第145話 鑑定士
「どうやら判断に迷っているようね……彼がホモかどうか、それが知りたいんでしょう?」
フィーが声を上げる。グリムナは途端に嫌そうな表情をする。そもそも「グリムナがホモ」という話を裁判に持ち込んだ張本人がフィーであるからだ。さらに言うならこのポンコツ女がアクションを起こして事態が好転したためしがないのだ。いつもしっちゃかめっちゃかな状態になる。
「フィー! お前分かってるんだろうな!」
「フフ、大丈夫よ。私はいつだって公平公正な目で見ているわ」
グリムナの言葉にそう答えた彼女の公平公正な目は彼の目線よりもかなり下の方に向けられていた。
「わっ、バカ! こっち見るな! おい、もういいだろう! 早くズボンを履かせてくれ」
グリムナはまだちん○ん丸出しの状態であった。必死で身をよじって隠そうとするが、さすがにそれで隠れるほど彼のジュニアは極小サイズではない。仕方なくヒメネス枢機卿がグリムナの元に歩み寄って彼のズボンを上げた。
「あっ! 待って、まだスケッチが終わってない!」
アムネスティが声を上げる。彼女はいつの間にか紙を取り出して何やら熱心にスケッチをしていた。
「何描いてんだよ! お前はいつから法廷画家になったんだ! っていうか法廷画家もちん○んのスケッチなんてせんわ!! って、そうじゃなくて、神聖な法廷でなんでちん○ん出させるなよ! お前らは!! 法廷侮辱罪だろこんなの!! ああもう、ツッコミが追い付かんわ!!」
一通りツッコミを終えてズボンも装備したグリムナの縄が解かれてようやく場は落ち着いたかに見えた。しかしこの膠着した宗教裁判のキーを握っているのは他ならぬ煩悩女、フィーなのだ。
「こいつがホモかどうか、確かめる方法があるって言うのか?」
ヒメネス枢機卿がフィーに問いかけると、フィーは腕を組んだままフッフッフ、と余裕の笑みを見せた。いつもの自信満々なフィーの態度に不安を感じたグリムナは彼女に詰め寄る。
「いいか? お前なんか勘違いしてそうな気がするから確認しとくぞ? その『方法』っていうのは『俺がホモじゃない』って証明する方法なんだよな? 『俺がホモである』ことを証明する方法じゃないんだよな?」
やはり余裕の表情を崩さずにフィーは答える。
「言ったでしょう? 私は常に公平公正と。私が提示するのはホモかどうかを確認する方法であって、それから先はあなた次第よ……」
やはり肝心なところは言わないフィー。どうも彼女はサプライズ好き、というか秘密主義なところがある。そのサプライズがいい方向に転がったことがないのが玉に瑕だが。
「おい! 被告人とあまり接触するな。打合せするんじゃないぞ! 公平公正が聞いてあきれるわ!」
ヒメネスの言葉にグリムナは舌打ちしてさがった。フィーはフンッと鼻で笑ってから、場が静まったのを確認すると、高らかに言葉を吐いた。
「餅は餅屋。ホモかどうかを確認したいならホモの力を借りればいいのよ。幸いここにはホモのスペシャリストがいるじゃないの!」
ホモのスペシャリスト……といって真っ先に思い浮かぶのはフィーであったが、まさかグリムナの旅に同行している彼女が判定すればいい、というのならあまりにも不公正な確認方法である。しかしグリムナがフィーに尋ねると、どうやらそう言うことではないらしい。他にホモのスペシャリスト、と呼ばれるような人間がここにいただろうか。大司教メザンザは煮え切らない状況にイラついているのか、しきりに唸っている。
「ホモのスペシャリスト、代官ゴルコークがここにいるじゃないの! あなたたちの目は節穴なの!?」
フィーの言葉に全員が一斉にゴルコークの方に視線をやった。証人として現れたまま、まだ退席していなかった彼は、最初驚いて目を丸くしていたが、すぐに落ち着きを取り戻してゆっくりと答えた。
「ふむ、確かに俺は男女ともに経験が豊富だ。もしホモなら俺ならば確実に分かるぞ……!!」
おおっ、と声が上がる。大司教も「むぅ……」と小さく声を上げた。事態の好転に喜んでいるのか、そうでないのか、いまいちその表情から読み取ることはできない。
「証明するったって……一体どうするんだ? 処女膜みたいなもんがあるわけじゃないだろう」
「ふっ、『その道』を生きてきたものにだけ分かる『特定の反応』というものがあるのだよ……」
ヒメネスの問いかけにもゴルコークは余裕で返す。どうやらかなり自信があるようだ。そのままゴルコークは少し歩いてフィーの方に向かって問いかけた。
「たとえば……そうだな、フィーさん、『攻め』の反対語は何か、分かるかな……?」
「え……? 『受け』でしょ?」
当然だ、という表情でフィーが切り返すが……
「キミは腐女子だ。『攻め』の反対語は『守り』だ。『受け』と答えるのは腐女子の証だよ」
おお、という感嘆の声が辺りから上がる。これは本当にやるかもしれない。この膠着した事態とホモのアナルに風穴を開ける者の登場である。
ゴルコークはグリムナに聞こえないようにヒメネス達を集めると何やらボソボソと指示を始めた。グリムナはとても嫌な予感がしたが、ヒメネスは「お安い御用だ」と答えて先ほどグリムナを縛っていたロープを手にした。
ロープを手にしたことで『嫌な予感』はまず間違いなく起こるだろうと予測したグリムナはすぐにドアから外に出ようとしたが、出口はすぐにフィーに抑えられた。
「グリムナ……逃げちゃだめよ! ここであなたの無実を証明するのよ!」
「ぐっ……」
思わず言葉に詰まるグリムナ。確かの彼女の言うことには一理ある。
「それに……なんだか、とても楽しいことが起こりそうな予感がするの……」
「そっちが本音だろうが!!」
怒鳴りつけたグリムナをすぐさまファング枢機卿とビグルス枢機卿が取り押さえた。彼らは抵抗するグリムナを二人で持ち上げ、証言台にうつ伏せに乗せると、ヒメネス枢機卿がその両手と両足を縛り、そのまま台に括り付けて動けなくした。
そして、なんとなくそうなる予感はしていたが、そのままグリムナのズボンをまたもやズルッと下ろした。
「キャアアァァァァ!!」 ※グリムナの声
今度はうつぶせの状態で台に括り付けられたので尻が丸見えである。
「もう……イヤ……なんでいつもこうなるの……」
グリムナが涙を流しながら言葉を漏らす。瞳に既に輝きは見られず、これこそが本当のレイプ目という奴である。
「ふうぅむ……色素の沈着は少ないな。遊んでるアナルには見えんが……」
「これがグリムナのメスイキ穴ね……確かに、意外と綺麗なもんね」
「ヤダ……他人の肛門初めて見ちゃった……こうなってるんだ……」
上から順にヒメネス枢機卿、フィー、アムネスティの言である。既に何番目のレイプか分からなくなっているが、グリムナの肛門鑑賞会が始まった。
「いやいや、見た目では分からんもんだぞ」
三人を押しのけるようにゴルコークが一歩前に出てきた。
「乳首や陰部が使い込まれると色素沈着して黒くなる、というのは俗説だ。実際にはほぼ生まれ持った特質で決まるから見た目ではほとんど分からん。ところでフィー殿、『アレ』は持っているかな……?」
「……『コレ』ね?」
少し沈黙があったが、フィーはすぐに粉の入った小瓶を取り出した。
それは、例の……『スライムローション』であった。
「す……凄まじく……嫌な予感がする……」
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