117 私は助けたい

 その後、シロから詳しい話を聞いたところによると、こういうことらしい。

 

 シロは大昔、森の守り神として人々に崇められていたそうなの。

 だけど、いつしか人々は信仰心を忘れて、森を穢し始めたんだって。それで、いつしか魔物が発生していって、外に溢れないように森の中に留めて置いたら、いつの間にか魔の森と呼ばれるようになってしまったそうなの。

 それで、長い年月が過ぎるうちにシロは力を無くしていって、消えそうになっていたんだって。

 でも、偶然森の中枢部分の汚れが薄いところに私が飛ばされてきたことで事態は変わったらしいの。

 

 私が、魔物を倒してキュアポーションを死体やその周辺に撒いたことで、森が浄化され始めたんだって。

 それに、マイホームの周辺の植物が元気になるようにポーションとか撒いていたことも浄化の手助けになったんだって。

 でも、浄化が終わっていないうちに私が森から出たことで、森の中の瘴気のバランス(?)が崩れてしまって、ベルディアーノ王国側に瘴気が溢れ出してしまったんだって。

 

 それと、シロが言っていた、もう一人のシロが暴れた所為で、魔物も活性化しているらしくて……。

 でも、マイホームがあった場所から、フェールズ王国側にかけては浄化は少しずつされていったらしいのよ。

 

 そこまで話を聞いた私は、ヴェインさんたちがここまで来てしまったことについて理解したけど、植物に捕らわれている状況については全くと言っていいほど納得いっていない。

 

 

「シロ、あの植物は何?知っているなら教えて」


 私がシロにそう聞くと、言いづらそうな表情と犬耳をぺたんとさせて言ったの。

 

「あれは、もう一人の俺が……。その……、たぶんだけど、ヴェインたちからシズヤの気配を感じて取り込もうとしたんだと……思う。だから、シズヤは、あれに触れたけど、下僕は拒絶されて指が飛んだ」


 シロの説明に私は、頭が真っ白になった。

 だって、私と関わったからヴェインさんたちが捕らわれたってことだから……。

 そもそも私がここに来なければ……、そんなことを一瞬考えたけど、起こってしまったことはもうどうしようもない。

 だから、私は何としてでもヴェインさんたちを助けないといけない。

 それに、私しかあの植物に触れないのなら、やってやろうじゃないの!!

 

「わかった。私はヴェインさんたちを絶対に助け出す!だから、3人には私のお願いを聞いて欲しいの」


 そう言った私は、かっちゃんと野上君とシロにお願いしたの。

 

「全員を助け出すまで、私に何があっても絶対に止めないで欲しいの」


 私がそう言うと、かっちゃんが猛反対した。

 すごく心配そうな顔で、私を止めてくれたけど、私はどうしてもヴェインさんを助けたかったから……。

 

「駄目だ!さっき、あれの所為で倒れたんだぞ!駄目に決まってる!!」


「ヤダ。私は、ヴェインさんを助けたいの。ヴェインさんに会いたいの。ごめん……。でも、心配してくれてありがとう」


「駄目だ、駄目だ……」


「ごめんね。もう決めたの。野上君、かっちゃんのことお願いできるかな?」


 私がそう言うと、野上君は困ったような表情だったけど、頷いてくれた。だから、私は何としてでもヴェインさんをアーくんを騎士の人たちを助けるんだ。

 

 

 私は、覚悟を決めて目の前の植物に手を伸ばした。

 さっきと同じように、触れた瞬間に体の中の力が吸い取られていくのが分かった。

 だから、可能な限り素早く植物を壊していった。

 

 次々と植物を壊していく。

 一人、二人、三人……。次々に、騎士の人たちを助け出す。

 だけど、まだヴェインさんもアーくんも助け出せていない。

 早くしないと、二人の命が危ないと思えば思う程、私の中の何かが植物に吸い取られていくようだった。

 

 巨大な植物は、残すところ二つ。

 あの二つの中に、ヴェインさんとアーくんがいると思うと、限界に近い私の体にまた力が湧いてきた。

 

 視界は霞んで、頭が割れそうに傷んだけど、力を振り絞って巨大植物を破壊する。

 砕いた茎の中から、肌の色が土気色になっていて、ぐったりとしたアーくんが見えた私は、力を振り絞って、植物から引っ張り出した。

 その瞬間、突然周囲の音が消えてしまった。

 一瞬不思議に思ったけど、それに構っている余裕はなかった。

 私の体は限界をとっくに超えていたから。

 だから、倒れてしまう前に、最後の植物を壊してヴェインさんを何としてでも助け出さないといけなかった。

 

 だんだん、距離感もよく分からなくなってきていたけど、最後の植物の茎を砕くように力を込めた。

 その瞬間、鼻の奥から生温かいものが流れてきたけど、気にしている余裕はなかった。

 それを手でぐっと拭って見ると、ぼやけた視界に映った手が真っ赤になっていた。

 だけど、そんなことどうでもよかった。

 今は……、今は……?

 

 あれ?私、何をしていたんだっけ?

 なんで、こんなに真っ暗なんだろう?それにすごく寒い……。

 何も聞こえない……。

 

 そうだ、私、誰かを……、だれか?だれだろう……、たいせつな……、だれか?

 

 そんなことを考えている私の指先が、冷たい何かに触れていた。

 

 なんだろう……、とても冷たい……。これはなに?

 その冷たい何かが、とても大切なものな気がした私は、その冷たい何かを手繰り寄せた。

 

 私は、そのまま後ろに倒れてしまって、冷たい何かが私の上に覆いかぶさっるように倒れてきたのが分かった。

 冷たい何かの下敷きになった私は、その冷たい何かになんとなく覚えがあった。

 

 それは、とても温かくて、優しくて、大切な……、たいせつな……。

 

 そこまで考えた瞬間、冷たい何かに熱を分け与えなくちゃいけない気がした。

 だから私は、いつの間にかステータス画面に表示されていた【譲渡】のボタンを押していた。

 

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