鳥の巣(旧)

雨世界

1 ……いつか、あなたの元に。

 鳥の巣


 登場人物


 天の原みちる 白藤の宮の元に訪れる少女 背が高く美しい容姿をしている


 白藤の宮 森の奥に住んでいる女性 世捨て人 美しい人


 百目の鬼 獣姫と呼ばれている小さな女の子の姿をした鬼


 プロローグ


 イメージシンボル ぼろぼろの一枚の羽


 ……いつか、あなたの元に。


 世界には小雨が降っている。

 ……悲しい雨。

 そう感じるのは、私が今、泣いているからなんだろうか?


 ……私は孤独だ。それは、生きているから孤独なのだろうか? 

 じゃあ、もし死んでしまったら私は孤独ではなくなるのだろうか? ……ううん。そうじゃない。死はきっと、ただのなにもない、……無だ。

 ……死んだら、なにもなくなる。(私が私じゃなくなっちゃう)……それは本当に怖いことだ。だから私はこんなにも今、ぶるぶると本当に怖くて、震えているのかもしれない。


 本編


 永遠の君


 愛し。……愛され。


 薄紫 うすむらさき


 紫が初めて恋をしたのは、同じお屋敷に住んでいる幼馴染の少年。藍と出会ったときだった。

 季節は庭にたくさんある、桜の咲く春の季節。

 その桜の花吹雪の中で、幼い紫は、同じように幼い少年である藍と出会った。

 若草藍。

 紫の父である白湯の君の親友である、今は亡き白露の君の二人いる男子の兄弟の弟君で、今は訳あって、兄君である紅(白露の家を継いでいる)とは違い、藍は母親の実家である若草の家を継いで、若草藍となって、紫の実家である白湯の家に居候をするような形で、最近になって、引越しをしてきた人だった。

「こんにちは」

 柱の影に隠れるようにして藍のことをじっと見つめていた紫のことを見つけて、藍はにっこりと笑ってそう言った。

 その澄んだ、美しい声を聞いて、紫ははっととなって、柱の後ろにその姿の全部を隠してしまった。(返事もしないままで)

 紫はそれから少しして、柱から顔を少しだけ出して、藍のことを見た。すると、藍はまだ紫のほうを見ていて、そんな紫の行動を見て、優しい顔をして、桜吹雪の中で、にっこりと笑って、紫を見ていた。

 それはとても幻想的な風景だった。

 紫はこのとき、初めて恋に落ちた。

 自分の家に都落ちをしてやってきた若草藍を見て、紫は、生まれて初めての、本当の、本当の恋に、……落ちた。


 森の奥


 はじまり、はじまり。


 おーい。なにしているの? 


 天の原みちるがいつものように、森の奥に足を踏み入れると、そこにはやっぱりいつものように、生い茂る深い緑色の森の中に建てられている、古い一軒の小さな家があった。

 古いけれど、とても綺麗に掃除や手入れをなされている、……そこに、その家があることが、少し不思議だと思うような、……そんな小さな家。

 その家には、一人の女性が住んでいた。

 その女性に会うことが、みちるがこの深い森の奥にわざわざ遠くからやってきて、足を踏み入れた理由だった。

 その女性の名前を『白藤の宮』と言った。

「あの、お久しぶりです。みちるです。天の原みちるです。白藤の宮。……いますか?」

 木のいい匂いのする、小さな家の玄関の前で、みちるは言う。

 すると、少しして、家の中で誰かが動く音がした。

 森は、少し前に雨が降ったのか、木々の葉や幹は、しっとりと濡れていた。土も少し、ぬかるんでいる。白い靄のような霧も少し出ていた。そんな水気を帯びた森の中の空気は、とても新鮮で、気持ちが良かった。(それになんだか、少し神秘的な雰囲気を感じた。それは、この森の奥を訪れる時に、いつもみちるが感じる感情だった。……森は、まるで別の世界のようだった。都とは違う、不思議な世界。もう一つの世界。そこに彼女は、ずっと閉じこもるようにして、ずっと一人で暮らしているのだと思った)

「はい。いますよ。まだ、私は生きてます」

 がらっと言う音がして、木のドアが開くと、そこには白藤の宮が立っていた。

 掃除をしていた最中なのか、着物の上に白い服と、頭に白い頭巾をかぶっている。

 そんな白藤の宮はまるでお化けのように、両手を自分の胸の前で、だらんとさせて、ふふっと笑いながら、まるで小さないたずらっ子のような顔をして、みちるにそう言った。

 そんないつまも子供のままでいる白藤の宮を見て、みちるは「はい。知ってます」と、少し呆れた顔をしたあとで、小さく笑ってそう言った。

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