87 私と謎の感覚

 リーヴェルさんは、やっぱりヴェインさんとアーくんのお兄さんだったみたい。

 玄関先では失礼だと考えた私は、リーヴェルさんをリビングに案内してから改めて自己紹介をした。

 

 ちなみに、お花と手紙を持ってきた人は、いつの間にか居なくなっていた。

 かっちゃん曰く、どさくさで逃げられたらしい。

 

「改めまして、私は静弥です。ヴェインさんとアーくんにお世話になっています。えっと、リーヴェルさんとお呼びしても?」


「いや、私のことはリーヴェルお兄様と……、いや、リーヴェルお兄ちゃんと親しみを込めて呼んでもらって構わない」


 そう言ったリーヴェルさんだけど、顔を赤くして眉を吊り上げた様な表情でそう言ったのだ。

 うーん。もしかして、私のこと、どこの馬の骨とも分からない女に大事な弟たちの側に居られるのは心配だとか思われているのかも……。

 ここで、図々しく呼んだりしたら心象が瀑下がりしてしまうのではないかと思った私は、控えめに遠慮の言葉を口にしていた。

 

「えっと……、馴れ馴れしく呼ぶのは失礼になるので、リーヴェルさんと……」


 私がそう言うと、リーヴェルさんは、くわっと目を見開いたと思ったら、怜悧な刃物の様に鋭く睨み付けてきた。

 あまりの眼力に、ちょっとだけ身が竦んでしまった私に気が付いたヴェインさんが、リーヴェルさんにため息を吐きながら言っていた。

 

「はぁ。兄貴……、良い年した男がいつまでも女性に対してそんな態度では、妻を迎えることはいつになることやら……。女性に対して免疫がなさ過ぎなのもどうかと……」


「なっ!!お前こそ、女性の扱いに慣れすぎなのではないのか?」


「ちょっ!!兄貴!!その言い方は誤解を招くからやめろ!俺は普通の対応をしているだけだ!!慣れすぎなんて人聞きの悪い事は言わないでくれ!!」


「だがな……、お前は簡単に女性に触れるじゃないか?」


「なっ!!シズに誤解を与えるような言い方をするな!!男として女性をエスコートする範囲内での接触だ!!兄貴こそ、そのエスコートすらままならないじゃないか!!」


 よく分からないけど、二人が喧嘩を始めてしまっていた。

 リーヴェルさん曰く、ヴェインさんの女性の扱いに付いて、今までの事を思い浮かべながら考えて見ると、確かに接触が多いような気がしてきた。

 普通に受け入れていたけど、そう考えると元の世界にいたときでは考えられないような接触具合だった。

 ギュッと抱きしめられたり、頭を撫でられたり、手を繋いだり……。

 今までの接触を思い出したら急に恥ずかしくなってしまった。

 だけど、ヴェインさんの話からすると、これは一般的な女性の扱いってことだよね?

 さすが異世界……。

 でも、一般的な女性の扱いってことは、私にだけではなく、他の沢山の女の人達にもギュッとしたり、撫でたり、手を繋いだりしてきたってことだよね。

 

 そんな事を思った途端、何故かモヤモヤとした気持ちになっていた。

 なんだろう?

 お腹の空き過ぎでモヤモヤしてるのかな?

 でも、さっきまで感じていた空腹感は消えていて……。

 前にもどこかで感じたその不可解な感覚に首を傾げていると、かっちゃんが私の顔を覗き込んできていた。

 

「しず?どうしたんだ?」


「う~ん。よく分からないんだよね。なんか、もやもやするっていうか?」


「もやもや?もしかして腹減ったのか?」


「う~ん、そうなのかな?」


 私がそう言うと、かっちゃんが私の額に手を当てて首をひねっていた。

 

「熱はなさそうだが……?変な男が来たり、ヴェインの兄貴が押しかけてきたりで疲れたんだろう。今日は早く休んだほうが良いんじゃないか?」


「でも、みんなのご飯の用意が……」


「あ~、ソウが後やるから、お前はもう寝ろ」


「むぅぅ。お風呂入ってから―――」


「駄目だ。もし風呂場でぶっ倒れたらどうするんだ!今日はもう寝て、朝体調が良いようなら、朝に入ればいいだろう?そうしろ。じゃないと、無理やり寝かしつけるぞ?」


「ぷっ。なぁに?昔みたいに一緒に寝るつもりなの?もう、私そこまで子供じゃないよ?」


「はいはい。でも、お前が駄々こねるなら子供ってことになるから、仕方なく添い寝する」


「え~、ベッドが狭くなるからやだよ~」


「なら、さっさと寝ろ」


「はぁい。えっと、ヴェインさんとリーヴェルさんはまだ喧嘩してるみたいだけど……」


 未だによく分からないことを言い合って喧嘩をしている二人を横目に見た私がそう言うと、かっちゃんが肩を竦めて言ったのだ。

 

「あれは放っておいた方がいい類の喧嘩だ。だから、気にすんな。もし、本気でやばい喧嘩なら、今頃アグローヴェが止めてるさ」


「そっか、そうだね。かっちゃん、それじゃ後はお願いするね」


「おう」


 かっちゃんに後を任せた私は、そのままベッドに横になった。

 意外にも、直ぐに眠気がやって来て、私はそれに抗わずに眠りについたのだった。

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