第45話 サムジャ、頼んで見る

「話はそれだけですか?」

「そう邪険にしないでくれたまえ。勿論あくまで君の意思に任せることだ」


 ルンが目つきを鋭くさせてハデルに問う。声質に不機嫌がにじみ出ていた。


 ただ、ハデルはそれ以上ルンに頼むつもりはなさそうで、その視線が俺に向けられた。


「君はどうかな? 最近調子が悪いとかないかな?」

「いや、寧ろ絶好調だ。あんたが言っていたこの刀も凄く手に馴染む」

「そ、そうかね。ふむ――それで手に馴染むというと、どんな感じにかね? 何かとんでもない力が目覚めたとか?」

「? 何を言っているのかわからないが、刀として性能が高いという意味だぞ」

「そ、そうか……」


 気のせいか、ハデルはどこかホッとしたような様子にも思える。


「まぁ、ここで会ったのも何かの縁だ。もし呪い関係で困ったことがあったらいつでもいいなさい」

「いいのか?」

 

 俺はふと思い出したことがあってハデルに聞き返してみた。


「勿論だとも」

「ならちょうど良かった」


 俺は影風呂敷から以前あのダンジョンで手に入れた斧を取り出して地面に置いた。前はパピィのことに気を取られていたからうっかりしていた。


 さて、これは触れるとヤバいらしいからそこだけは注意している。


「クゥ~ン……」


 パピィもこの斧からは嫌な空気を感じているのか近づこうとしない。膝の裏に回ってか細く鳴いている。


「な、なんかすごく禍々しそうな斧ね」

「あぁ、呪われているからな。ルンも触らないほうがいいぞ」


 そう注意した上で俺はハデルに話を持ちかけた。


「この斧の呪いを解いてほしいんだ。正真正銘の呪われた斧なんだがいいかな?」


 そう問いかけてハデルを見ると、いつものニコニコとさせた顔が一変し顔が凄く引きつっていた。


「お、おい何だこれ?」

「知らないが、もうあかん奴なのはわかるぞ」

「呪われてるなこれ絶対呪われたあかん奴だ」


 神官たちもざわざわしていた。やっぱりよっぽどの呪いなんだな。


「これは一体どこで?」


 一度は引きつって歪んでいた表情を取り繕いハデルが俺に聞いてきた。


「とあるダンジョンでな」

「とあるというと?」

「それが何か関係あるのか?」

「…………」

「…………」


 何だこの微妙な間は?


「まぁ、その何だ。その斧の呪いはかなり強い。もうしわけないが今は手持ちにそれに対応出来る物がないんだ」

「そうか。それは残念だな」


 一応武器屋の主人は呪いの装備専門で買い取る人がいると教えてくれたが、解けるものなら解いた方がさばきやすいかと思ったんだがな。


 とにかく、無理なら仕方ないからまた影風呂敷にしまう。


「しかし、君のそれは魔法かね?」

「忍法だ。前もいったと思うが俺はサムジャだからな。忍法も使えるんだ」

「しかし、印を結んでいなかったような?」

「サムジャは印がいらないんだ」

「なんと……」


 ハデルからはどこか愕然とした様子が感じられた。ニンジャの欠点は印を結ぶことだったからな。


 それがないだけで忍法もかなり使いやすくなる。

 それに驚いたんだろうか?


「チッ、こいつやはりあのダンジョンに、しかも忍法とは厄介な……」

「うん? 何か言ったか?」

「うん? い、いやなんでもない。こっちの話だ」


 微笑みながらハデルが言う。それをルンは胡乱げに見ていた。


「さて、立ち話が過ぎたな。では私達もそろそろいくとしよう」

「そうか。それで斧の呪いはいつならなんとかなりそうだ?」

「い、色々と取り寄せる道具などがある。時間は掛かると思っていてくれ!」


 そう言い残して足早にハデルが去っていった。


 ふむ、教会でも難しいぐらいの呪いだったんだな。


「私、何かあいつ嫌い!」

「ワンワン!」


 するとハデル達が去った後にルンが語気を強めて言った。パピィもあまりいい気分にはなれなかったようだ。


「パピィが助かったのは嬉しいけど、あいつのいる教会に寄付するのはなにか嫌よねぇパピィ」

「――アンッ!」


 うん? 今パピィの鳴き声が妙に気合入っていたような? 気のせいかな?


 そしてハデルと別れた後は、明日の待ち合わせを確認して、俺達は宿に戻ることにした。


「おう、飯できてるぞ」

「あぁ、ありがとう」


 宿では主人が出迎えてくれた。出される料理は相変わらず美味い。


「ほらパピィはこれな」

「アンッ♪」


 そして俺とは別にパピィの料理もしっかり用意してくれる。主人はパピィが野良犬だった時にもやっていたことだからついでみたいなもんだと言ってくれていた。


「それにしてもすっかり元気になったみたいでよかったな。あんたに飼われるようになってからパピィも随分と明るくなったしな」

「あぁ、もっとも怪我を治してくれたのは教会の子なんだけどな」

「教会か。だけど、お布施とか結構要求されたんじゃないか?」


 ふと、そんな話になった。どうも今の教会だと高いお布施というのが浸透してしまってるようだ。


「その子はいいとは言ってくれていたんだけどな。教会全体としてはそうもいかなそうだったから多少は支払ったよ」


 金額そのものを言うとまた驚かれるかもしれないから、そこは濁しておく。


「そうか……今の教会はな。うちも定期的にお布施という名目で支払わされてるし、どうもいい印象がねぇよ」

「そうなのか?」

「あぁ、以前の司祭様だった時も訪問してお祈りを捧げてくれていて、そのときは個人の善意に任せるといった感じだったんだがな。今は祈りもしない癖に圧だけは凄いんだ」


 祈りもないのか。それだともうただ金をせびりに来ているだけに思えるな。


「それは断れないのか?」

「うちは一応支払ってはいるな。というのも今の教会には支払いたくないって拒否し続けていた商売仲間がいたんだが、そいつも突然不幸に見舞われたりが続いてな……信じたくないがバチってのがあたったと思うとちょっと怖いしよぉ」


 困った顔で主人が言う。しかし、バチねぇ……


 そんな話を主人としながら、ふとパピィを見るとご飯を食べるの一旦止めてこっちを見ていた。


 聞いていたのだろうか?


「おっと、悪いなつい愚痴っぽくなっちまって」

「いや、いいさ。上手い料理もご馳走になってるしな」

「はは、そう言ってもらえるなら本望だ」

 

 そして料理を食べた後はパピィと風呂に入りさっぱりした後、部屋に戻って明日に備えて早めに寝ることにした。


「パピィおやすみ」

「アンッ!」

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