制裁編

75 私は檻の中で……

 どれくらいの時が経ったのか、私は分からなくなってきていた。

 檻に入れられてから、千歌子ちゃんの気まぐれで、殴られたり、焼かれたり、斬られたり……、そんな事を繰り返しされていた。

 バグったステータスのお陰で、少し痛いと感じるくらいで済んでいた。

 ゲーム内でもゴリラスキンでずっと過ごしていたため、千歌子ちゃんは、この姿がスキンだとは思っていないみたいで、私のことを種族自体がゴリラになったんだと思っているみたいで、元の姿に戻るようにと強要されることが無かった事が救いだったと言えた。

 

 でも、どんなに痛めつけても大したダメージになっていないと知った千歌子ちゃんは、次の行動に出ていた。

 

 それは、私を寝かせないようすることだった。

 少しでも眠りそうになると、冷水や熱湯を掛けられて目が覚めるということを一日中繰り返された。

 最初は、それで目が覚めていたけど、次第に体が慣れてきて、冷水や熱湯を掛けられてもウトウトすることが多くなってくると、さらなる行動に移したのだ。

 

 私が少しでも眠ると、私が眠らないように監視している人を痛めつけるようになったのだ。

 

 少しでも意識が遠くなると、私を監視していた人の指を潰されたり、酷い時には目を抉ったりと、その行動はエスカレートしていったのだ。

 

 私は、それが嫌でなんとしてでも眠らないようにしようと、眠気に抗った。

 眠りそうになったら、自分の指を折って、その痛みで眠らないようにしたのだ。

 

 それを見た千歌子ちゃんは、表情を歪めて私に言ったの。

 

「ふん。こんな時でもいい子ぶるの?あんたのそう言うところほんと大っ嫌い!!でも、いつまで持つかしらね?手の指を全部折ったら次は足の指かしら?折る指が無くなったら、どうするのか見ものだわ」


 千歌子ちゃんは、そう言ったけど、私は自分のためにこうしているだけで、全然いい子なんかじゃないよ。

 私は、自分が傷付いたほうが楽だという理由でこうしているだけなのだから。

 

 でも、食事も睡眠も取らない状態が続いた私は、限界が近づいているのが分かった。

 

 このまま眠ったら楽になるのかな?

 そんな事を考えては、ヴェインさんやアーくん、かっちゃんの事を思い出してなんとか踏みとどまっていた。

 

 

 

 そんなある日、私が閉じ込められている部屋の外が騒がしくなっていることに気が付いた。

 眠気と痛みでぼーっとする頭では何も考えられなかった。

 

 虚ろな目で天井を見つめていると、扉が開く音が聞こえた。

 緩慢な動きで扉の方を見ると、怒った顔をした千歌子ちゃんが部屋に入ってくるのが見えた。

 

「なんでよ!!どうしてなのよ!!」


 そう言って、扉を閉めてから部屋に結界を張ったのだ。

 不思議に思い、千歌子ちゃんを見ていると、近くにあった物を私に投げつけながら喚き出したのだ。

 

「どうしてこうなったのよ!!私は、この国の支配者になったのよ?!誰も私に逆らえないのに!!なんで?どうして?全部全部あんたが悪いのよ!!この疫病神!!」


 千歌子ちゃんが、口から唾を飛ばしながらがなり立てていたけど、何も考えられない私は、無反応にそれを見ていることしか出来なかった。

 だけど、千歌子ちゃんはそれが気に入らなかったみたいで、青筋を立てながら私に殺意を向けてきたのだ。

 

 今まで甚振るだけで、真正面から殺意を向けられることはなかった。

 だけど、今の千歌子ちゃんは本気で私を殺したいと思っている事がヒシヒシと伝わってきた。

 

「あんたが死ねば全部うまくいく!!だから、死んで!!死ねよ!!」


 ストレートに気持ちをぶつけられた私は、よく分からない涙が溢れて止まらなかった。

 どうして涙が出てくるのかも分からず、ただただ虚ろな目から涙が止めどなく溢れていた。

 

 だけど、千歌子ちゃんは、そんな私の事が気に食わなかったみたいで、炎のような焼け付くような視線で私を見て言ったのだ。

 

「何よ?同情?あんたに同情される筋合いなんてない!!何よ、私から克人君を奪っておいて、良い気になって!!あんたなんて消えればいいのよ!!」


 そう言った後、千歌子ちゃんは歪んで引き攣れたような笑顔を浮かべながら、私に言ったのだ。

 

「静弥、精々苦しんでね」


 そう言った後、いつかの女性のように私の頭部にだけ結界を張ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る