闇の魔女と脳筋少年剣士

ときすでにおすし(サビ抜き)

01.出会い

 私が今いるのは、フォーレル王国という国。国の半分が山と森で、四方を別の国に囲まれた小さな国。

 そこの冒険者ギルドで、私はここ1週間ぐらい依頼をこなしている。



 私の名前はエリサ。闇の精霊魔法使い。昔は魔術師だったけど、紆余曲折あって、闇の精霊魔法(略して闇魔法)が使えるようになった。昔は仲間と「純白のコップ」っていうパーティを組んでて、そこそこ有名なパーティだったんだけど、今は相棒と一緒に旅をしながら、気が向いたら依頼を受けたりしてる。

 自慢じゃないけど、二つ名があって「コップのヤミ魔女」とか言われてる。この呼び名自体は嫌いじゃない。なんていっても、闇ってとこが好き。相棒も気に入ってるみたい。

 ただ、この呼び名を聞いたパーティリーダーが「お前すぐ病むしな」とか、わけのわからないことをいってたたのが気になる。あの人、何考えてるかよくわからない人だったな。

 そうそう、私の相棒ってのは、闇の精霊のルーさん。本当はもっと長い名前なんだけど、覚えにくいからルーって名付けたら本人も気に入っているみたい。


 ちなみに、私の所属してたパーティは、リーダーのおっさんが旅に出たいとか言い出して同じパーティにいたエルフの彼女と一緒に旅にでちゃってから、ずっと活動が休止となってる。

 そのうち自然消滅するんじゃないかな。ま、どうでもいいわ。みんな元気なら。

 



 さて、今日は、どんな依頼をやろうかな。

 受付に行って仲良くなったお姉さんに、オススメの依頼を紹介してもらった。

 お姉さんが、これが絶対オススメ。すぐ行って欲しいなんていうもんだから、フォレストドラゴン退治の依頼を受けることに。

 依頼内容を念のためみると、農作物を荒らすフォレストドラゴンを退治してほしいって書いてあるけど、これ急がないと、たぶん農作物以外にも被害出るんじゃ。

 お姉さん、これ緊急依頼だしたほうがいんじゃない?と思うけど、ここではその程度の魔物扱いなのかもしれない。


 ということで、フォレストドラゴンに荒らされている御宅へ行ってみた。

 畑と小屋がめちゃめちゃになっていて、今まさにおじいさんがフォレストドラゴンに食べられそうなところだった。あっぶな。


「ルーさん、よろしく!」


 と言いながら、ルーさんを放り投げる。

 ルーさんは、いつもは手乗りサイズの真っ黒いクマの人形だが、形は決まってないらしく、その気になるとどんなものにもなれるそうだ。

 ただし、真っ黒なのは変わらないから、同じような形だと、正直こまかな見分けはつかない。傷つくだろうから言ってないけど。


 今回は、真っ黒なオーガかな?に変わって、フォレストドラゴンをぶん殴ってる。

 間一髪のところで、おじいさんを救えた。


「大丈夫ですか。依頼を受けてきました、エリサです」


「ありがてぇ、ありがてぇ」

 

 とりあえず、ルーさんが、フォレストドラゴンをピヨらせたので、私がすかさず魔法を使う。


「沈め」


 フォレストドラゴン足元が黒くなり、徐々に沈んでいった。ドラゴンが暴れ始めたが、もう遅い。そのまま、闇の底なし沼に沈んでいった。

 これが私の得意な闇魔法。闇沼っていう便利な魔法。


 はい、これで依頼完了。


「では、これで依頼終了となります。失礼します。あ、そうだ。これ少ないですが、小屋と畑を立て直すのに使ってください」


 といいながら、金貨の入った袋を、おじいさんに渡した。


 おじいさんは、私を拝みながら「ありがてぇ、ありがてぇ」を繰り返していた。


 ルーさんが、私の手のひらに戻ってきた。歩いて。


「ただいまー」


「おかえり。じゃぁ、帰ろっか」


 

 ギルドに戻って依頼終了を報告する。買取カウンターの倉庫につれてってもらって、闇沼から窒息したフォレストドラゴンを出して買い取ってもらう。

 息する系の魔物であれば、闇沼であっさり倒せるから楽でいい。完全に沈む前に暴れて逃げられることがあるので、今回みたいにルーさんと協力してスタン状態にしてから使うことにしている。


 買取カウンターのおじさんは、初日は驚いていたけどもう慣れたようで「それ便利だなー引っ越しの時に手伝ってよ」とか言ってる。頼まれれば吝かでもない。

 とりあえず、全部買取をお願いした。量が多いし、魔石とか部位によってオークションに出されるのもあるから、お金の支払いは、しばらくまってくれといわれた。

 生活できるお金が必要だったので、鱗を何枚か先に換金してもらった。

 残りは、いつでもいいので、全額孤児院と治療院に寄付してくださいとお願いしておいた。


 実は、孤児院と治療院には大きな恩があった。

 この街に来る前に、近くの道でお腹空きすぎて倒れていた私を孤児院を手伝ってる若い冒険者が見つけてくれて、治療院までお姫様抱っこで連れ行ってくれた。


 ちなみに、重要なことだから言うが、イケメンだ。若干ながら運命を感じている。

 しかしながら、私はこうゆうのが非常に苦手で、奥手というか・・・どうしていいかわからなくて、とりあえず側にいたり追っかけたりするぐらいしかできない。

 前のパーティでも、そうだった。結局好きと言えないまま、気がつくと闇魔法にのめり込みすぎて、気がつけば旅に出てた・・・私のバカ・・・。


 あと、なんで空腹で倒れていたかと言うと、良い感じの岩があったので、その上に座って、闇魔法を極めるために何も食べずに魔法全開で瞑想してぶっ倒れたようだ。記憶がうっすらとしかないが、すげーイケメンに抱っこされて、鼻血がでてないか鼻を気にしていたのを覚えている。




 思い出話はこの辺にして、さて今日は何をたべようかな。


「ねーねー、エリサー。今日は、ラーメンがいいなー」


「いいわ。じゃぁ、ラーメン食べ行きましょう」


 ルーさんは、ラーメンが好きで、訪れる街にあるラーメン屋は必ず入りたがる。

 私もラーメンは好き。とくに、イズミール王国の王都にある味噌ラーメン屋のはよく通ったなぁ。懐かしい。


 なんてことを考えながらラーメン屋を探して歩いていると、目の前にマッチョが倒れていた。マッチョは守備範囲外だったので、避けてラーメン屋を探す。


「まてって!普通、どうしたぐらい言うだろう、おい」


 ちょっと起き上がって、文句を言ってきた。

 失礼なやつだなぁと思ったけど、お、イケメンだ。けど、マッチョはなぁ・・・まだ守備範囲外だしなー。


「どうした」


「おせーよ。言われて言うなよ。あと、言ったからみたいな顔して、行こうとするなよ」


「ごめんなさい、私ラーメンを食べに行かなければいけないの、さようなら」


「まってくれ、頼む。俺も連れてってくれ。金を使い切っちまって何も食べてないんだ。頼む」


 典型的な駄目男臭しかしない。でも。


「別にいいわよ。ラーメンぐらい」


「えっ」


 すごい驚いている。別にラーメンぐらい。

 そもそもマッチョだし、剣まで持ってるんだから、ちょっと依頼でもやれば、すぐ稼げるでしょうに。か弱い女にヒモるのはどうかと思うけど、お腹すかせて動けないって言うなら、しょうがない。私も倒れたことあるし。つい最近。


「俺の名前はシウ、16歳だ。武者修行に追い出されて、行くあてもなくただ彷徨ってる。あんたは?」


 16だと、私よりも年下・・・急に守備範囲に入ってきやがった。しかし、マッチョは完全に範囲外・・・。

 それより、彷徨ってないで修行しなさいよ。


「私は、エリサ。この子はルーさん」


 すげー痛い子を見るような目でこっちを見てる。やめろ、その目、潰すわよ。


「やぁ、シウ。僕はルーだよ」


「この黒いの、喋ってるぅぅぅぅぅーーーーーーー」



 精霊は本来、普通の人には見えないようにしているそうだが、ルーさんはこのクマのぬいぐるみの形に出会ってからは、そうゆうこだわりは捨てたそうだ。この形のプリティな自分をみんなに見てもらいたいそうだ。実際可愛いから私は大好きだ。

 シウは、ひとしきり驚いてルーさんとじゃれあっている。めっちゃ仲よさそう。


「で、エリサ、歳は?」


 とりあえず、頭をひっぱたいておいた。 


「女性に歳を聞くのは失礼よ。あんたよりは年上」




 というわけで、マッチョなイケメンを拾ってしまった。

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