MADサイエンス研究所・再び(2) ハッカーの師匠

「話は変わりますが、赤城さん。昨日の夜、複数の暴漢たちに襲われたでしょ? そして、犯人からの警告があったでしょ?」と小森が突然聞いてきた。

「そのことについては、まだ一言も話していないのに、どうしてわかったの?」と赤城が聞き返した。

「悪いけど、仙石さんに頼まれて赤城さんと黒田さんの情報端末の位置情報を追跡していたんだ。そうしたら、マンションの手前でしばらく留まったり、マンションからホテルへ移動したり、おかしな動きをしてたから、少しだけ警察のサーバにお邪魔して調べたんだ」と小森が悪気なさそうに言った。

「まったく、ハイテクなストーカーじゃないの。仕方がないわねぇ。ところで、ウイルス誘拐犯からの警告の情報はどこで知ったの。それもハッキング?」と赤城が聞いた。

「仙石さんの話では、毛利首相から直接メールが届いたそうだよ」と小森が答えた。

「これには続きがあるんだ」と小森が続けた。

「そのせいで徹夜したんだけど、暴行未遂事件が起きた現場周辺の防犯カメラの映像データを調べたんだ。僕の顔認証ソフトで解析した結果、二十八人の男女が映っていた」

「この二十八人の中には、赤城さん、黒田さん、暴行犯の四人が含まれている。この六人を除いた人物について詳しく調べたら、カップルらしき二人組の一人が、九十%の確率で山根公典に一致することがわかったんだ」と小森が説明した。

「それじゃ、犯人の一人は山根で決まりですね。でも、もう一人は誰なんですか?」と黒田が聞いた。

「あの時のカップル・・・・・・。それじゃ、もう一人の犯人は女性なのかしら?」赤城がさらに聞いた。

「――隠してても、いずれ仙石さんが突き止めるだろうから、僕から言うね。もう一人は、林田秋菜あきな、僕の実の姉さんだ」小森が声を絞り出すように説明した。

「えぇ」赤城と黒田はのけって驚いた。

「コンピュータスキルのレベルの高さから、薄々、姉さんじゃないかと思っていたんだけど、防犯カメラの映像を見て確信したよ。念のために、犯人が改竄したコンピュータのログを調べたら、そのログの中に僕たち二人にしかわからない、固有の暗号が埋め込まれてあったよ」と小森が言った。

「小森君は、本当は林田君なんだね」と頓珍漢とんちんかんな感想を黒田が言った。

「お姉さんと山根の接点は?」赤城が矢継ぎ早に質問した。

「僕が高校を中退してマッドに来てからは、姉さんとは連絡をほとんどとってないから良くわからない。お互いに連絡しなくなって三年くらいになるかなぁ」と小森が言った。

「僕が高校一年生で引きこもりになった時、家でコンピュータの楽しさを教えてくれたのが姉さんなんだ。姉さんは、家庭の事情で自宅近くの女子大の文学部に通っていたけど、僕よりすごいコンピュータの天才なんだ。僕は姉さんにあこがれて、コンピュータのスキルを磨いたんだ。いまだにハッキングが趣味なのは、その名残なごりさ」と小森が自身の過去を語った。

「姉さんは女子大を卒業した後、コンピュータスキルを封印して銀行の窓口係に勤めていたはずなんだけど・・・・・・」と小森が言った。

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