第131話 ちょろい女
結局、抵抗むなしくグリムナはアムネスティ達にヤーベ教国の首都ローゼンロットへと連行されていく。アムネスティ達3人は馬に乗っており、それに鎖のついた手枷をつけられたグリムナがとぼとぼとついてゆく。
ヒッテ達も同行を許されているものの、とても寛大な措置とは言えない。そもそも令状もなく、出どころ不明な通報と個人の判断だけで逮捕してしまうのだからたまったものではない。もちろん現代日本の法律に縛られた公務執行と比較できる性質の物ではないのだろうが。
「ねぇねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち? 私手枷とかはめるプレイしたことないんだけど、やっぱ興奮する?」
フィーが顔を覗き込みながら煽ってくる。そもそもお前の母親が元凶なんだが、何か思うところないのか、グリムナはそう言いたいのだが、アムネスティの前でエルフに何か言うと即座に罪状が追加されそうで怖くて発言できないのだ。まあ、どうせこの女はそう聞いたところで何とも思わないだろうが。
「大丈夫か、グリムナ。手は痛くないかの? できれば儂が変わってやりたいが……」
バッソーは歩きながら、ちらりと馬上のアムネスティを一瞥する。グリムナは嫌な予感がして眉間にしわを寄せた。
「おお、しかしこれはいい考えじゃな。どうじゃろ? 少しの間でもいいから儂が変わってやるというのは……?」
またバッソーがちらちらとアムネスティの方を見る。要は、この美女に手枷をはめられて、罵られながら引っ張られたいのだ。そう言う性癖もあるのだ。
まあ、分からないでもない。
「そんなシステムはないわ……」
冷たくアムネスティが言い放つ。
「……じゃあ……」
バッソーがごそごそと自分の懐を探りだし、何かを取り出してアムネスティに見せた。
「どうじゃろう? 銀貨三枚で?」
「そんなシステムは、ない」
やはり即座に却下される。と言うかその銀貨、山分けはしたもののグリムナがコスモポリの町で死ぬ気で稼いだ金である。
それにしても、本当に厄介な奴に捕まってしまった。ちらりとグリムナはアムネスティの方を見る。凛とした横顔はフィーのような目を見張るといった感じの目立つ美人ではないものの、非常に整っている。しかし、170cm近くある高い身長と小ぎれいにまとめ上げられた黒髪は隙を感じさせない、いかにもデキる女、という感じである。こういったところから男は彼女に近寄りがたいのかもしれない。実際にはかなりのポンコツだというのに。
「何を見ている」
不機嫌そうな表情で、視線に気づいたアムネスティがグリムナを見下ろしながら言った。グリムナは正直なんとなく見ていただけで特に他意はなかったので、今思ったことをそのまま口にした。
「いや、綺麗な横顔だな、と思って……」
「…………ッ!?」
アムネスティはその言葉を聞くと顔を真っ赤にして目を逸らした。グリムナはその態度に強い違和感を覚える。
(コイツ……!?)
「ば、バカッ! わわわ、訳の分かんない事言わないでよ! 本当にバカ!!」
そう言いながら目を逸らしたまま手枷の鎖をぐいっと引っ張る。グリムナは思わずそれでよろけてしまったが、しかし、この女の本性が少し見えた気がする。
(コイツ……ちょろいぞ……ッ!?)
そのやりとりを見ながら従者のレイティは顔に手を当てて「あちゃー」と小さく呟いた。
「団長の悪い癖が出たっスね……」
その日の夜は適当な町や村に辿り着けず、一行は野営することとなった。
食事が終わって一服していると、グリムナがアムネスティに話しかけた。
「アムネスティさんは、どうしてこんな仕事をしているんですか?」
このポンコツ女には言いたいことが山ほどあるが、あえて下手に出る。触れなくていい地雷には触れぬのが定石だ。
「フッ、よくぞ聞いてくれたわね!」
アムネスティが得意満面と言った顔で答える。いや、と言うよりはいつ聞いてくれるのか、今か今かと待っていたような、そんな感じだ。
「この大陸のほとんどの国で国家元首は男が務めているし、社会的な地位の高い貴族や領主も男性ばかり、なぜか分かる?」
「…………」
そのまま沈黙が続いた。
(あ、しまった、これ俺が答えるまで進まない奴か)
聞いたのはこちらなのだから黙っていれば向こうが勝手に解説をしてくれると思っていたのだが、どうやら本当にグリムナに尋ね返しているようだ。この女は質問に質問で返しているのである。しかし今の時点で彼女の機嫌を損ねたくないグリムナは眉間にしわを寄せて考える。ここまでのやり取りで彼女が過激派フェミニストであることは分かっている。ならば、どういった答えをすれば喜ぶのか、そこが試されているのである。
「それは……ええと、女性の社会進出が進んでいないから……」
「その通りよ!! 分かっているじゃない!!」
突然のでかい声に全員がビクッとした。しかし従者のレイティとカマラは「いつもの事か」と言う感じで対して気にしていないようである。この二人はどうやらフェミニストの活動についてもあまり熱心ではないようだ。
「いい? 女性の社会進出さえ進めば、この世界はもっと良くなるのよ! 下半身で考えてるような男どもよりも女性が国を治めた方が絶対いいんだから! 女性にその能力はあるのよ? あるけども、子供を産み、育てるというハンデが……」
大分長くなりそうである。
グリムナは熱く語りだしたアムネスティを見ながら何かを思い出しそうになっていた。その時、興味なさそうに爪にやすりを当てているフィーの顔が視界に入った。そうだ、思い出した。これはフィーがホモについて語っている時の雰囲気と同じなのだ。早口でまくし立てるように、相手の主張を一切聞かずに自分の言いたいことだけを言う。なるほど、それならば対処法は分かる。
グリムナは、ふんふん、なるほど、そうなんですか、と数種類の相槌をローテーションで使いまわしながら彼女の話を聞き続ける。決して邪魔はしてはいけない。ただひたすら彼女が気持ちよく話せるように、適度に質問を挟みながら、彼女の主張をひたすら聞き続けるのだ。
そう、彼女は今、オ○ニーをしているのである。
一般的に子連れのヒグマとオ○ニー中の男性は非常に気が立っており、感覚が鋭敏になっている。決して邪魔はしてはいけない。それがマナーであり、生きるための術なのだ。
「……つまりね、この社会制度を根本的に変えなければ、今の無能な男性が有能な女性を虐げる構図は決して変わらないのよ」
「なるほど、つまりこの社会制度を根本的に変えようとしてるってことですね」
グリムナがオウム返しで相槌を打つ。
「そうよ! 分かってるじゃない! あなた意外と話の分かる男ね。女性の社会進出が進めば、絶対に社会はよくなって、きっと竜なんかも現れなくなるんだから!」
「そうか、女性が社会をつくることで世が乱れる時に現れるはずの竜も現れなくなるのか」
またもグリムナがオウム返しをする。傍から見ると馬鹿にしているようにしか見えないが、しかしオ○ニーがいいところまで来ているアムネスティはそれに気づかない。
「だからね。私たちは今社会を動かしている無能な男どもを追い落として、有能な女性をそこに納められるように社会制度を根本的に変えようとしているのよ!」
二つ前のセリフとほぼ同じ内容である。酒を飲んでいるわけでもないのに話がリピートし始めた。射精までもう少しと言うところであるが、ここでヒッテの横槍が入った。
「いや、今までその『有能な女性様』は無能な男性が社会をつくるのを指くわえて見てたんですか? 随分暢気なんですね」
「ああん?」
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