死ったら、生っとけ。

花辺 子昭

第1話 終わりの始まり

 やまだは絶望した。絶望という言葉では言い表せない程に絶望した。そう、これ以上ないくらいに。

 やまだは大学を卒業後、大手商社に入社、33才で3つ年下のお嫁さんをもらい、子供はまだだったが、順風で幸せな日々を過ごしていた。いや、順風で幸せに見える日々を過ごしていた。毎朝6時13分の電車にギリギリ駆け込み、毎日同じ同僚・上司に挨拶し、毎日同じ仕事、毎日同じ席での昼食。毎日毎日同じ繰り返し。毎日同じ、同じ、同じの繰り返し。仕事に忙殺され、自分が何者なのかすら分からなくなる程に忙殺されていた。

 そんなある日、思い立ったが吉日、死んでいた日常生活から脱却する事を決意した。

 会社を辞め、自分の店を持つ事にしたのだ。独立は、別に昔からの夢だったりした訳では無かったが、とにかく今までの息苦しい日常から脱却したかった。 

 お店は自宅兼ダイニングバーで、今まで住んでいた月8万円の貸マンションからの引越しだ。これまでに貯めてきた800万円の貯金とローン2500万円を組み、39才にして遂に光へと動き出したのだ。


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死ったら、生っとけ。 花辺 子昭 @pikoyama

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