第16話 サムジャとして初依頼を受ける

 掲示板から薬草採取の依頼書を剥がしてカウンターに持っていく。


「あらシノくん。早速依頼を受注しに来てくれたのね」

「あぁ、この依頼で頼む」


 俺は依頼書をシエロに手渡した。と言っても内容はテストを受けたときと一緒のセレナ草の採取だ。


「セレナ草ね。でもシノくんならもうハイセレナ草の採取も余裕なんでしょうけどね」

「とは言え、まだFランクなのは確かだからな。身の丈にあった仕事からやるとしよう」

「むしろ身の丈にあってない気がするけど……でも実際ヒデの森はDランク以上でないと推奨されてないのよねぇ……」


 シエロが残念そうに言った。それであればことさら向かうわけにはいかないだろう。


 この間のは他の冒険者に騙されてしまったからであって、基本的に自分のランク外の依頼を受けたり推奨されていない場所に行くのは好まれない。

 

 ランクに見合った依頼をこなしている冒険者が他にいるからだ。それに高ランクの地帯に低ランクで行くと邪魔になる恐れがある。


 だから身の丈にあった依頼をこなしておくのが懸命だろう。


「そうね、一応最初の依頼ということになるしこのまま受け付けるわ。それと、この森は初めてになるのね。これを渡しておくわ。ミツの森に現れる魔物と買い取れる素材をまとめてあるから」


 どうやらシエロがまとめてくれたようだ。専属になるとこういうこともしてくれるんだな。ありがたい話だ。

 

 街を出てミツの森へ向かう。こないだと比べるとやはり近い。今の俺なら普通に歩いても十分程度でついてしまった。


 さて、早速森に入る。ヒデの森と比べると木々の感覚が広く視界は確保しやすい。比較的探索はしやすい森だ。これなら確かになれてない初心者冒険者にも優しいだろう。


 森に入ってまもなくして薬草が生い茂っている場所にたどり着いた。セレナ草もよく生えているな。


 これなら十分量は確保できそうだ。


「居合忍法・抜刀草刈り――」


 忍法で風を発生させることであっという間にセレナ草が刈られていく。


「居合忍法・凩の術!」


 これは居合省略で発動した。小さな竜巻が発生し刈った薬草が竜巻に優しく巻き込まれ俺の足元に運ばれてきた。


 攻撃手段としては威力が足りないが、こういった使い方をすれば非常に役立つ。


 集められたセレナ草は影風呂敷で回収と。うん、こんな感じで続けていけば仕事は早く済みそうだな。


「おいおい、あいつ確か天災職持ちじゃん?」

「もう、タンってば悪いってば」

「薬草採取してるのかアレ?」


 うん? 何やら騒がしいな。振り返ってみると三人の男女が並んで立ってこっちを見ていた。年の功は今の俺とそうかわらないぐらいだろう。


「おい! お前、もしかして冒険者になったのか?」

「あぁ、そうだが、どこかで会ったか?」


 向こうは俺を知ってそうな雰囲気がある。ただ俺には全く見覚えがない。


「お前が天職を授かっていた時に俺たちは見ていたんだよ。確かサムジャだったか?」

「サムライとニンジャの複合職よね。貴方も大変よね使えない天職がよりにもよって二つ合わさるなんて」

「だからかな。草摘みぐらいしかやらせてもらえないのは」

「プッ、草摘みとか、そんなの冒険者の仕事じゃないよな」

「だから悪いってば」


 タンとよばれていた少年ともうひとりの少年が俺を見下してきた。残った女の子は一応は気を遣ってくれているようだが、それでもクスクスと笑いを零している。


「そういうお前たちは冒険者なのか?」

「おうよ! 俺たちはギルド期待の冒険者パーティーのファイト団!」

「私はそのファイト団の紅一点! アン! 天職は魔法使いよ!」


 少女が名乗る。オレンジ色のツインテールをした可愛らしい少女だ。杖を持ってるからそんな気はしたがやはり魔法使いか。


「僕はポン。天職はスカウト。チーム内の斥候担当さ」


 ふむ、青い髪を肩まで伸ばした少年だ。フード付きの外套を纏っていて腰に巻いたベルトには何本もナイフが収められている。スカウト系は軽装が基本だ。装備品も邪魔にならないものを好む。


「そして俺がリーダーのタンだ! 天職は戦士だぜ!」


 最後に親指を自分に向けて高々に宣言したのは短い茶髪の少年だ。金属の胸当てと鉄製の剣を所持している。声からして元気がよさそうだな。


「そうか元気なのは結構だが、お前たちだって薬草採取ぐらいしたことあるだろう?」


 俺が問うと、ふふんっとタンが笑い。


「そんなもの、俺達はとっくに卒業したんだぜ!」


 そう得意満面で答えてきた。いや、卒業といっても最初はやっていたってことだよな?


「僕たちはこれから魔物を狩る依頼をこなしにいくのさ」

「ガンズモンキーという大物の退治をね」

「そういうことよ。貴方のような残念な天職だと、そういう依頼は難しいんでしょうけどね」


 三人が順番にこれから行う依頼のことを教えてくれた。ふむ、ガンズモンキーか。単体だとEランク相当の魔物だな。その程度ならパーティーを組んでいればFランクでも受けられるだろう。

 

 しかし、敢えて依頼が出されるということは早急に退治しないといけない理由があるということか。


 ガンズモンキーは目の大きな猿といった様相の魔物だ。基本は森で行動する魔物だが、中には畑を荒らしたり道行く商人にちょっかいを出すこともある。


 攻撃方法は爪だが、どちらかというと鳴き声を上げて牽制したりが主だ。多くは積極的に人には近づかず硬い木の実を投げつけたり投石といった手段を用いる。


「ま、お前は草摘みでもやって精々頑張ってくれよ」


 そしてファイト団とやらはガンズモンキー退治の為に森の奥へと入っていった。


 しかし、ガンズモンキーか。確かにあれ単体では大した脅威ではない。


 しかし、時折厄介なのと組んでいることがあるんだよな。もっともこの森じゃそんなこともないと思うが。


 さて、俺は俺で自分の仕事を続けるとするかなっと――






◇◆◇

 

 一方その頃、冒険者ギルドではシエロが一枚の依頼書を確認し眉を顰めていた。


「この依頼の手続きをしたのは貴方?」

「は、はいシエロ先輩!」


 声をかけると緊張した様子で若い受付嬢が答える。彼女は最近研修を終えて本格的に仕事を始めた新人受付嬢であるのだが。


「この依頼、特記事項があったのだけど」

「え? あ、ほ、本当だ! ご、ごめんなさいうっかりして!」


 そうこの依頼には別紙を参照するよう表示があった。これは受付嬢側が本来気にする必要のある表記だ。依頼書を張り出す際の条件もこういった物を全て加味する必要がある。


 とは言え新人のミスに目くじらを立てても仕方ない。以後気をつけるようにだけ告げ、シエロは別紙を確認するが。


「ちょ、やだこれ大変じゃない!」


 それを確認したシエロの顔色が変わった。なぜならそこにあったのは依頼にあったガンズモンキーは単体ではなく別の魔物と一緒の可能性が示唆されていた為であり――その依頼を受けたのはFランクの冒険者三人のパーティーだったのだが本来ならCランクは必須の厄介な内容だったのである――

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