水霧の術、水手裏剣の術、落雷の術、雷鏈の術、雷咆の術、氷結弾の術、氷床の術、影分身の術、影走りの術、口寄せの術、影縫いの術、影風呂敷の術、影鎖の術、変わり身の術、変化の術



 サムライのスキルが一つ。それに忍法も幾つか増えていた。だが、それを考察している時間はない。


 ヴェムは倒したが、それで全てが終わったわけではないからだ。


「嘘、マスカさん!」

「ワンワン!」


 俺の耳にルンとパピィの声が飛び込んできた。先ずルンとパピィの方を見るとマジルという男が倒れていた。どうやら無事二人はあいつに勝つことが出来たようだ。


 だが――それ以上の問題が目の前で起きていた。マスカの仮面が砕けていた。あれは硝子? 状況を見るにマスカが硝子の仮面を身に着けていたのだろう。


 だがそれが破壊され、マスカの全身から血が吹き出た。あまりの状況に俺も目が疑いたくなる。

 

 だが、同時に驚いたのは相手していたダクネイルの姿だ。あの女は左腕を無くしていた。だが、にも関わらずあいつは笑っていた。


 マスカが地面を転がりルンとパピィが慌てたように駆け寄る。しかし、まだ敵が目の前にいる状態では不用意とも言えた。


「あらあら、意外と速いのね」

「え? シノ!」

「ワンワン!」


 ルンとパピィにダクネイルの手刀が振り下ろされていた。だが割り込めた。影走りでギリギリだったが――何とか数珠丸で手刀を受け止めた。


 ダクネイルが一旦離れた。俺はその瞬間に円殺陣を発動。ダクネイルを威嚇したまま叫んだ。


「ルンとパピィはマスカと二人を連れて一旦離れろ!」

「え? でもシノは?」

「こいつを食い止める」

「そんな、だってレベル差が!」

「いいから早く! 依頼を優先させろ! 今なら逃げられる!」


 この女を俺が食い止められればと言う条件付きだがな。だが、それが一番の手だ。この状況で戦闘が出来ないのが三人もいては邪魔になる。


 一対一の状況に持ち込ませてもらった方がまだなんとかなる可能性はある。

 

 幸い俺もレベルが上った。それでもレベル5とレベル42は考えるのも馬鹿らしくなるほどの絶望的な差だが、こいつは腕を一本失い万全ではない。


 俺はこいつが万全でない状況に賭けることになる。俺で何とか相手できる程度に消耗していてくれれば、いや違う。ここは俺が何とかするんだ。


「パピィ、みんなを頼んだぞ!」

「……アンッ!」

「え? パピィ?」


 パピィがルンの裾を引く。急いでと言っているようでもあった。そしてルンもわかってくれたようだ。


「メイシルさん、そして貴方も早く!」

「は、はい!」

「肩を貸そう。せめてそれぐらいはやらせてくれ!」

 

 そしてマスカもまた筆跡鑑定士とルンに支えられながらその場を離れていった。頼むから死なないでくれよ――


「ふふ、貴方。上手くいったと思ってるでしょう? でも残念。私はねあの中では貴方が一番楽しめると思ったの。だから敢えて貴方の考えに乗ってあげたわ」


 左腕がない状態でよくそんな余裕がありそうなことが言えたな。しかも全く嘘がなさそうなところが恐ろしい。


「それで? その体勢いつまで続けているつもりかしら?」


 不敵に笑って聞いてきた。円殺陣を解くかどうかって話か。


 だがこの状態なら最速で相手の攻撃に合わせられる。こいつの手刀は刃物のようによく切れるようだが腕を一本失っている以上、単純な計算でしかないが手数は半分の筈だ。それであれば――


「ま、別にいいけどあまりガッカリさせないでね。暗黒弥光――」


 ダクネイルが右手を翳すと、暗紫色の光線が幾つも俺に向けて放出された。こんな飛び道具までもっていたのか!


 仕方ない。スキルを解除し、横に飛んだ。そのままダクネイルに向けて忍法を放つ。


「居合忍法・抜刀風牙燕返し!」

 

 風の狼が二つ、ダクネイルに向けて牙を向いた。


 当たるか? いや、消えた!?


「後ろよ」


 速すぎる――これがレベル42の動きか。そして俺の腹が貫かれる、が、丸太に変わった。


「俺もだ――居合忍法・抜刀影分身燕返し!」


 変わり身発動で丸太を残し逆に背後を取り抜刀した。二十四の斬撃がダクネイルを狙う。


「あら大変」

 

 だが、こいつ片手で全て捌いた!?


「暗黒尾蹴――」


 反撃として回転しての蹴りが俺の脇腹に命中し景色が光速で流れていった。壁に背中が叩きつけられ口から血飛沫が上がった。


「暗黒火掌――」


 そして今度は闇色の炎が俺を包み込んだ。地面に倒れ込みごろごろと転がって消した。


「ふふ、もう終わりかしら?」


 ダクネイルが悪魔のような笑みを湛えながらコツンコツンっと靴音を響かせ近づいてくる。


 たく、左腕一本ぐらいじゃ全然ってことか。しかも今の炎で明らかに俺の運動能力が落ちている。


 そういう効果が付与されていたのか。


「あんまり期待はずれならもう終わらせようかしら――」

「居合忍法・爆炎陣の術!」


 抜刀なしの居合省略で覚えたばかりの忍法を発動した。俺を中心に爆発が生じ炎が広がっていく。全方位の炎だ避けようがないだろう。


 だが、倒せるとは思えない。しかし相手が怯んでくれれば――


「技は多彩ね」

「――ッ!?」


 こいつあの炎の中を突っ切って――そして一閃――手刀で俺の身に一筋の傷が走り大量の血潮が吹き上がった。


 これは、ちょっとやばい場所を切られたな。


「これで終わりかしら?」

「……あぁ、そうだな。レベルが上ってなきゃ、スキルを覚えてなきゃ、終わってた! 居合忍法・抜刀影分身燕返し!」


 ぐっと踏ん張り、再び放つ居合の斬撃。一見するとさっきと何も変わらないように見える。だが違う――今の俺が放った斬撃数は四十八。それに燕返しを分を含めて九十六の斬撃がダクネイルを蹂躙した。


「くっ!」

「やっと、手応えを感じたな――」


 そして初めてダクネイルが苦悶の表情を見せる。


 とは言え、スキルのおかげで俺もギリギリだがな――

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