第1話 天職はサムジャ

「ふむ。お前の天職はサムジャだな」

「ふむ、サムジャ?」


 俺たちの暮らす世界には天職という特殊な仕組みがある。十五歳になると神様から天職を授かることが出来て、それにより様々なスキルが身につく。


 天職も色々であり農民や鍛冶師という生産に役立つ天職もあれば戦士や魔法使い、騎士といった戦闘で役立つものもある。


 そんな中、俺に与えられた天職が【サムジャ】……正直聞いたこともないような天職だった。


 基本的な天職は把握していたつもりだがな。すると天職を教えてくれた神官が更に続けてきた。


「サムジャは複合職だな」

「「「「「「おぉ~!」」」」」」


 天職を授かった俺を見ていた同年代の男女から感嘆の声が溢れた。俺も自分の胸が高鳴るのがわかった。


 複合職とは二つの天職が組み合わさったものだ。例えば魔法を剣に付与して戦う魔法剣士や聖職系の力を拳に乗せて戦える聖闘士などがそれにあたる。


 こういった複合職は当然レアリティが高い希少な天職とされていた。その分強力な物も多い。


 だからこそ期待する。正直聞いたこともないような天職ではあるけど、果たしてサムジャとは一体――


「サムジャとはサムライとニンジャの複合職のようだな」

「――え?」





 結論で言えば天職について判明した瞬間、俺は皆から憐れむような視線を受けることになった。中には小馬鹿にしたりあいつはもう終わったなどと結論づける奴らさえいた。


 理由は明白だった。サムライとニンジャ――この二つの天職はどれもレアリティの高い希少な天職とされている。それであればその二つが組み合わさったサムジャはよほど強力なものだろう、と思われそうなものだがそうは上手くいかない。


 なぜならサムライもニンジャも確かに希少だが、そのわりに使えない天職とされていて天災級の天職とさえ揶揄されるほどだったからだ。勿論この天災は天職を授かった者にとってという意味だが。


 例えば先ずサムライだが、この天職は刀を装備することで強力な斬撃を放つことが出来るのが特徴だ。それだけ聞けば凄そうなのだが、この刀というのがポイントで刀以外の武器ではこの力は発揮されない。一方で刀という武器はサムライ以外が装備しても効果が薄い上、サムライ自体が希少な天職な為、サムライの数は少ない。つまりそんな希少な天職の為にわざわざ刀を打つような酔狂な職人が少ないのである。その結果サムライはその真価を発揮できない。刀がなければサムライはスキルも発動できない。


 更に悪いのはサムライは防具が装備出来ないということだ。そのため装甲が薄い。サムライは紙装甲とよく言われる。近接戦が売りの天職でこれはあまりに痛すぎる。


 勿論良い面もある。刀さえ持てれば攻撃力はかなり高く、体力があって回復力も高い。だけど、それ以外は平凡だし、全体で見ればどうしてもマイナス面の方が目立ってしまう。俺も前はこのマイナス面で苦労した。


 一方でニンジャはどうかというとこれも色々と難点がある。身のこなしが軽く動きも素早いという特徴はあるもののそれを活かすには黒装束が必須だ。ニンジャ用のこの格好をしなければそもそもニンジャとして行動できない。そして当然のことだがこの黒装束もわざわざ作ってる店は少ない。ニンジャの数が少ないからだ。武器にしても手裏剣や苦無はニンジャにしか扱えない。逆に一般的なナイフなどではニンジャの力は発揮できない。

 

 ニンジャには忍法という魔法に似た力があり、これは一見すると強力そうなのだが発動にはややこしい印を結ぶ必要がある。おまけにこの印を結ぶ動作で相手からは忍法を使うとバレてしまう。


 魔法には詠唱があるが、あれは頭の中で唱えても発動可能だからニンジャほどはバレない。そういう意味では忍法はリスクの方が高い。おまけに魔力でなくチャクラを使うのが忍法だが、そのチャクラを練るには体力を消費する。


 だがニンジャにはその体力が、ない! これも俺が前の人生で苦労した点だった。


 これらの点から総合的に見るとサムライやニンジャは欠点の方が多く天職としてみれば外れとしか思えない。そしてサムジャはその二つを複合した天職だということだった。マイナスに更にマイナスを重ねるのだから残念に思われるのも仕方ないかもしれない。


 それにしてもまさかサムライとニンジャの複合職とはな。確かにおれは前前世でサムライ、前世ではニンジャだったが、だからといって今世ではそれが合わさることになるとは。


 そう、実は俺は二回分の人生の記憶がある。そして今世でも物心ついたころに二回分の人生の記憶が蘇った。


 そういう意味ではまだこの二つの天職について知っている分マシかな。くよくよしていても仕方ないしそれでも一応は戦える天職だ。冒険者ギルドに登録は出来るだろう。


 冒険者――もし良い天職に巡り会えたら今度こそ活躍したいと思っていた仕事だ。民間や国から仕事を貰い登録した冒険者が依頼として受け解決することで報酬を得る。


 仕事の内容は多岐にわたり迷宮ダンジョン攻略なんてものもあるし、竜退治などで英雄となった人物もいるのが冒険者だ。男なら憧れない方がおかしい。


 しかし俺は前前世でも前世でも天職のこともあってかこれといった結果を残せず終わった。今世ではもっと良い結果を残したいものだな。


 とりあえずステータスを見てみよう。天職を得ると見れるようになるのがこれだ。


「ステータス」


 そう呟くと何もない空間にステータスウィンドウと呼ばれる物が浮かび上がった。何度やってみてもやっぱりちょっと不思議な感覚だな。


ステータス

名前:シノ・ビローニン

レベル:1

天職:サムジャ

スキル

刀縛り



 さ、淋しい。天職を得れば普通、少なくとも二つ三つはスキルがあるというものだ。


 なのにほぼ何もない……いや、よく見るとうっすらと何かが書いてる気がするけど判然としない。


 それで思い出した。サムライは刀がないと能力を発揮できない。唯一持っている刀縛りがまさにそれに関係していて刀を持った時の戦闘力は向上するがそれ以外の武器の効果は大きく損なわれる。


 そしてニンジャは黒装束がないとやはり能力が発動できない。


 つまり最低限どちらかは必要ということだが……俺は腰に下げていた布袋の中身を確認した。銀貨や銅貨が入っていて、全部で十五万ゴッズが手持ち金となる。


 ゴッズは神が定めたとされるこの世界の共通貨幣単位だ。


 今世の俺は小さな頃に村の孤児院の前で捨てられていたようだ。それからは似たような子どもたちと一緒に育てられた。こんな俺を育ててくれた恩に報いるために様々な手伝いをしたりして金銭を得て、渡したりもしていたけど、育ててくれたシスターは俺が街に出る時にそれと合わせて支度金として準備してくれていた。


 天職を得るのはある程度大きな街じゃないといけないからこうしてやってきたわけだが、シスターの恩義に報いるためにも早く冒険者になって稼ぎ仕送りしたい。


 だからその為に、このお金は役立たせて貰うとしよう。


 そして俺は町の武器屋に向かった。剣とか槍や斧が並んでいた。その中で俺は刀を探す。形状は前の記憶があるからよくわかっている。

 

 だけど幾ら探しても刀はなかった。刀がないならせめて手裏剣ぐらい無いものか……試しに髭のもさっとした店主に聞いてみるが。


「刀? 手裏剣? 馬鹿いえそんなもの置いているわけないだろう。大体あんなもんで何する気なんだ?」

「勿論武器としてほしいんだ」


 そう言って説明すると、店主が気の毒そうに眉を落として教えてくれた。


「そうかそれは災難だったな。今もいったがサムライやニンジャってのはなり手がいないからな。うちみたいな店じゃ先ず置いてない。大きな町にいけばあるかもしれないが……あったとしても恐ろしく高い。なにせ買い手がいないからな。剣を作るときに余った材料で適当に作ったようなものも多い上、値段が最低でも五十万ゴッズする」

「ご、五十万ゴッズ!」


 た、高すぎる。俺は愕然とした。家族四人が暮らしていくのに必要な金が二十万ゴッズと言うが、刀一本でその倍以上するってことだ。


 そして手裏剣や苦無も一本五万ゴッズはするらしい。黒装束なんて百万以下はありえないと言われた。


 しかもそれだけ金を払って手に入れても性能は保証できず、こんな天職でもなければ刀を使うぐらいなら木の枝でも振っていた方が切れ味はいいし、手裏剣や苦無を使うぐらいなら小石でも投げていた方が威力が高く、黒装束なんて着るぐらいならまだ裸のほうが敵の攻撃から身を守れるとのことだった。


 最悪だ……俺は目の前が真っ暗になった。まさかそこまでとは。前前世や前世でも不遇扱いだったが、刀も手裏剣もそこまで高くはなかったし性能もそれなりにはあった。


 だが、天職が戦闘職である以上、何もしないという選択肢はない。

 

 とにかく、ナイフ一本だけ購入した。値段は二千ゴッズだった。これでも普通の天職が使えば苦無や手裏剣より威力は高い。


 しかし俺はサムジャだ。この武器じゃ真価は発揮できない。だけど、それでもなんとかしないといけない。とにかくギルドに行き登録はしよう。


 冒険者ギルドにはそれほど難しくない雑用みたいな仕事もある。必要な装備が手に入るまではそれで頑張る他ないだろう。

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