77 彼女を取り戻すため殴り込みに行こうと思う

 時は、シズが攫われた直後に遡る。



 


 目の前でシズを連れ去られた俺と克人はすぐさま行動を起こしていた。

 俺と克人の意見は一致していた。

 シズが、ベルディアーノ王国に連れ去られたということにだ。


「あれは千歌子の仕業で間違いない。多分、静弥を飛ばした時のスクロールをまだ持ってたんだ。でも、どうして静弥の居場所を……。はっ!」


「恐らく、コゼェーニィが商売を邪魔する相手として報告していたのだろうな……」


「ちくしょう!!寄りにもよって、クラスの奴を使って近寄るなんて……。俺の失態だ……」


「それは俺も同じだ。だが、今は行動あるのみだ」


 そう言って、俺は中隊本部に向かって駆け出していた。

 カツヒトは、ソーを呼んでくると言って、滞在している宿屋に向かうため途中で別れていた。

 

 中隊長の執務室に入るなり、俺は言っていた。

 

「中隊長、大変申し訳無いのですが、私情で隣国に殴り込みに行かなければならなくなりました。国や騎士団にご迷惑をかける訳には行きませんので、補佐官の職務を辞職させていただきたく参上しました。それでは急ぎますので!」


 そう言って、そのまま執務室を出ようとした俺を、中隊長が引き止めていた。

 

「ちょっ!!待て待て!!どういうことだ?ベルディアーノ王国に殴り込み?そりゃ駄目に決まってんだろうが!!筋を通そうとしたことは良しとするが、そんな事したら―――」


「シズが誘拐されたんです!!彼女を助けるためなら俺は!!」


 俺が中隊長にそう言うと、それまで困った表情で俺を止めていた中隊長の顔色が変わっていた。

 少し震えるようにしてから、顔色を変えていた。

 

「それって……、ガーメトゥ商会から襲われた嬢ちゃんかよ……。ちょっ、待て待て!!こんな事姉貴に知られたら、血の雨が降るに決まってる……。それに、貴族連中には、嬢ちゃんの売ってる商品を愛用しているやつも多い……。あああああ~~~~~!!一大事じゃねぇかよ!!大隊長に報告……、いや陛下にもか?」


 そう言って、つるつるの頭を掻きむしる様な仕草で頭を抱えたのは一瞬で、中隊長は表情を険しいものにして俺に有無を言わせぬ雰囲気で王宮に付いて来るように言ったのだ。

 

 王宮に向かう途中、フル装備のカツヒトとソーに出会した。

 中隊長は、彼らにも有無を言わせぬ雰囲気で付いてくるように言ったのだ。

 

 そして、王宮に到着すると、直ぐに応接室に通された。

 応接室には既に国王陛下と宰相閣下がいらっしゃったのだ。

 俺たちに少し遅れて、大隊長が二人の人間を伴って入室してきた。

 

 大隊長に連れられた男を見て、カツヒトとソーが驚いたように声を上げていた。

 

「お、お前!!」


「ちょ!どうしてここに?」


 至るところに包帯を巻き、松葉杖で体を支えるそのその男は、暗い声で言ったのだ。

 

「千歌子のやつ……、あの国をメチャクチャにしやがった……」


 部屋に入ってきたのは、シズたちと一緒にこの世界に召喚されたうちの一人だった。

 そして、もう一人は、ベルディアーノ王国の大公家の人間だった。

 

 彼らは、俺たちに言ったのだ。

 チカコという女の数々の悪行を。それは、悪魔のような所業だった。

 

 

 

 初めは、世話をしていたメイドが被害にあったのだという。

 カツヒトとソーが自分の静止も聞かずに飛び出したことが相当気に食わなかったようで、世話をするために付けられたメイドを罵り痛めつけたそうだ。

 それに飽き足らず、何らかのスキルを使って王宮にいる人間をいいように操り出したのだというのだ。

 

 それが次第にエスカレートしていき、贅沢な暮らしを要求し、宝石や絹のドレス、希少な食材の料理を求めていったのだという。


 けれど、宝石の色が気に入らない。ドレスのデザインがダサい。料理が美味しくない。

 

 そんな事を言って、次々に高価なもの、希少なものを要求していき、その結果国庫の金を湯水のように使いだしたというのだ。

 

 王宮の人間は、王も含めて殆どの人間が操られていたのか、チカコを諌める者は誰もいなかったのだという。

 

 初めの頃は、諌める者もいたそうだ。

 しかし、チカコやその取り巻き達は、強力な力を持つものが多く、逆らうものは次々に見せしめに殺されていったのだそうだ。

 

 そんな事を続けていれば、当然国庫は空になった。

 しかし、チカコは言ったそうだ。

 

「それなら、税金を倍にして搾り取ればいいのよ。それに、商人や貴族ならお金を持っているでしょう?そいつらから奪えばいいのよ」


 そう言って、重税を課し、貴族や商人から金を毟り取り、贅沢に染まった暮らしに浸ったというのだ。

 

 日々の暮らしが苦しくなった民は、そうそうに国を逃げ出したのだという。

 

 その中には、低賃金で下水の処理を請け負っていたスラムの者も多くいたそうで、下水の処理をする者がだんだんと居なくなったことで、街中に汚物が散乱する事態になったそうだ。

 処理場は糞尿で溢れ、終いには窓から外に捨てる者も出てくる始末だったという。

 

 その不衛生極まりない状況から国中に疫病が蔓延。

 

 何の対策もしない国に、まだ国に残っていた民達は見切りをつけて逃げ出そうとしたが遅かったのだ。

 国を回す人手が無くなるのを恐れたチカコが、大きな結界で国を覆ったのだというのだ。

 逃げ出せなくなった民は、疫病に蝕まれて死を待つ者、なんとしてでも結界の穴を見つけて逃げ出そうとする者と様々だったそうだ。

 

 だが、チカコとその取り巻き達は、自分の身可愛さに王宮にだけ病気除けの結界を張り、疫病から逃れたのだという。

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