第2話 サムジャになって人助け
さて、とにかく冒険者ギルドにいかないと仕方ない――
「いや、放してください!」
「いいじゃねぇか。ちょっと付き合えよ」
ギルドに向かう途中、女の子の嫌がる声が聞こえてきた。往来から脇にそれた路地から聞こえてくる。
覗き込んでみると白ローブ姿の少女がゴロツキに絡まれていた。フードの隙間から金色の髪が飛び出し揺れている。パッチリとした碧眼が可愛らしい。
「私、教会にいかないと……」
「そうか。まぁ安心しな教会なんかにいかなくても俺らが天国に連れて行ってやるよ」
「へへ、教会の女ってことは男も知らねぇんだろうな」
「こりゃたまんねぇな」
「おい、そこまでにしておいたらどうだ?」
流石に見つけておいて放ってはおけなかったので近づいていって声をかける。するとそろって驚いた顔を見せた。しかしここまで近づかないと気が付かないもんか。鈍い連中だな。
「なんだテメェは?」
「俺は通りすがりの冒険者、ではまだないか。冒険者になろうとしているものだ」
「は? 冒険者になろうとしているものだって? 何だそれ?」
「いや、ちょっと待て。こいつ確かさっき天職を授かってるの見たぜ。確か複合職のサムジャだ」
「ふ、複合職だと? や、やべぇじゃねぇか!」
どうやらゴロツキの中にも天職を授かるところを見に来ていたのがいたようだな。
「それがよ。サムジャってのはサムライとニンジャの複合職だってんだよ」
「は? ギャハハ! マジかよ! ただでさえ使えないサムライとニンジャが一緒になったら更に使えないだろうが!」
「焦って損したぜ。おら、お前みたいな使えない奴が格好つけてんじゃねぇよ!」
男の一人が近づいてきて殴りかかってきた。乱暴な奴だ。半身をずらしてそれを避ける。
「お? て、テメェちょこまかと!」
更に二発三発と殴りつけてきたがあまり速くはないな。しかし、一応物心ついてから鍛えてきた自負はあるが、それにしても動きが軽くなった気がするぞ。
「フンッ!」
「グハッ!」
仕方ないから蹴りを返してやる。顔面にあたった。よろけて後ずさり睨み返してくる。これで倒れないか。刀がないからサムライの力はふるえず、ニンジャはそもそも力がない。まぁ黒装束を着てなければニンジャの力も発揮できないんだが。
「なめんじゃねぇぞコラ!」
「むっ!」
光り物を抜いてきたか。避けたがちょっと腕にかすってしまった。不遇な天職とはいえ当時ならこの程度問題なかったが、やはり転生した体な上、天職を授かったばかり、おまけに装備がともなっていないからな。
しかし、武器を町中で容赦なく振り回してくるような危ない連中に構っていても仕方ない。
「悪い先に謝っておく」
「キャッ!」
俺はゴロツキの間をすり抜けながら少女に駆け寄り持ち上げた。先に謝っておいたのは、許可も得ずお姫様抱っこする形になってしまったからだ。
とは言えこの状況だ。少しだけ我慢しておいて欲しい。
「て、テメェいつの間に!」
「悪いがドロンさせてもらう」
「何!」
俺はゴロツキ共を置き去りに逃亡した。小さな頃から鍛錬の為に山を駆け回っていたから、体力と脚力には多少の自信はある。本当はニンジャの力が発揮できればもっと速いんだがな。
うむ、あのゴロツキ共は足が遅かったようで。わりとあっさり振り切れた。彼女を下ろしてあげるとしよう。
「済まないな。逃げるために失礼した」
「い、いえ――」
ふむ、こうは言っているが何か頬が赤いな。やっぱり怒らせてしまっただろうか?
「あ、あの、大丈夫ですか?」
すると少女が俺の腕を見ながら心配そうに聞いてきた。ナイフで切られたところを気にしてくれているのか。優しい子だ。
「大丈夫。これぐらいかすり傷だ」
「いえ! ばい菌が入ったら大変です!」
そう言って少女が腕の傷に手をかざした。手から淡い光。
「この者に癒やしを――ディア」
腕の傷が消えた。治療されたんだ。どうやら彼女は治療魔法のスキルをもっていたようだな。格好からして僧侶や神官の天職持ちかも知れない。
「ありがとう助かったよ。しかし、災難だったな」
「はい……でもおかげで助かりました。あ! 何かお礼を!」
「いや、別にいい。傷も治してもらったし」
「でも、それは元はと言えば私のせいですし……」
何かもうしわけなさそうにしているな。ただ遠慮しただけだと逆に気を遣わせてしまうかもしれない。
「そうだな。それなら、自分は冒険者になろうと思っているんだが、今度怪我した時はまた治してもらっていいかな?」
「は、はい! それなら私、今度この街の教会に配属されたので、もしもの時は是非頼ってください! あ、私だと出来ることに限界があるかも知れませんが、例え私には無理でも上に掛け合いますので!」
「はは、そこまでのことで行くこともないと思うけど、その時はお願いするよ」
はい、と顔を綻ばせた。笑顔の似合う可愛いらしい少女だな。孤児院のシスターも美人だったがタイプの違う可憐さだ。
「あ、お名前をお聞きしても?」
「あぁ、俺はシノだ」
「シノさんですね! 私はセイラと言います。あ、それでは、そろそろ教会に行かないといけないので」
「あぁ、俺もギルドに向かうところだったしな。それじゃあ」
セイラと別れ、予定通り俺はその脚で冒険者ギルドに向かった。支度金があるとは言え、手に職はつけないといけないしな。
ギルドは通りに面していたし看板もあったからすぐにわかった。生まれ変わる前の記憶があるから文字は読める。もっとも文字が読めない人向けにわかりやすい紋章も掲げてあるんだけど。
さて赤レンガ造りのギルドに入る。久しぶりだから少し緊張するな。中に入ると、やはり冒険者ギルドだけあって屈強そうな男やいかにも魔法使いと言った出で立ちの男女が目立つ。
壁には掲示場が備わっていて依頼書が貼られていた。冒険者はあの依頼書から好きな依頼を選んで受けることが出来る。
見たところ生まれ変わる前の時からそこまで大きく変わった様子はないな。
「あの、登録はここでいいかな?」
「はい。あら若い。今日がギルド初めてかな?」
とりあえず受付嬢が立っているカウンターに向かった。綺麗な女の人が俺に対応してくれる。
「あぁ。今日で成人したので冒険者として活動したくて」
「そうなのね。ということは天職はもう授かった?」
「まぁ、そうだな」
受付嬢の問いかけに若干言葉を濁してしまったな。ニンジャやサムライだった時も登録の時は微妙な顔をされたもので、それが頭を過ぎってしまった。
それに気がついたのか受付嬢の目が光る。
「とりあえずこの登録用紙に記入して貰いたいけど、字は書ける?」
「それは大丈夫だ」
俺は用紙を受け取って項目を埋めていく。当然だが天職を記入する欄があった。嘘も書けないか。仕方ないサムジャと。
「書けたぞ」
「はい。確認しますね」
そして受付嬢が用紙に目を通してくれた。その視線が途中で止まる。
「え~と、このサムジャというのは?」
「あぁ、複合職で、サムライとニンジャの合わさった天職なんだ」
「へぇ……初めてみたわね」
そして受付嬢が俺を上から下までまじまじと見てきた。
「君、刀と黒装束がないみたいだけど?」
「町の武器屋には売ってなくてな……それに例え売っていてもかなり高いようなのだ。なのでとりあえずこのナイフで――」
「そんなもので? 駄目ね。それじゃあ登録は認められないわ」
「ふむ、登録拒否ということか?」
参ったな。確かにナイフではサムライの力もニンジャの力も発揮できない。サムジャは複合職だが、だからこそ装備が大事だと思われても仕方ないのか。
「登録者の能力に著しく問題があると判断した場合、拒否することもあるわ」
「そうか……」
「ごめんね。でも冷たいようだけど登録してすぐに死ぬようなことがあるのは困るのよ。勿論危険を伴う仕事だけど、それだけに出来るだけギルドは危険を減らさないといけない」
これが俗に言う水際対策という奴か。しかし弱ったな。まさか登録すら拒否されるとは……
「何とかならないか? 世話になった人に仕送りもしてやりたくてな。仕事をしないとどうしようもない。サムジャは戦闘職だし、何とか冒険者になりたいんだ」
「そう言われても……」
受付嬢が眉を顰めて難色を示した。だけど、ここで引き下がるわけにはいかないな。
「お願いだ。仕事なら何でもする。雑用でもなんでも文句は言わない」
俺は頭を下げて頼んだ。冒険者にはランクがあり最低はFランクだがランクのつかない見習いというのもある。
「……そこまで言うなら、仕方ないわね。わかったわ」
「登録してくれるのか!」
「落ち着いて。今も言ったけどこのまま登録はさせられないわ。だから一つテストをします」
「テスト?」
「そうです。テスト内容はセレナ草の採取です。ここから西に向かった先にあるミツの森でこれを採取してきてください」
「薬草採取か」
「はい。冒険者では基本的な仕事の一つです」
そう。初心者の冒険者が大体最初にやるのはこの手の草摘みだ。俺も前はお世話になったものだ。
「ただしミツの森にはそこまで強いわけではありませんが、魔物も出ます。くれぐれも気をつけてください。セレナ草はそうですね二十束程度持ってきてもらえれば合格と致します。ただし痛みが酷いとカウントされません」
「わかった。親切にありがとう。助かるよ」
「……まぁ、頑張ってね」
よし、受付嬢もわかってくれた。とは言えまだテストだ。ここで頑張って成果を挙げないとな。
俺はギルドを出て西の森に向かうことにした。
「ちょっと待って。君セレナ草を採取しに行くんだよねー?」
ふと、声が掛かる。ギルドを出てまもなくのことだった。振り返るとそこには三人の男女の姿。
当然三人とも知らない人間だ。そもそも俺はまだこの街に来て間もないから知り合いなんていなくて当然だけど。
「え~と、そうだが何か?」
「いやーさっき君が受付嬢と話していた会話が聞こえて来たからねー。実は僕たちもその森に行くんだけど良かったら一緒にどうかなーと思ったのさー」
「新人なら森の場所も良くわからないだろうしね」
「私達についてくれば、場所もすぐにわかるわよ」
話を聞くに三人とも冒険者のようだ。確かに鎧姿の男性といい杖を持った少女と弓持ちの女の子といい、いかにも冒険できそうな出で立ちだ。
ふむ、案内か。俺もまだこの辺りのことは詳しくないしな。
「ありがとう。それなら同行してもいいかな?」
「勿論さー一緒においでよー」
そして俺は、彼らの好意に甘えて、一緒に森に向かうことにしたんだ――
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