廃校舎(6) 対決

「僕は、研究者としての成功を夢見ていたわけではない。地道でも良い。社会に役立つ研究がしたかっただけだ。それも、此奴こいつのせいでもう不可能だ」と山根が言った。

「これから福山を殺して、海外へ逃亡する」と山根が続けた。

「そんなことをしても、いつか捕まるわよ」と赤城が言った。

「いいえ、捕まることはないわ。万が一捕まっても、私の両親と林田さんの無念を晴らせるなら思い残すことはないわ」と秋菜が言った。

 山根と秋菜はゆっくりと福山に近づき、福山の目隠しを取って、手にした拳銃の目標を福山の頭部に定めた。

「な、何をしている。待ってくれ。何が欲しい」と福山が慌てて言った。

「時間ぎりぎりだったけど、ウイルスとあなたの身代金、百億円分のネットコインの送金を先ほど確認したわ。これで欲しいものはすべて揃ったわ」と手元のスマートフォンを見ながら秋菜が言った。

「わ、わかった。これまでのことは謝罪する。すべて私が悪かった。ゆ、許してくれ」

「山根君の懲戒免職の原因となった研究データの捏造は、私が部下の一人にやらせたことだ。昇進をチラつかせたら、喜んで引き受けてくれたよ。君がパワハラやアカハラに気付いて告発しようとしたから、仕方なくやったんだ。今では心から反省している。許してくれ」と福山が山根に頭を下げて謝罪した。

「あなたのお父さん、林田君のアイディアを盗んだのは私だ。当時、私は実験に行き詰っていて、研究成果を出せずにいた。林田君のアイディアを聞いた時には、これだと思った。悪いこととは知りながら、苦渋の決断だったんだ・・・・・・。まさか林田君が自殺するとは思わなかった。すまん」と、今度は秋菜に謝罪した。

「どうせ口先だけの謝罪に決まっている。謝罪に誠意がないから、少しも心に響かないな!」と山根が吐き捨てるように言った。

「僕たちが手を下さなくても、ウイルス盗難が公表されれば、鳥インフルエンザウイルスをまんまと盗まれた間抜けな所長として、社会から大きなバッシングを受けるはずだ」と山根が続けた。

「もう、あなたには人質としての何の価値もないわ。ここでは殺さないであげるから、これまでの事を死ぬまで後悔しなさい」と秋菜が突き放すように言った。

「本当の人質は培養したウイルスだ。動画に映った鳩の映像を見たはずだ。場所は言えないが、培養したウイルスを注射した鳩を複数の場所に隠している。このスマホのアプリのスイッチを押せば、鳩舎きゅうしゃの窓が開いてウイルス感染した鳩が一斉に放たれる」と山根が言った。

「放鳥用のアプリは、私のスマホにもインストールしているから気を付けて」赤城と黒田の二人を牽制するように秋菜が言った。

「僕たちが安全なところまで逃げられたら、鳩舎の場所を教えるよ。賢い君たちにはわかるだろうが、下手なことはしないほうがいいと警告しておくよ。鳩舎からの放鳥はネット経由でできるから、世界中どこからでも可能だ」山根が言った。

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