第83話 サムジャと慎重な蛇使い

 俺とヴェムの戦いは続いていた。流石にあの派手な爆発はそう何度も使えないのか、必要ないと考えたのか――しかし執拗な蛇の猛攻は続く。既に分身も残っていないし、中々キツい戦いだ。


「千蛇咬音――」


 ヴェムの両手から大量の蛇が伸長し俺に迫ってきた。こんなの避けるだけで一苦労だ。というよりも全ては躱しきれない。


 ある程度のダメージは覚悟する必要がある。何より厄介なのはこういった攻撃の最中にも数珠丸を狙っているのがひしひしと伝わってくることだ。


 俺の命を狙っているのは間違いないが、優先順位は刀を奪うことの方が高そうだ。


「全くしぶとい奴だ。そろそろ覚悟を決めたら楽になるぜぇ~。なぁどうよ? あぁそうだ。なんなら交換条件を提示してやってもいい。その刀を寄越しな。そうすれば命だけは助けてやるぜ?」

「そんなもの信じるわけがないだろう――居合忍法・抜刀鎌鼬!」

「蛇腹の盾――」


 俺の鎌鼬は蛇の盾で防がれてしまった。チャクラは体力と直結しているが、怪我の影響もあってチャクラを練れる量が明らかに減っているんだ。


 このままだとジリ貧だ。ここから先は無駄な戦いは一切できない。


「どうやらテメェのスキルの威力も落ちているようだな。そろそろ限界ってとこかぁ~?」

 

 まるで蛇のようにねちっこい喋り方だ。そして蛇のように執拗にこちらの動きを観察し、用心深く手を考えてきている。


 油断のならない相手だ。レベルの上では相手の方が格上だということを忘れてはならないだろう。

 

「居合忍法・水霧の術」

「しゃらくせぇ!」

「チッ、居合忍法・抜刀土返し!」


 水の忍法を発動した直後、相手が蛇を伸ばしてきた。俺は続けて忍法を行使し捲れた土でそれをガードした。


「何? 霧だと?」


 そして蛇による攻撃をガードしたタイミングで霧が立ち込め、視界を遮った。これで多少は相手の攻撃が弱まるだろう。


 その間に準備しておかなければいけない。


「居合忍法・土錬金の術」

「チッ、一体何を考えてやがるんだコラッ!」


 口調が乱暴な奴だな!


「チッ!」

 

 土錬金で作成した苦無や手裏剣を投げる。だがかわされているのがわかった。相手の蛇が特に狙いを定めることもなく飛んでくる。


「居合忍法・抜刀土返し!」


 とにかく防御も忘れない。そして、まだまだここからだ。俺は手裏剣を投げ続ける。


「――霧の中からチクチクと攻撃してくる作戦か? セコいんだよテメェは!」

「なんとでも言え。勝つことのほうが大事だ」

「こんな武器で俺が倒せるかよ! ちっとは考えろこのボケがぁ!」

「うるさい!」


 俺は更に手裏剣を投げる。


「無駄だと言ってるだろうがぁ。そんなものに頼ってもなぁ。その刀が得意なんだろう? だったらそんなセコい真似してないで来いよ! おらぁ!」

「断る。お前の魂胆はわかってる。俺を近づかせてあわよくばこの刀を奪ってやろうと、そういうつもりだろう?」

「……なるほど。それなりに頭は働くってことか。だったらこれは知っているか? 蛇は一体どうやって――相手の位置を掴んでいるかってな!」


 その時、地面から飛び出た蛇が俺に――くっ!


 地面からの蛇の攻撃を避けたが、同時に霧が晴れていった。この霧も永久に続くわけじゃない。


「正解は熱だ。目に頼らなくても相手の熱を頼りに位置がわかる。霧でうまいことやったつもりだったか? 残念だったなぁ~」


 視界が開けた直後、目に飛び込んできたのは蛇で奪った刀を手ににやけ顔を見せるヴェムの姿だった――


「はは、どうしたその顔は? これが俺の手にあるのがそんなに不思議か?」

「チッ……」


 舌打ちし奴を睨めつける。


「かかっ、これでお前はもうチェックメイトだなぁ~おい。お前はこれで――いや、違うなぁその顔は何かを企んでる顔だぁああ一体何を――」


 その時、ヴェムの首が回り、そしてハッとした顔を見せ跳躍した。戻ってきた手裏剣が命中することなく地面に突き刺さる。


「残念だったな! 刃蛇!」

「がッ!?」


 刃のような鱗を持つ蛇が俺の身を切り裂いた。その衝撃で俺も横に流されるように飛ばされる。


「は、ガハッ!」

「おっと早速毒が効いたか? しかし残念だったなぁ~俺もまさか投げていた武器に戻ってくるのがあるとは思わなかったぜぇ~惜しかったなぁ~」


 手裏剣も上手く扱えばそういうことも出来る。あわよくばと思ったんだがな……ぐっ、しかし思ったより毒がキツい……


「ぎゃははははははっ! 毒が回ってきたな! わかるぜその苦しそうな表情! 悔しいか? 悔しいよなぁ? この数珠丸を失えばお前はもう毒を防ぐ手立てはないんだからなぁ!」

「はぁ、はぁ……」


 目がかすむ。言葉を発するのも難しい。


「放っておいても死にそうだが万が一ってこともある。直接トドメを刺すとするか――」


 そういったヴェムが俺に近づいてこようとする。だが、その足がピタリと止まった。


「いや、違う。お前がそれで終わるたまか? 匂う、プンプンと匂いやがる! 何せさっきも妙な武器で引っかけようとした男だ。この状況でも何を考えているかわからねぇなぁおいぃ~だから決めたぜぇ~俺はお前に近づかない! 近づかずに殺す! それがぁ、最善策だぁ~」

「くっ……」

「はは、どうだ? 何か考えていたとしても近づかなきゃ何も出来ないだろう? その上で俺は最高の技で貴様にトドメを刺してやるよぉ。さっき見ただろう? 俺の持つスキルで最強! 大蛇を生み出すあれでテメェの息の根を止めてやるぅ。そうさ。俺は決して油断はしねぇ。例えぇええぇえ死にそうな鼠一匹を狩るにしてもだぁぁああ! 追い詰められた鼠は何をしでかすかわからねぇもんなぁ! 窮鼠が蛇を噛む可能性は十分にありえるのさぁ。だからぁ、これで終わりだぁああ!」


 あぁ、まさか、ここまでとはな――


「死ねやぁ! 大蛇!」


 ヴェムの口が大きく開き、そこから大蛇の頭が見えた。ここまでか。まさかここまで――


「計算通りにいくとはな!」

 

 そして俺は地面に手を突っ込み土中から数珠丸恒次を取り出した。全く危なかったぜ。奴が慎重だから、その考えを信用したから、上手くいった。


 俺は一つのミスも許されなかった。だからこそ霧の中で先ずやったのは土錬金での刀の作成だった。数珠丸恒次にそっくりな偽物のだ。途中で土返しを挟んだのは本物を一旦土に中に隠しておくためだ。勿論後で取り出せるよう仕掛けを施した上でだ。


 その上で手裏剣も作成し、霧の中からチクチクと攻撃する手しかないものだと思わせた。蛇が熱を感知するのは想定内だった。お前なら蛇を利用し、霧を逆に利用し刀を狙うと思っていた。


 毒を敢えて喰らったのも慎重なお前が奪った刀に疑いを向けないようにだ。その上で手裏剣で背後から狙うように調整し警戒心を強めた。それはお前が確実な手段として大蛇を使うと想定していたからだ。


 その読みは見事に的中した。時間との勝負だったがお前は今まさに大蛇を使った。


 そのスキルには大きな欠点がある。大蛇を使った後、ヴェム自身はスキルの発動中動くことが出来ない。最初に使った時も元の位置から動く様子がなかった。つまり大蛇を放っている間のお前は――


「隙だらけだってことだ」


 数珠丸のおかげで毒が消えた。大蛇の攻撃は変わり身で避けた。今頃丸太が転がっている。その上でヴェムの背中を取った。


「う、うぐうぅううぉおぉぉぉおおお!」

「残念だったな。その用心深さが仇となった――居合忍法・抜刀影分身燕返し!」


 そして完全に無防備となったヴェムが俺の斬撃によって切り刻まれた。結果は――眼の前に転がった肉片が全てだ。


 はぁ、しかし、騙すためとは言え少々毒を喰らいすぎたか、しんど――とにかくこれで、俺の、勝ちだ!

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