閑話休題

デザートは一部外注でございます

 不意に、勝手口が開いた。手が離せない勇貴の代わりに真美が伺い、すぐに悲鳴を上げて扉を閉める。

「何事でございますか!」

「楓ちゃん、大変! 外にガラの悪そうな人が!」

 真美が涙目で指差す勝手口が再度開き、男性が顔をのぞかせる。

「及川勇貴はいるか?」

「むっちゃん?」

 勇貴は声を聞いただけで、来客を判断する。

「むっちゃん、ありがとう。休んでいってよ。真美ちゃん、デザート受け取ってくれるかな」

 真美は、震える手を伸ばし、男性からクーラーボックスを受け取る。

「貴女殿、久しいな」

「お久しぶりでございます」

 楓が冷蔵庫から麦茶を出してグラスに注ぐと、男性は立ったまま一気に飲み干した。

 男性の名は、睦里むつり。夜なのにサングラスをつけ、髪は後ろに流してワックスで撫でつけ、ライダースジャケットにジーンズという出で立ち。楓の昔馴染で、職業はパティシエ。今回これからお客様にお出しするスイーツは、睦里の特製だ。

「久々に山梨まで行った。あそこは水も果物も、信州とは一味違う」

「へえ。俺も行ってみたい。忍野八海の水でコーヒーを飲んでみたいんだ」

 勇貴はデザートを切り分け、盛りつけながら言葉をこぼす。楓と真美は、デザートの断面に釘付けだ。

「よし。準備オッケー。楓ちゃん、先にを運んでくれるかな」

 勇貴のゴーサインで、楓は最後のデザートを運ぶ。

 

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