78 彼女から贈られたアレが凄すぎなのだが……

 そんな中、何も言えず傍観していたうちの数人で、逃げ出すことを計画したのだという。

 チカコやその取り巻き連中は、誰も逃げ出せないように、力の弱いクラスメイトたちを牢獄に閉じ込めていたそうだが、そのうちの一人が義賊の鍵開けのスキルを上げ、もうひとりが結界師のスキルを上げて、結界を壊すことなく抜ける手段を手に入れたことで、チカコのやり方に反発する者同士で脱走することにしたのだというのだ。

 

 その脱走の際に、同じ様に牢獄に囚われていた大公家の人間を助けて一緒に逃げ出したというのだ。

 

 そして、王宮の外で機会を窺っていた貴族連中と合流して、国を出て隣国に助けを求めることになったのだという。

 そして、今に至ると……。

 

 そう、彼らは俺たちに言って聞かせたのだ。

 

 大公家の人間、ノートレッド・ベルディアーノは言った。

 

「我が国に蔓延る悪の殲滅に助力していただきたいのです。傀儡となった国王と、それを操る悪魔どもの討伐に力をお貸しいただきたいのです!!」


 そう言って、深く頭を下げたのだ。

 

 その言葉を聞いた俺は、大隊長と宰相閣下を見ていると、陛下が発言の許可をくれたのだ。

 

「俺は、シズが彼の国に攫われたから、あの国にいるチカコという人間をブチのめそうと思っているだけです。ですが、それで、彼の国が救われるというのなら、微力ながら力添えさせていただきたいと思います」


 俺がそう言うと、自分もだと言わんばかりにカツヒトが言った。

 

「俺は、静弥を傷つける千歌子をぶち殺すだけだ」




 こうして、あっという間に隣国に攻め入るための準備に入った。

 

 こんなにも早く戦争の準備が整ったのは、シズの商品を愛用していた貴族たちが、いち早くシズが誘拐されたことを知ったためだ。

 

 貴族たちは揃って、シズの奪還のために動き出したのだ。

 王都の民たちも、殆どの者がシズの商品に世話になっていたことから、口を揃えて出陣する王国軍に言ったのだ。



「シズヤちゃんを助けてあげて!!」


「あの子を早く助けて!!」


 民たちに見送られながら俺たちは、考えられない速度で進軍していた。

 港に用意されていた船に乗り、不思議なことに天も味方したかのようで、追い風の力もあって、通常の半分の時間も掛からずにベルディアーノ王国に攻め入ることとなった。

 

 後は、疲弊した民たちに俺たちを遮ることは出来ず、あっという間に王宮にたどり着いた。

 王宮に着いた時、話に聞いていた通り王宮には結界が張られていたが、大した問題ではなかった。

 

 シズのクラスメイトの一人が、出陣の際に、俺が手に持っていた槍を見て言ったのだ。

 

「お兄さん……。すっ、すごい武器を持ってますね……。ちょっと見せてもらっても?」


 そう言われて、以前魔の森に居る時にシズにもらった槍を見せることになった。

 俺から槍を受け取った男は、さらに槍を詳しく観察してから驚いた表情で言った。

 

「は?凄すぎなんだけど……。攻撃力15%UPと状態異常無効……、しかもよく見ると効果範囲が桁違いだ……。この槍を持っていれは近くにいる味方は疫病に掛からずに済みそうですよ……。それと……、この素材って……。ダマスカス鋼みたいですけど……」


 そう言われた俺は、シズから聞かされていなかった付与効果に驚きつつも素材について頷いていた。

 

「ああ、彼女からダマスカス鋼で作ったと聞かされたが?」


 それを聞いた男は、目を剥いていた。

 

「やっぱり!!勝った!!この戦争勝った!!」


 男の謎な言葉に首をひねっていると、近くにいたソーが助け舟を出してくれたのだ。

 

「ヴェイン兄さん?お困り?」


「ああ……。彼がな……」


 そう言って、今までのやり取りをソーに聞かせると、ソーは爆笑していた。

 

「おい!!こんな時だというのに」


 俺が、ソーの余りにも場違いな大笑いに彼を責めるように言うと、ソーは目の端に溜まった涙を拭って言ったのだ。

 

「静弥ちゃん、マジで天使だし。この槍って、静弥ちゃんのお手製?」


「ああ、そうだが?」


「静弥ちゃんからは何か聞かされてた?」


「いいや……。俺もたった今、付与効果を聞いて驚いてるところだ」


 俺がそう言うと、ソーはとんでもないことを言ったのだ。

 

「はは~ん。なるほど……。って事は、静弥ちゃんもこの効果には気が付いていないのかな?それとも……。まぁいいか。あいつが言っていたのは、サポート効果についてだ。これは、武具の所有者が決まった後にランダムで付与される効果なんだけど、通常は空欄になるんだよね~。ランダムだから、スカを引くことが多いんだよ。でも、ダマスカス鋼で作った武器は別ね。カスを引くのは低確率で、高確率で何らかの効果が付与されるんだけど……。んで、今回ヴェイン兄さんの槍に付いているサポート効果なんだけど……。切れ味∞になってるんだよね……」


 ソーの言っている意味が分からずにいると、慌てたように説明を続けてくれた。

 

「つまり、何を斬っても突いても、切れ味は落ちないってこと。つまり……」


「穿てない物はないという事か?」


「そそ。だから……」


「チカコが張ったという結界も」


 そこまで言った俺とソーは、声を合わせて次の言葉を言っていた。


「破れるってこと」


「この槍なら破れる」


 こうして、シズからもらった槍のお陰で、結界を壊して突き進み彼女の元にたどり着いたのだ。

 しかし、シズが攫われて、二週間もの時が経ってしまっていた。

 

 王宮にたどり着き、エレンから一番厳重に結界が張られている場所を聞き出した俺達は、その場所に向かって一直線に駆け出したのだ。

 

 厳重に何十にも張られた結界を壊して中に入ると、力なく体を弛緩させる黒い毛に覆われた生き物が目に入った。

 

 それがシズなのだとなんとなく分かった俺は、目の前が一気に赤く染まっていた。

 虚ろに開かれた目から止めどなく流れる涙と、頭を覆う結界から直ぐにシズが危険な状態にさらされていることが分かった俺は、シズの近くに立つ女を押しのけていた。

 そして、シズの頭に張られた結界を破って、彼女を助け出したのだ。

 助け出したシズは呼吸をしていなかった。

 俺とカツヒトは、必死にシズに縋り付いていた。

 

「シズ!!行くな!!戻ってきてくれ!!目を覚ましてくれ!!息をしてくれ!!シズ、シズ!!!」


「静弥!!静弥!!息を吸え!!静弥、頼むから息をしてくれ!!」


 すると、微かに彼女の指先が動いたことに気が付いたのだ。

 ボロボロになっている指は、左の小指以外が全て折れていた事に気がついて、俺は泣きそうになった。

 

 こんなになっても、生きてくれていたことが嬉しくて、こんな風にシズを傷つけたチカコが憎くて、頭がおかしくなりそうだった。

 

 そんな俺を、シズの咳き込む声が引き戻してくれたのだ。

 

 咳き込むシズの背中を擦り、抱きしめていた。

 

「シズ!!シズ!!もう大丈夫だ!ゆっくり、ゆっくり息を吸うんだ」


「静弥!!大丈夫だから、ゆっくり息をしろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る