最後の“ イシ”

まぎ

第1話

僕は人間ではない彼を見たのはそれが初めてだった。


バスでの帰宅途中のことだ。

銀髪の彼がバスに乗っていたのだ。

この辺では、、、と言うかこの地球では彼の様な人は珍しかった。

正直彼に興味があった僕は後をつける様に彼が降りた駅で降りた。

(何をやっているんだ、、これじゃストーカーじゃないか、、、)

バスを降りた彼は明らかにキョロキョロと辺りを見渡し、行くべき道を探しているようだった。

それもそうだろう、彼はこの地球は初めてなのだ。彼らの殆どはこの地球に来ることなく死ぬのだ。

(道に迷っている!これはチャンスだ!)

意をけして僕は話しかけた。

「良かったら、道案内しましょうか?」

すると彼は少し驚いた顔をしたが愛想良く笑って言った。

「助かります。お願いします。」

綺麗な顔をしていた。創り物のように。

「どこに行かれるんですか?」

彼はこの地球に何の用があるのだろうか。

「景色が綺麗な場所に行きたいんです。」

「観光ですか?」

「そんなところです。」

曖昧な返事だ。

彼らは1人で地球に観光なんか来れるのか疑問もあったが僕は彼らを無下に扱うつもりはない。

「この辺なら夜景がいいんじゃないかな。夜になると綺麗ですよ。」

「夜景もいいですけど、夕日が見たいんです。自然と暗くなってまた明るくなるなんて不思議です。」

彼は空を見上げて言った。

彼の住む星では太陽は沈まないのだ。

昼間は太陽に照らされ、夜は人工の光で一日中明るいのだとテレビで見たことがあった。

「夕日を見るには、もう今日は遅いかもしれませんね。」

空は濃いオレンジ色に染まっていたが、今いる場所では沈む太陽はビルに隠れて見えない。

「そうですか、、、」

ガッカリしてしまった。彼に夕日を見せてあげたいと思った。

近くに夕日が見える場所があったか考えた。

「僕の住むマンションから夕日が見えますよ!急げば間に合うかも!行きませんか?」

「行きたいです!!」

彼は嬉しそうに言った。

それまで歳は同じくらいか少し年上に思っていたが、無邪気さが子供らしさを感じさせた。

僕の家は1つ先のバス停なので少し距離はあるが屋上からなら急げは間に合うだろう。

彼と2人で僕の家に向かった。








彼らにも、彼らの住む星にも興味があった。

彼らは人工生命体なのだ。


今から約200年前、我々人間は人工生命体を作り出す事に成功した。

彼ら人工生命体は、僕ら人間と同様に飲み食いができ、言葉が喋れる。

基本的に赤ん坊で生まれ、成長し大人になり寿命が来て死ぬのだ。人間と遜色ない生命体と思えたが、その後それを否定する研究結果が発表された。

彼らには感情が無かった。

つまり人工生命体は機械の様な物だ。人間の都合の良い様に扱われた。


主に彼ら人工生命体は労働に使われた。

彼らを大量に作り、働かせるのだ。

作物を作り家畜を育て売る。加工して売る。

機械や物も彼らが作る。危険な仕事やツラい仕事は全て彼らが変わってやった。

彼らは人間の形だが人間では無いので、昔からある労働者の基準法には当てはまらない。賃金など貰えずタダ働きだ。

現在、僕ら人間が食べている物や使っている物の9割は彼らが作った物だ。既に人間は第一産業を殆ど辞めていた。

彼らと生活し、人々の暮らしはとても豊かになった。


しかし、ある事件をキッカケに彼らを嫌う人々が急増した。

その結果、彼らを隔離する事になった。

彼らを住まわせるための小さな惑星を地球の傍に作った。

そこで彼らを住まわせ、働かせ管理した。

その星で作った物を地球に持ってくることで人間は今も豊かな生活を続けている。


彼らが住む星は今では何個もあるのだが、ここまでくるまで長い年月が掛かった。

1番最初に作った惑星は、惑星を保てず壊れてしまい、多くの人工生命体が死んだ。

そんなことを繰り返し今はちょっとした企業ですら惑星を作り事業の拡大を目指した。

地球の周りには小さい星が沢山散らばっている。


彼らと我々は隔離されているが例外もある。

例えば、子供が出来ない夫婦が赤ん坊の人工生命体を買って家族として育てたり、独り身の老人が成人の人工生命体を買って生活のサポートをさせたり。

そういった例外を除いて彼らが地球に来ることは無かった。


だから彼は珍しかったのだ。


マンションの屋上から夕日を見たあと彼と一緒に食事をすることになり、2人でレストランへ行った。

僕は彼に興味があったし、彼も僕に興味を持ってくれていた。

彼の話によると、やはり彼は地球ではない星の1つからやって来たそうだ。地球に興味があり地球を自分の目で見たかったそうだ。

「ボクの住む星では空が緑色なんだ!」

彼がコーヒーを飲んで言った。

「人工的に緑色にしているんだろ?何のために?」

僕はご飯を飲み込んでから聞いた。

「きっと目に優しいからだね!」

そうな理由な訳ないだろう。

疑問に思ったが聞かなかった。

他にも彼の星について色々教えてくれた。

彼の星では主に家畜を飼っており、その家畜を加工する工場で彼は働いているそうだ。

「今日は仕事は休みなの?」

僕が聞いた。

すると彼は答えづらそうに言った。

「実は、、もう仕事はなくなったんだ。」

そんなことあるのだろうか?

その星の企業が倒産でもしたのだろうか?

だとしても彼が自由に地球に来れたことを疑問に感じた。

「大丈夫なの?これからどうするの?」

家もお金もないんじゃないだろうか。

「もっと地球を見て回って、それから故郷に帰るよ。」

彼にも故郷があるらしい。安堵した。

「それならいいけど。ところで今夜泊まる所決まってるのか?」

自由気ままな彼の事だきっとまだ決まっていないのだろう。

「今夜は泊まらずに次の場所に行くよ!今日は案内してくれてありがとう!」

彼は綺麗な顔で無邪気に笑った。

人工生命体は人間と見分けがつくよう全員髪が銀色だ。顔も整っている。

作り物のように。

「こちらこそ、面白い話をありがとう!」

僕は彼と別れ家路に着いた。









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